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正義のヒロインは魔王様!?〜巫女見習いと元魔王が紡ぐ絆物語  作者: 石島マコト
第3章

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第041話 求められざる偶像

 Gracie(グレイシー)Stella(ステラ)のミニライブ翌日。今日はGracie☆Stellaの活動は完全にオフ。ライブ前最後の休息の時間。

 だが艶美は、今週末にライブが行われる“美多摩(みたま)海浜アリーナ”の傍までやって来ていた。


 別に会場の下見というわけではない。それならもうすでに済ませてある。ユニットのメンバーやマネージャー、スタッフたちと共に。

 ではオフの今日、何故自宅からも離れたこの地にわざわざ足を運んだかと言うと――


『いやー、やっぱ海はサイコーよねぇ♪』


 昨夜から彼女の心の中に入り込んでいる存在の仕業である。自らを“嫉妬”を力に変える者と称した異形の女性に勝手に身体を操られ、艶美はここまでやって来たのだ。


「う……ん……? あれ……? こ、ここは……?」

『海だよ海。艶美ちゃんも好きでしょー?』

「う、海!? ま、また勝手に私の身体を操ったのね!? いい加減にして!」


 艶美は昨夜から何度も、操られては解放され、解放されたかと思えばまた操られて、を繰り返していた。


『せっかく海に来たんだしぃ、そんなつれないこと言わないで楽しもうって♪』

「…………」


 艶美も、海が好きだというのは否定しない。だからと言って好き勝手に身体を操られて連れてこられても喜べるはずもない。むしろ好き勝手されることに辟易していた。


「ていうかいい加減出ていってちょうだい! あなたの力を借りる気なんてないから!」

『もう、遠慮なんてしなくていいのにぃ〜』


 もう何度目になるだろうか。何度拒否しても、レヴィアは諦める気配がない。


『そうそう。話は変わるけど艶美ちゃん、アンタって願掛けとか信じるタイプ〜?』

「願掛け……?」


 本当に脈絡がないな、と艶美は思う。願掛けというと神社へお詣りに行って御守りを買ったり、絵馬を書いたり、ということだが……


「……そういう神頼みは努力不足の人がするものでしょう? 遠慮しておくわ」

『ありゃりゃ、ほんっとにおカタいわねぇ。もうカッチカチ。ま、そーゆーとこも嫌いじゃないケド。キャハッ♪』


 愛奈とはまた別のベクトルで癇に障るタイプだな、と艶美は思う。しかし苛立ちを露わにしたところでレヴィアが出ていくわけではない。


『でもぉ……艶美ちゃんが行きたくなくても、アタシは用事があるから向かうわよん♪』

「なっ……!?」


 軽々しい口調で勝手にこの後の行動を決められ、そして再び意識を奪われてしまう。“嫉妬”を司る異形によって。


 艶美の意識と無意識の境界が着実に曖昧になっていく――




 虚ろな目をしながら歩くこと数十分。艶美たちが辿り着いたのはこの美多摩市に古くから存在する神社だった。


 ここで艶美の意識がはっきりとする。


「……えっ!? こ、今度はどこ!? じ、神社……?」

『あーもう。つっかれたぁ……』


 意識が戻るとすぐ、彼女の脳内に声が響いた。どうやら意識を奪われている間に海から神社へと移動させられていたらしい。先ほどレヴィアが言っていた願掛けとはこのことか、と艶美は思う。


『アンタ、いい加減私を受け入れなさいよー! 受け入れてくれないと操る労力増えるんだからぁ!』


 理不尽だ。そんなに文句があるのなら(はな)から操らないでほしい。そう思う艶美。


「あ、あなたこそいい加減にして!

 私の身体はあなたの物じゃない! 今までも、これからも!」


 必死にレヴィアを拒絶する艶美。だが、言葉でなんと言おうとレヴィアには通じない。彼女は艶美の心を見透かしているのだから。


「だ、大体、どうしてこんな場所に……」

『それはアタシたち「魔族側」の事情よん♪ ……あのじゃりン子がこの辺りに潜伏してやがるっていうから』

「じゃりン子……?」


 艶美にはレヴィアの話がいまいち理解できなかった。特にじゃりン子が。ジェネレーションギャップかもしれない。


『あと、ベルゼのマヌケがやられちゃったのもこの辺りだって言うしー』

「ベルゼ……?」


 知らない名前まで登場し、艶美の脳内はさらに混乱。


『まぁまぁ。そんなことより艶美ちゃん、早く私を受け入れなよ〜』

「い、嫌よ! あなたなんかに頼るくらいなら、まだ神頼みの方が何倍もマシよ!」


 先ほどは神頼みを否定したが、それでも魔族なんかに頼るよりはよっぽどマシ。なんならこの女が心の中から出ていくことを願ってもいい。艶美はそれほどまでレヴィアを疎ましく思っていた。


 レヴィア頼みではなく神頼みをするため、艶美は授与所へ寄り、絵馬を購入。そして筆を取り、願いを思い浮かべる。


「願い……私の願いは…………」


 そう呟いた時、艶美はレヴィアの笑い声を聞いた気がした。そしてほんの一瞬――本当に短い時間だけ頭に(もや)がかかったような感覚が。


 ――彼女が気付いた時にはもう、絵馬に願い事が書き込まれていた。


『愛奈を蹴落とせますように』――


「……あ、あれ? どうして私、こんな願い…………」

『キャハハ! やっぱりそれが艶美ちゃんの願いなんだねぇ♪』

「ち、違っ……! あ、あなたが私を操って……!!」


 常に操るのではなく、一時的に意識を奪う揺さぶり攻撃。自分の本当の意思なのか、レヴィアに操られた結果なのか。艶美の中でその境界がさらに曖昧になる。


『さぁさぁ艶美ちゃん。この絵馬っていうのは願い事を書いたらここに掛けていくんでしょ?』

「…………や、やっぱり駄目! こんなことを、神様にお願いするなんて……!」


 愛奈に負けるのは悔しい。大した努力もしていない彼女に負けるなんて嫌。

 だが、どれだけ悔しいと思っていても、愛奈は一緒にパフォーマンスをする仲間。蹴落としたいと願うなんて絶対に間違っている。艶美のその想いは変わらない。


「あ、あの〜、何かお困り事ですか?」


 ――ビクッ。


 絵馬掛けの前で葛藤する艶美。そんな時に不意に声をかけられ、思わず身体が跳ねた。そのせいで絵馬を落としてしまった。――愛奈への嫉妬を露わにした絵馬を。


 慌てて絵馬を拾い上げると、声の主も拾おうとしているのが見えた。声の主は一人の少女。

 巫女装束に身を包んでいるが、神社の巫女にしてはやけに幼い。艶美には中学生くらいに見えた。


 ――しかし、今はそんなことはどうでもいい。


「……み、見た?」

「えっ!?」

「絵馬の内容! 見たかって訊いてるの!」


 声を荒らげる艶美。全身黒尽くめで変装しているとはいえ、アイドルらしからぬ態度。絵馬の内容が漏れずとも、この態度が世間に露見したら炎上は避けられないだろう。


「い、いえ……。よく見えませんでした……」

「そう……。ならいいわ」


 少しだけだが胸が軽くなる。だが長居すれば正体がバレてしまうリスクが高まる。そう判断した艶美は両腕で包むように絵馬を抱え、少女の前から走り去った。

 背後から少女の声が聞こえたが、今の艶美には耳を傾ける余裕などなかった。




「ハァ……ハァ……ハァ……」


 艶美は日々ダンスで鍛えている。とはいえ、30度近い中、全身を真っ黒なニット帽やマフラー、ロングコートに包み、しかも走りにくいロングブーツで全力疾走というのはさすがに堪えた。


『あらあら、艶美ちゃんったら汗だくじゃない。もう脱いじゃったら?』

「ハァ……ハァ……。そ、そんなことしたら、私がアイドルだってバレちゃうでしょう……?」


 彼女は今を時めく超人気アイドル。田舎町とはいえ、身バレするわけにはいかない。


『私を受け入れてくれたらぁ、目撃者だって簡単に消せちゃうわよぉ?』

「ぶ、物騒なこと言わないで!」


 目撃者は消せばいい。魔族だからこその恐ろしい発想。当然だが艶美は同意できない。


「…………ハァ。とりあえず帰ろうかしらね。この街、私の家からかなり遠いし……」

『悪いけどぉ、せっかく来たんだし、もうちょっと付き合ってもらうわよん♪』

「え…………」


 抵抗する間もなく、艶美の意識は奪われる。次に彼女が意識を取り戻したのは彼女の家の最寄り駅だった――




「また私の意識を……。いい加減やめてちょうだい」


 知らぬ間に家の近くまで移動していた艶美は、自分の中にいる存在に抗議する。


『ええー、いいじゃない。気付いたら移動が終わってるって楽チンでしょー?』


 そういう考え方もあるかもしれないが、艶美は移動時間も有効活用するタイプ。レヴィアの考えには賛同しかねる。そもそも意識を奪われること自体、受け入れ難いのだが。


「移動時間にだってやれることはあるの。だからもう邪魔は……」

『そ〜んな努力したってぇ、あのコには勝てないのにぃ?』

「ッ……!」


 本当に嫌な女――艶美は心底そう思った。しかしそれも、魔族だから当然だろう。


「なぁお前、昨日のグレステの配信観たか!?」

「おう、観た観た! 今回もすっげぇ良かったよなー!」


 自宅へと歩みを進める艶美の耳に、グレステのファンと思しき少年たちの声が届く。気にしないフリをしつつも、耳を傾けてしまう。


「今回も愛奈ちゃんが可愛すぎて……! マジで尊死するかと思ったぜ」

「だよなー! やっぱ愛奈ちゃんだよなー!」

「そうそう! マジで愛奈ちゃんしか勝たん! って感じ」

「バッカ! お前それもう(ふり)ぃよ。ま、気持ちはわかるけどな!」


 それはファンたちの、何気ない会話。普段ならスルーできる。決して本気になんてしない。だが、今の艶美の心を抉るには十分すぎる威力があった。


「愛奈……愛奈……」

『おんや?』

「みんな、愛奈愛奈愛奈って…………!!」


 徐々に、艶美の抑え込んでいたものが溢れていく。


『キャハハ! そうそう。みんなアンタのことなんて見てない。見てるのは愛奈ってコのことだけ!』

「くっ……!」


 否定したいが否定できない。そんな事実が突き刺さる。レヴィアが言葉にする度に、強く、深く。


『アンタの努力なんて誰も見てない。アンタの努力なんて、あのコの才能の前じゃな〜んの意味もない!!』

「ッ……!!」


 突き刺さった言葉は、艶美の奥に眠る嫉妬心を抉り出す。


『だ・か・らぁ……一緒に壊しちゃお? アンタの努力を無意味にしてるあのコも、アンタの努力に目もくれない愚かな有象無象(ファンたち)も。みぃ〜んな、ねっ♪』


 艶美の心の亀裂に入り込むべく甘く囁く。ヒビ割れた心の艶美にはもう、レヴィアを拒絶し続ける余裕は残されていない。


 ――もう受け入れる他ない。


「……あなたを受け入れたら……本当に助けてくれるの…………?」

『えぇ、モチのロンよぉ♪ バッチリアンタを助けて、願いも叶えてあげるわぁ♪』


 愉悦に満ちたレヴィアの声。この声が艶美の、最後に聴いた声となった――

お読みいただきありがとうございました。

続く第42話も投稿しております。よろしければお読みください。

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