第038話 初めてのライブ鑑賞会
『先程からずっと、スマホとやらを弄っているが……何をしているのだ?』
今夜はトモちゃんから教わったGracie☆Stellaのミニライブ配信がある。だけど、予備知識が全くない状態で観ても十分に楽しめない。そう考えた私は、ライブが始まる前に彼女たちについて簡単に調べていた。
「トモちゃんに教えてもらったアイドルについて調べていたんです」
『朝に話していた奴か。確かグレイビースケア……だったか?』
「グレイシーステラですよ! 何ですかグレイビースケアって……」
肉汁を怖がらせてどうするんですか、ルーシーさん……
私以上に置いていかれているルーシーさんはさておき、ネットで調べた情報を整理してみようかな。
非常にレベルの高いルックスと歌唱力、ダンス力を兼ね備えた、現役高校生三人組のアイドルユニット――それがGracie☆Stella。
センター・“千房愛奈”。金髪ロングにピンク色の瞳の女の子。髪型のバリエーションは結構多いみたいだけど、その中でもポニーテールにしていることが多いみたい。イメージカラーはピンク。
三人の中でも特に人気で、「天才」とか「天性のアイドル」と呼ばれているみたいだね。確かに凄く可愛い人だと思う。写真は加工されているのかもしれないけど、それにしてもキラキラと輝いている。
二人目のメンバー・“志藤艶美”。ライトブルーのウェーブロングが特徴的。イメージカラーは青。
一見物静かでクールな印象だけど、いかにもアイドルらしい可愛い曲からカッコいい系の曲まで、幅広いジャンルに完璧に対応するレベルの高さを持っているみたい。
一部ファンの間では「努力の鬼」なんてあだ名で呼ばれていたりもするとか。アイドルなのに鬼。可愛らしい見た目からは想像が付かないよ……
最後の一人・“仲田立花”。ダークグリーンのボブカットの女の子。イメージカラーは緑。
総合的なパフォーマンス力も高いけど、彼女の能力で特筆すべき点はトーク力。バラエティー番組に出演した時やライブ中のМC等で彼女はその真価を発揮しているみたい。
アイドルに明るくない私でも、彼女たちが大人気だということに不思議と納得がいった。それくらいどのメンバーも魅力的に映った。
彼女たちに憧れてアイドルを目指している子も結構いるみたいだし、男性からだけじゃなく、女性からも愛されている存在なんだね。
ネットサーフィンで彼女たちの情報を集めているうちに、配信の時間がやってきた。
『みんなー、今日は集まってくれてありがとー!!』
真っ先に声を発したのはピンクの衣装に身を包んだ金髪ポニーテールの女の子。確か千房愛奈さんだ。
画像で見るのとはやっぱり違う。動き、そして話している姿を観るとより彼女の笑顔が輝き、イキイキとしているように感じる。
『いつも応援してくれてるみんなも、初めて観るっていうそこのあなたも、今日は楽しんで行ってねっ♪』
画像で見た時はもっとクールで低い声をイメージしていた志藤艶美さん。だけど実際に声を聴くと、透き通った綺麗な声。そして笑顔もイメージとのギャップがあり、愛奈さんとはまた違った魅力が感じられた。
『ほな早速やけど、ウチらの新曲、聴いてもらおか! Twinkle Emotion!!』
仲田立花さんの合図でライブが幕を開ける――
『中々楽しませてもらったぞ』
ミニライブということもあり、配信はあっという間に終わってしまった。余韻に浸っていると、頭の中にルーシーさんの声が。
『「推し」という文化は興味深い。特に「愛奈推し」と「艶美推し」のコメントによる衝突劇はどのように決着するのか。見ていてハラハラさせられたぞ!』
「どこを見て楽しんでいるんですか!? ちゃんとライブの方を観てください!!」
楽しみ方は人それぞれだ。だけど、さすがにファン同士のコメントバトルを眺めて楽しむというのはアイドルのライブの楽しみ方としては間違っている……と思う。たぶん。
『フッ、冗談だ。だが……これがアイドルというやつか』
「どうかしたんですか?」
何か含みがありそうな、そんな口調。
『いや……思い過ごしだろう。「奴」の場合はこの娘たちと違い、魅力など1ミリも感じなかったしな。喧しいだけで』
「『奴』……?」
ルーシーさんの言う、「奴」とは一体誰のことなんだろう? あまりいい印象は抱いていないみたいだけど……
『まあ気にするな。それよりもお前はどの娘が「推し」になったんだ?』
「お、推しですか?」
まさかルーシーさんの口から推しなんて言葉が出てくるとは思わなかった。意外な言葉に一瞬だけ面食らってしまう私。だけどすぐに気付く。
もしかしてルーシーさんは「推し」という言葉を使いたいだけなんじゃないか、と。覚えたての言葉を使いたがるアレだ。
『そ、そんなことはないぞ? 単にお前はどういう奴が好きなのか気になっただけだ。他意はないぞ、他意は』
「本当ですか〜?」
彼女の性格を考えるとイマイチ信用できない。視線を逸らしたり、目が泳いでいる様子が脳裏に浮かぶ。心の中にいるから見えないけど、きっとそんな反応をしているはずだ。
『よ、良いだろう!? 言葉というのはこうやってすぐに使い、反芻することで定着していくものなのだ!!』
「い、言われてみれば確かにそうかも……?」
勢いに任せて言っているだけかもしれないけど、妙に納得がいってしまった。
『それよりも舞桜、私の質問に答えるんだ。お前はどいつが気に入ったのだ?』
「うーん、そうですねぇ……」
上手く言えないけど、みんな凄かった。それが正直な感想だけど、誰が一番良かったと思うかと訊かれたら私は――
「この青い髪の……艶美さん、ですかね」
『ほう。なるほどな』
「な、何ですか?」
『いや、真面目なお前らしいと思っただけだ』
そうかな? というかそれって関係があるのかな? ルーシーさんの考えがわからない。
「そういうルーシーさんは誰がいいと思ったんですか?」
『私か? 私はこいつだ。この緑の……立花といったか』
これは正直意外だった。ルーシーさんのことだから、最も目立っていた愛奈さんを選びそうだったのに。
……いいや、もしかしたら目立っているからこそ、謎の対抗意識を抱いて気に入らなかったのかもしれない。
「どうして立花さんを?」
『こういう場を上手く回せる話術を持っている奴は部下にすると頼もしいからな』
「どんな目線でアイドルを見ているんですか……」
ルーシーさんの基準はやっぱりわからない。私の想像の斜め上を行く。
『お前こそ実のところ、何故艶美を選んだのだ?』
「艶美さんを選んだ理由ですか? それは――」
私が艶美さんを選んだ理由、それは。彼女は「努力の鬼」と評されるほどの努力家。それは今夜の短時間のライブでも感じ取れるほどだった。
曲の合間のトークでも言葉の端々からストイックさが。そしてそのストイックさは彼女のパフォーマンスにもしっかりと表れていた。三人の中でも抜群だった歌声の安定感やダンスのキレ。絶やさぬ笑顔。
そう。私は彼女の努力――そして努力に裏付けされた実力に心を打たれたんだ。
お読みいただきありがとうございました。
続く第39話も投稿しております。よろしければお読みください。




