第037話 Gracie☆Stella
スカイ・ベルゼとの戦いの反動で体調を崩してしまった私たち。結局2日間も学校を休むことになってしまった。
「本当にもう大丈夫なんだね?」
「うん。熱もちゃんと下がったし、もう大丈夫だよ」
まだ心配そうなお祖母ちゃんを安心させ、学校へと向かう。道中、私は「あること」を完全に失念していたと気付く。
「そう言えば街、滅茶苦茶にされていましたよね……」
『ああ。ベルゼの手下共に派手に破壊されていたな』
時間にはまだ余裕がある。酷い有様だった商店街は特に気になる。少し遠回りになるけど、様子を見てから登校しようかな……
そう思い立った私は、商店街の方へ歩みを進めていく。すると、制服を着た大人たちが何人も集まっているのが見えた。当然、制服といっても学生服じゃない。警察や消防、自衛隊のものだ。
しかし、そんな大人たちの中に制服以外の人たちも。狩衣――先日、スカイ・ベルゼと戦った現場にもやって来た和装の集団。この現場には似つかわしくないだろうに、どうして……?
私が脳内に疑問符を浮かべていると、どうやら心の中の魔王様も同じだったみたい。
『あいつらは一体何者だ? 瞬のやつと似た服を着ているようだが……』
「わかりません……。神主や陰陽師の服装に似ているんですけど、こんなにたくさん集まっている理由も、こういう現場にいる理由も見当が付かなくて……」
私はこの地域の神主全員と顔見知りというわけじゃない。でも何人も神主がいて、その中に一人も見知った顔がないというのは違和感がある。ということはあの狩衣集団は神主じゃなくて陰陽師……?
でも、明治時代の陰陽寮の廃止以降、陰陽師の数はかなり減っているはず。それなのに十数人から数十人単位で集まり、しかもこんな風に事件や災害の現場にいるなんて通常では考えられない。
『陰陽師というのは一体どんな者たちなんだ?』
「そうですね……。占いや除霊をしたりする人、ですかね。他にもやっていることはあるみたいですけど、私もあまり詳しくは知らないです」
『ふむ……』
私の答えを聞いたルーシーさんは何やら考え込んでいる様子。
『連中の行動とお前の話、イマイチ結び付かんな。陰陽師とやらにはお前の知らない何かがあるのか、それとも似ているだけで全く別物なのか……』
神社の神主と陰陽師の衣装には共通している部分がある。
だけど神道と陰陽道は似て非なるもの。神社の巫女見習いである私には陰陽師の知識なんてほとんどない。残念ながらルーシーさんの疑問に対する答えは持ち合わせていない。
『少々気にはなるが……まあいい。この謎はいずれ解き明かすとしよう』
どうやらこのタイミングでの謎の解明は諦めたみたい。ここで考えていたって答えは出ないと思うし、仕方がないよね。
寄り道はこれくらいにして学校へ向かわないと。だけど商店街の入り口にはKEEP OUTと書かれたバリケードテープが貼られており、通り抜けはできないみたいだった。
さらに遠回りになってしまうけど仕方がない。迂回して改めて学校へと向かった。
「まったく、あんま心配させんなよなー」
教室に入るなり、トモちゃんに言われてしまった。
「ごめんね、トモちゃん……」
「……ま、病み上がりであんなことに巻き込まれたんだからしょうがないけどさ」
トモちゃんが言っているのはベルゼの一件のことで間違いないはず。だけど少し引っかかる。何か含みがあるような感じ。
(夢の中で私の声を聞いたと言っていたけど、まさかベルゼと戦っていたのが私だと気付いて……? でも、そんなはずは……)
普段の私のイメージとクイン・ルシフェリアに変身した私。声と髪型は変わらないけど、それ以外の部分はかけ離れている。いくら私との付き合いが長く、勘の鋭いトモちゃんと言えど、そう簡単には確信を持てないはず。そうでなければ困ってしまう。
「と、トモちゃんはあの後大丈夫だったの? お家の人が心配したりしていなかった?」
「アタシ? アタシはヘーキ。そもそもあんな目に遭ったこと、親には内緒だし」
確かに正直に話せるようなことじゃないかも。実際、私も祖父母には一切話せていないし。私は攫われたわけじゃないけども。
「ウチの親ってアタシの言うことなら大抵何も疑わずに信じちゃうからさ。『なんか凄いことになってたっぽい』って言うだけでおしまい。チョロいっしょ?」
イタズラっぽく笑うトモちゃん。だけど、本当はチョロいわけじゃないことを私は知っている。
「それはトモちゃんがいつもちゃんと真面目にしているからだよ」
「や、やめろやめろ! 面と向かって言われると恥ずかしいっしょ!」
トモちゃんは「外見に目を瞑れば優等生」と評されている。彼女の理想の「可愛い」を追求した結果、見た目は完全にギャルと化した。だけど、勉強もスポーツも手を抜かない。
「真面目に勉強するよりサボってお馬鹿を晒す方がダサいっしょ」とか「ボールを怖がって可愛い子ぶるより華麗に捌いた方がカッコいいっしょ」とか。これがトモちゃんのスタイル。
「アタシをからかうなんて、やるようになったじゃん」
「えっ? 別に私は……。ただ事実を言っただけだよ?」
「無自覚ってわけ? ……ま、それもアンタらしいか」
少し呆れたような顔をしつつも口元は緩んでいる。私、そんなにおかしなことを言ったかな?
「ねぇねぇ、“グレステ”の新曲聴いた?」
「ええ! 今回の曲も素敵でしたわね!」
トモちゃんと話していると、クラスの子たちが話す声が聞こえてきた。
「あ、そっか。今日か」
「トモちゃん?」
「ああ、ごめん。あっちで話してるのが聞こえちゃってさ」
なるほど。でも、何が今日なんだろう?
「今日何かあるの?」
「うん。今夜さ、グレステのミニライブがネット配信されんだよ」
「ぐ、ぐれすて……?」
ぐれすて……聞き覚えがない。一体何のことなんだろう? ミニライブということはアーティストの名前なのかな?
「えっ? アンタ、マジでグレステ知らない感じ?」
「う、うん……」
「おぉっ、マジか。こういうのに疎いのは知ってたけど、まさかここまでだったかぁ……」
確かに私は流行にはかなり疎い。その自覚はある。だけど、そんなに驚くほどなのかな? ぐれすて? そんなに有名なのかな?
「“Gracie☆Stella”。今滅茶苦茶流行ってる、三人組アイドルユニットっしょ」
そうか、アイドルなんだ。それなら私が知らないのも無理はないね。
「あれ? でもトモちゃんもアイドルにはあまり興味なかったよね?」
「そうなんだけどさ、グレステは特別っていうか……」
「特別?」
「そ。見た目が可愛いだけじゃなく、歌も上手いしダンスもカッコよくて、気付いたらハマってたんだよねー」
トモちゃんがここまで言うということは本当に凄そう。今夜……か。私もちょっと観てみようかな……
「おっ、めずらしっ。この手の話題にマオが興味示すなんて」
「そ、そんなことないよ」
「そうかー? ま、いいや。それじゃ、後で配信のリンク送っとくねー」
「うん。ありがとうトモちゃん」
トモちゃんにお礼を言い、席に着くとちょうどチャイムが鳴った。それじゃあ今日も一日、頑張らないと! ……無理をして倒れない程度にね。
普段はアイドルのライブ映像なんて全然観ない。だけど、この時は違っていた。――早く観てみたい。そう思い、柄にもなく浮き足立っていた。
お読みいただきありがとうございました。
続く第38話も投稿しております。よろしければお読みください。




