第031話 ありったけの力を込めて
「ぐっ……うぁッ……ぁぁッ……!!」
全身が熱い。火傷の痛みが全身に広がっていく。
『水だ! 水を出せ!!』
炎に包まれ、藻掻き苦しむ私の脳内にルーシーさんの声が響く。炎の熱さに呑まれそうになる意識を必死に引き戻す。
「そ、そうだ、水……!!」
私が思い浮かべると頭上に水の球が出現し、即座に破裂。頭からバケツの水を被るように、水を全身に浴びる。水は瞬時に蒸発してしまったけど、代わりに身を包む炎も鎮火した。
周囲の空気はまだモワッとしているけど、ひとまず炎の熱さからは解放された。
「ハァ……ハァ…………」
『大丈夫か?』
「はい……。ま、まだやれます……」
油断していたこともあり、たった一撃で狼吼の羽音と烈風の拳打の連撃よりも大きなダメージを負ってしまった。身体中がヒリヒリと痛む。
『せめて奴らのデビライズが解けるまでは油断するな』
「は、はい。すみません……」
弱点の攻撃がヒットしたことで完全に油断してしまった。気を付けないと。
「ハァ……ハァ……。油断したね。まあそれはボクもだけど。おかげで本当に死ぬかと思ったよ。あんなダサい攻撃でね」
「チッ、しぶとい奴め。蝿より他の虫の方が向いているのではないか?」
る、ルーシーさん、その虫ってまさか……!
頭をブンブンと横に振り、脳裏に嫌なイメージが浮かぶのを必死に阻止。
「フフッ、言ってくれるねぇ。今のでボク以上の痛手を負ったくせに」
「馬鹿を言え。この程度、日焼けと変わらん」
相変わらずの煽り合い。ルーシーさんがこの調子ならまだなんとかなる。不思議とそんな気持ちにさせてくれる。
「ま、活きが良い獲物を食い殺す方が楽しめるか」
あくまで彼女の最終目的は私たちを食べることらしい。でも、食べられちゃうなんて絶対に嫌だ。何が何でも抵抗しなくちゃいけない。
「今の気分はミディアムウェル。もう少し火を通させてもらうよ!」
彼女は再び炎を吐いてくる。普通ならミディアムウェルどころか、消し炭になってしまってもおかしくないほどの強烈な炎だ。
だけど炎には水。もう対処法は心得ている。両手を前に突き出し、高波のような水の壁を作り出す。
蝿王の息吹と水の壁がぶつかり合い、一瞬のうちに水蒸気へと変わる。サウナのような熱気と湿気が辺りを包む。
「ここに来てボクの力に完全に対応してきている……!? 霊力持ちのただの素人のくせに何故……」
「フッ、あまり舞桜を舐めるなよ?」
「……なるほど。ただ適当に選んだ依代じゃない、というわけかい」
ルーシーさんとはたまたま昔出会っていて、数日前たまたま再会して、それから一緒に戦っているだけ。だから適当に選んだ依代と言っても過言じゃない。私自身はそう思っている。でも――
「ああ。そういうことだ」
ルーシーさんの考えは違った。私に何かを見出してくれている。そういうことなのかな?
彼女の性格を考えると単にスカイ・ベルゼに対し、マウントを取りたいだけ。その可能性も否定はできないけど……
「さぁ舞桜、ガンガン反撃していくぞ!」
「は、はい……!」
スカイ・ベルゼが動揺の色を見せている今がチャンス。私は再度岩で巨人の手を作り出し、今度はパンチを繰り出す。
岩の拳が彼女目掛けて振り下ろされる。
だけど、拳は彼女を捕えられなかった。お得意の高速移動で回避されたわけじゃない。
――ビュオォォォッ!!
空を裂く風の音が轟く。岩の拳は粉々に砕け散り、砂埃のように風に溶けていく。
「ハァ……ハァ……。“侵食の羽搏き”。まさかこの技まで使う羽目になるとはね……」
超高速で背中の翅を羽ばたかせ、旋風を起こす。彼女の起こす旋風は呑み込んだものを粉々に粉砕してしまう。
「岩でできた巨人の手。キミのご自慢の技なんだろうけど、ボクの風の前では砂塵と同じさ」
「ッ……!」
有効打のはずの地属性の攻撃も真正面からじゃ全く通用しない。やっぱり先ほどみたいに電撃で痺れさせてから当てるなど、何か工夫が必要そうだ。
「この技まで見せた以上、もう一切の手加減はしないよ。この技でバラバラに引き裂いてからキミたちを喰らう!」
侵食の羽搏きによる旋風が私を襲う。ううん、私だけじゃない。スカイ・ベルゼは手当たり次第に放ち、旋風に触れたものを粉々にしていく。地面も、生い茂る木々も、一瞬のうちに粉々に砕け散ってしまう。
『あの攻撃、まともに食らえばただじゃ済まんな。お前の防御力を持ってしても耐えられないかもしれん。食らえば奴の言う通り、バラバラにされるかもな……』
「ええっ!?」
当たったら終わり。そんな攻撃を攻略しないといけないなんて……!
『それに、私たちでさえ食らえば一溜まりもない攻撃だ。万が一友華たちの方に撃たれてみろ。全員助からんぞ』
「そ、そんな……!」
それだけは……それだけは絶対に避けなきゃいけない。みんなは絶対に守らないと……!
焦りが私の鼓動を強く、速くしていく。その感覚がさらに私を焦らせる。
「ど、どうしたら……」
『……舞桜。またぶっ倒れることになるかもしれんが……。それでも構わんか?』
「え……?」
また倒れる。何やら不穏なワードが飛び出してきた。
だけど、私の答えは決まっている。私が倒れるだけでみんなを守れるなら安いものだ。
「……はい。それでみんなを守れるなら」
『そうか。あの侵食の羽搏きとやらは周囲への被害もそうだが、奴自身への負担も大きいらしい』
「そうなんですか?」
『ああ。あいつ、かなり息を切らしていただろう?』
言われてみれば確かに。でも、それがどうしたと言うんだろう?
『スカイ・ベルゼのパワーが尽きかけている。つまり……』
「風茉さんの命が危ない!?」
『ああ。だから、そういう意味でもさっさと決めねばならん。故にお前の覚悟を確認した、というわけだ』
倒れるくらいの覚悟を問われるなんて、一体どんな作戦なんだろう?
『昔、ある男に勝つために考えていた技があってな。非常に強力……なはずなんだが、私自身への負担が大きすぎて、未完成のまま封印していたものなんだ』
「え……」
超強力な(はずの)未完成の技。自分自身への負担が大きい危険な技。
「諸刃の剣……ということですか?」
『そうなるな。乗ってくれるか?』
正直怖い。だけど、みんなを守るためにはここで逃げるわけにはいかない。
「や、やります! それでみんなを守れるなら……!!」
ルーシーさんがその技に賭けるしかないと言うのなら、私も賭ける。みんなを守りたいから!
「ハァ……ハァ……。ちょこまか逃げ回って……! キミたちこそ羽虫のようじゃないか」
「ならばお前のその技、正面から受けて立ってやろうではないか」
「!! ククク……。ついに気が狂ったのかい?」
「フッ、試してみるか?」
ルーシーさんの挑発に乗り、スカイ・ベルゼは侵食の羽搏きを放つ。私は回避を続けていたけど、今回の一撃は避けない。真正面から受けて立つ。
『いいか、両腕に力を集中するんだ。少しではない、ありったけの力だ』
「は、はい……!」
ルーシーさんの指示に従い、両腕に力を集中する。徐々にエネルギーが集まり、掌が熱を帯びていくのを感じる。
『行くぞ! 私の魔力も使え!』
「え……? は、はい!」
次の瞬間。身体中をエネルギーが駆け巡り、全身が熱くなっていくのを感じた。
(こ、これがルーシーさんの魔力。他の魔族たちの力は凄く禍々しく感じたのに、これは……)
自分と似た雰囲気の力。だけどどこか荒々しさもある。そんな力が私の力と溶け合い、大きな塊を作り出す。
『よし、両腕で奴の侵食の羽搏きを受け止めろ!』
「はい……!」
私の霊力とルーシーさんの魔力。私たち二人のありったけのエネルギーを集中した両腕で、侵食の羽搏きによる旋風を受け止める。
――ゴォォォッ……!!
「馬鹿な!? 膨大なエネルギーを一点に集め、ボクの侵食の羽搏きを強引に受け止めた!?」
「ぐ……ぐぐ……!!」
凄まじい力が両腕にのしかかる。だけど、それも当然だと思う。今受け止めているのは、巨人の手や周囲の木々を一瞬で粉々にした力。こうして受け止めている今も、少しでも気を抜いたらあっという間に呑み込まれてしまいそうだ。
『こ、堪えろ舞桜! そして撃ち返すんだ! この聖なる光のエネルギーを、思い切り放出するイメージで……!!』
「ほ、放出……? や、やってみます……!!」
今度は旋風を受け止めるだけでなく、光線で撃ち返す。そのためにさらに力を振り絞る。
「ぐ……ぐぐ……だぁぁぁ――――ッッッ!!!!」
ありったけの力を込め、光線を放つ。光線はスカイ・ベルゼの旋風を散らし、散らされた旋風はただの風へと変わる。
「そ、そんな……! ボクの……ボクの……羽搏きが……!!」
「食らえベルゼ! これが私たちの……“ルミナスパニッシャー”だぁぁぁッ!!」
「う、うぉぉぉおおお――――ッッッ!!!?」
私たちの放った光線――ルミナスパニッシャー。スカイ・ベルゼに直撃し、彼女の身体を空高く押し上げていく。そして……
――ドゴォォォンッ!!
空高く上がったところで大爆発を起こした。まるで花火のように光が周囲に散り、広がっていく。散った光たちはまるで流れ星のように綺麗だった。
「『ハァ…………ハァ…………』」
私とルーシーさん、二人のありったけの力を込めて放った一撃・ルミナスパニッシャー。間違いなくスカイ・ベルゼに直撃していた。これで決着がついたと信じていいんだよね……?
光が収まり、勝負の行方が明らかになる――
お読みいただきありがとうございました。
続く第32話も投稿しております。よろしければお読みください。




