第028話 いざ、ベルゼの根城へ
ベルゼの手下たちによる人間襲撃。街の人々が次々と攫われていく。そしてついにトモちゃんまで。
「トモちゃーんッ!!!!」
私の叫びも虚しく、トモちゃんは攫われてしまった。彼女、そして連れ去った魔族の姿がどんどん小さくなっていく。
「さてと、それじゃあお前は俺が連れて行くぜ」
早く追いかけなくちゃ! そう思っていた私の思考を、迫る魔族の声が遮った。
薄っすらと滲んだ視界を魔族へ向けると、今まさに私を捕らえようと腕を伸ばしているところだった。
「ヘヘッ、ムーシュもいなくなったことだし、ここで食っ……」
だけど、フリーゲの動きが止まった。……ううん、動きだけじゃない。言葉もだ。別に誰かが遮ったわけじゃない。フリーゲが勝手に言葉を詰まらせただけだ。
「……お、お前、本当にただの人間か?」
「……何ですか?」
『…………』
理由はわからない。だけどフリーゲは何かを感じ取ったみたい。そしてルーシーさんも口を閉ざし、何かを考えているようだった。
「ま、まあいい。とにかくベルゼ様の所へ連れて行くぜ」
フリーゲに掴まれ、私の身体は空へ。このままベルゼのもとへ連れて行ってもらう。それが私たちの作戦。トモちゃんが攫われてもそれは変わらない。ううん、むしろ彼女が攫われたからこそ、変えられないんだ。
それにしても、先ほどのフリーゲの態度の変化は一体何だったんだろう?
『ルーシーさんはどう思います?』
『……さぁな。お前にメンチ切られてビビったのではないか?』
『め、メンチ……?』
ルーシーさんが何を言っているのかよくわからない。あまり気にしない方がいいのかな? 今は緊急事態なんだし……
少しモヤモヤしながらも、私たちはわざと連れ去られる。向かうはベルゼの待つ、魔族たちの根城。
(無事でいてね、トモちゃん……!)
幼馴染の無事を信じ、私たちは空を舞う。
『あの辺りから沢山の魔族の気配を感じる。どうやらあの森林がこいつらの根城のようだな』
フリーゲに掴まれながら空を飛んでいると、木々が立ち並ぶエリアが見えてきた。確かにルーシーさんの言うように魔族の気配がいくつも存在している。
『気を付けろよ。あそこにベルゼがいるとしたら既にソウルダイブして身を潜めているはずだ』
『そ、そうなんですか?』
『ああ。奴らは他の連中より気配を抑えるのが得意のようだが、さすがにベルゼほどの力の持ち主となればそうでもしないと隠しきれんだろうからな』
私はまだあまりピンときていないけど、魔族の魔力の強さによって感じる気配の強さにも差があるみたい。そして強い魔力を持つ魔族ほど、その気配を隠すのは困難とのこと。
『ん? ちょっと待ってください。ソウルダイブしているということは……』
『当然デビライズもしてくるだろうな』
この魔族たちの親玉・ベルゼ。そんな強そうな相手がデビライズまでしてきたら、私たちで勝てるのかな?
『ところでルーシーさん。ベルゼという魔族のこと、以前から知っているんですよね?』
『ああ。奴は私と同じ、漆罪魔と呼ばれる上級魔族の一人だ』
ルーシーさんと同じ!? そんな相手がデビライズしたら、私たちがデビライズした姿――クイン・ルシフェリアでも危ないんじゃ……
『えっ? そ、それじゃあ物凄く強いんじゃないですか?』
『ああ。昨日のフライなんぞとは比べ物にならんだろうな』
『そ、そんな……!』
それなのにどうしてルーシーさんはこんなに落ち着いていられるんだろう? 何か作戦でもあるのかな……
『奴の実力は漆罪魔の中では真ん中くらいだったし、問題なかろう』
『ほ、本当ですか?』
『ああ。よほど優れた依代を見つけていたら話は別だがな』
『え゛っ』
不穏なことをサラッと言う魔王様。どうかフラグじゃありませんように。
「臭う……臭うね。ただの人間じゃない臭いが」
姿は見えない。だけど空気を伝い、声が聞こえた。まるで風が届けたかのように。
『あれ? 今の声、どこかで……』
『チッ、もう見つかったか。舞桜、気を付けろ!』
『えっ?』
私が驚いていると、森林の方から私を目掛けて炎の玉が飛んできた。
「わ、わぁぁぁッッッ!?」
慌てふためき、フリーゲの腕の中で暴れる。すると、体勢を崩したフリーゲに飛んできた炎の玉が命中。
「ぐわぁぁぁッッッ!! べ、ベルゼ様――――ッッッ!!!!」
炎に藻掻き苦しむフリーゲ。
だけど、今の私には気にしている余裕なんてない。なぜなら――
宙に放り投げられてしまったのだから。
「きゃぁぁぁぁぁッッッ!!!?」
『ベルゼめ、やってくれるではないか。行くぞ舞桜! このままデビライズだ!!』
「ええっ!?」
空に放り出され、内心はそれどころじゃない。だけど、デビライズしなければこのまま地面に激突してしまう。――やるしかないんだ。
「わ、わかりました!」
「『デビライズ!!』」
『シン・オブ・プライド!!』
「『クイン・ルシフェリア!!』」
空中で光に包まれ、私の身体に魔族の力が漲ってくる。
『追撃が来る。備えろ!』
「は、はい!」
風の力を操り、空中で体勢を立て直す。そして地上から飛んでくる炎の玉を風の障壁で受け止め、空へと弾き飛ばした。
「ぬぉわぁぁぁ――――ッ!!」
……どうやら弾き飛ばした炎の玉はまたフリーゲに命中したらしい。背後から苦しむフリーゲの声が聞こえてきた。だけど今は彼の安否を確認している余裕なんてない。
風の力で勢いを殺し、ふわりと着地。辺りに視線を向けると、そこには捕えられた人々と多数の魔族の姿が。
そして、魔族たちの中心には一人の人間の女性が立っていた。
「あ、あれは……風茉さん……!?」
そう。大食い系配信者・久池風茉。魔族の中心に立つにはあまりに相応しくない、可憐な女性。
だけど、その姿は先日見かけた時のものとは異なっていた。虚ろな目とその下にできた大きな隈。ラーメン屋の店主に笑顔を向けていた彼女とはまるで別人だった。
「私の食事は邪魔させない……。邪魔する奴は全部食べてやる……」
「そうだね。キミはもう、我慢する必要はないんだ。好きなだけ、思う存分食べていいんだよ」
風茉さんの背後に幻影のように姿を現した魔族。ライトグリーンの髪に美しい顔立ちの青年。
「久しぶりだな、ベルゼ。相変わらず食い意地の張った奴だ」
「やはり来たね、ルシフェリア。フライの奴め、本当に余計なことをしてくれたようだ」
この人が魔族たちの親玉……? 見た目は優しそうだし、口調も柔らかい。もっと怖い姿をイメージをしていたけど、美しさすら感じる。
だけど、悪者のはずなのに感じるこの綺麗さが妙に不気味。そう思ってしまうのはどうして……?
「そう言えばフライの奴はどうした?」
「さぁね。その辺のシミにでもなったんじゃないかな」
「……殺したのか?」
ルーシーさんの声のトーンが一段下がった。冷静だけど怒りを感じる、そんな印象を受ける。
「だとしたら? ボクの部下をどうしようとキミには関係ないはずだ。第一フライはキミたちが叩きのめした相手だろう?」
「奴がお前の部下だろうと関係ない。魔族だろうが人間だろうが、命を軽々しく奪うことは許さん」
「そうかい……」
怒りを見せるルーシーさん。しかしベルゼはつまらなそうに髪の毛をいじっていた。ルーシーさんの怒りに心底興味がなさそう。
――この二人は相容れない。そうわかってしまった。
「どうやら力尽くでわからせるしかないようだな」
「そうだね。だけど……キミに倒せるかな?」
ニヤリ、と。ベルゼは余裕そうな笑みを浮かべている。
「ボクの依代……風茉は元々強い食欲を持っていた。そして、堕とす前にその食欲が“暴食”となるよう下ごしらえもした。まさに“暴食”を司るボクに相応しい依代として完成させたってわけ」
「それがどうした?」
「フフフッ。そんな“傲慢”の欠片も持ち合わせてなさそうな依代じゃ敵わない。そう言ってるんだよ!!」
ソウルダイブしているというのに、ベルゼの魔力の反応がどんどん色濃くなっていく。
「さぁ、行くよ風茉! デビライズだ!!」
「…………うん。一緒に何もかも、食べ尽くしちゃおう……!」
虚ろな目をしたまま首を縦に振る風茉さん。
「だ、駄目! 風茉さん、目を覚まして!!」
「……無駄だ。こうなってしまってはベルゼを叩き潰し、風茉とやらの身体から追い出す他ない」
「そんな……」
やっぱり戦うしかないの? 操られているとわかっていても、それしかないと言うの……?
「『デビライズ!!』」
「『シン・オブ・グラトニー!!』」
風茉さんの身体の周囲に空気の渦が発生。さらに、緑の眩い閃光を放つ。ベルゼの邪悪な気配がどんどん強まっていく。
「くっ……! これほどの魔力はさすがの私も未知の領域だ……!」
「そ、そんな……。こんな人と今から戦わなくちゃいけないの……?」
ベルゼと風茉さんのデビライズ。その力の波動は私たちの想像を大きく超えていた――
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