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正義のヒロインは魔王様!?〜巫女見習いと元魔王が紡ぐ絆物語  作者: 石島マコト
第2章 漆罪魔現る!

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第022話 大食い配信者の噂

 男の子に風船を返した後、私たちはそのまま帰宅した。その後いつものように夕食とその片付け、そして入浴を終え、今は自室のベッドに横たわっているところ。


「はぁ…………」


 思わず大きな溜め息をついてしまった。


 クイン・ルシフェリア。突然決まってしまった私たちのデビライズ姿の名前。


『そんなに気に入らないのか?』

「だ、だって……」


 ただでさえ恥ずかしい格好なのに、更に女王を自称するなんて恥ずかしすぎる。


「黒歴史確定じゃないですか、こんなの……」

『黒歴史? 知らん言葉だがちょっと(そそ)られる響きだな。どういう意味だ?』

「恥ずかしい、消し去りたい過去ってことですよ!」


 どうやら魔界には黒歴史という言葉はないみたい。決して唆られるような言葉ではないことをしっかりと伝えておかないと。


『おい待て。どこが消し去りたい過去だ』

「あの痴女スタイルも、自ら女王を自称することも、ですよ!」

『何故だ!? どちらもカッコいいだろうが!!』


 やっぱりルーシーさんのセンスは理解できない。こればかりはどれだけ時を共にしても無理かもしれない。


『まあこればかりはセンスの問題だろうから、お前にはセンスがないということで納得しておくか』

「ちょっと釈然としませんけど……。もういいですよ、それで」


 これ以上言い争いをしても埒が明かなそうだ。この辺りでやめておこう。


『というか舞桜、そんなに不服そうなのに、別の名前を提案したりはしないのだな?』

「…………」


 その発想はなかったぁ!! そうだよ、別の名前を考えればいいんだ! あの姿に合っていて、かつクイン・ルシフェリアより恥ずかしくない名前を。


 あの姿……悪魔の角に薄紫の髪、ルビーのような真っ赤な瞳にビキニアーマー……


 何度思い出しても、露出狂とか痴女とか変態というワードしか頭に湧いてこない。クイン・ルシフェリアよりまともな名前なんて思い浮かびそうにない。


『どうした?』

「……ない」

『む?』

「思いつかないんです! あの姿からイメージされる名前をいくら考えても、露出狂とか痴女とかばかりで、碌なワードが思いつかないんですよ!」


 悔しいし恥ずかしいけど、クイン・ルシフェリアという名前を受け入れるしかなさそう。


『ではクイン・ルシフェリアで決定だな!』

「うぅ…………」


 本当に恥ずかしい。できるだけ名乗る機会がないことを祈ろう。切に。


『さて、無事名前も決まったし、今日のところは眠るとするか!』


 対してルーシーさんは上機嫌。ルーシーさんが嬉しそうにしているのは悪い気はしないけど、この様子だと事あるごとに名乗りたがりそう。そんな予感がする。まあ口に出すかどうかは私次第だから、私が名乗らなければいいんだけどね……




 翌朝。今日は土曜日。つまり学校は休みだ。だけど、いつも通りの時間に目を覚まし、身支度を整える。

 規則正しい生活を心掛けているというのもあるけど、一番の理由は巫女見習いの修行のためだ。


 朝食を取り、身支度を整えて神社へ向かう。身近な場所だし、すぐに巫女装束に着替えることになるんだけど、一応神聖な場所だからあまりラフな格好では出かけないようにしている。


『神社で巫女見習いの修行か。具体的には何をするんだ?』

「そうですね……。修行と言ってもまだ大したことはやっていないです。境内の掃除をしたり、授与所で御守りを売ったりしているくらいですね」

『なんだ、霊力を高める修行とかはしないのか?』

「そんなことはしませんよ……」


 それを聞いた途端、残念そう、というよりつまらなそうにするルーシーさん。確かにルーシーさんからしたら地味で面白味がないかもしれないけど、私の夢への第一歩をつまらなそうに思われるのはちょっぴり悲しい。


『仕方がない。では私は人間観察でもしているとしよう』

「そ、そうですか……」


 仮に私が霊力を高める修行をしていたら、彼女は一体どうするつもりだったんだろう? 手合わせしたい、とか言い出しそうだけど……


 ルーシーさんとやり取りしながら巫女装束に着替えていく。やっぱり何度袖を通してもこの格好はいい。気が引き締まる。


『改めて見ても動きにくそうな格好だ。よくこの格好で走れたな』

「まあ、慣れていますからね」

『袖や裾丈をもっと短くして動きやすくした方が良いのではないか?』

「伝統的な衣装にケチ付けないでくださいよ……」


 最近はミニスカ巫女なんてものもあるけど、あれはあくまでコスプレの一種。正式な巫女装束としては認められていないし、私も認めたくない。デザインそのものは可愛いと思うんだけどね。露出が増えるのは単純に恥ずかしい……


「……なぁ、お願いじゃから一度こいつを着てみてくれんかのう?」

「嫌ですよ。コスプレじゃないんですから……」


 別の部屋から声が聞こえてきた。若い女性と老人が言い争っているような声だ。一人は巫女の先輩のもので、もう一人はまさか……!


 恐る恐る部屋を覗いてみると、予想通り古都音さんと一人の老人――私のお祖父ちゃんがいた。


「そこをなんとか! 新しい巫女装束をデザインしてみたんじゃ!」

辰巳(たつみ)さん、いい加減にしないとまた紅葉(もみじ)さんに言いつけますよ?」

「ええい! そんなものでわしのこの熱いパトスは止められんわい!!」


 白峰辰巳。私のお祖父ちゃん。彼の趣味はオリジナルの巫女服をデザインし、更に自分で作ること。そしてその服を神社の巫女たちに着せること。我が祖父ながら正直恥ずかしいのでやめてほしい。

 衣装のデザインと作成を一人で行えるのは素直に凄いと思うので、真っ当な衣装を作ってくれたらいいのに、と常々思っている。


「なーにが熱いパトスじゃ、このスケベジジイ!!」

「あ、紅葉さん」

「いだだだだ……!! ち、千切れる! 耳が千切れるッ!!」


 白峰紅葉。私のお祖母ちゃん。登場するなり、お祖父ちゃんの耳を掴んで捻る。そしてそのままズルズルと引き摺っていく。


 白峰神社ではもはや日常と化している光景。全く懲りる気配のないお祖父ちゃんには思わずため息が出てしまうけど、いつもの光景に安堵している私もいたり。


『なんだ? 爺さんと婆さんは仲が悪いのか?』

「そんなことはないですよ。むしろ夫婦のじゃれ合いみたいなものなので、気にしないでください」

『お、おう。そうか……』


 そう。一見仲が悪そうに見えるけど、二人ともこれはこれで楽しんでいるみたい。私にはどこがどう楽しいのか、イマイチ理解できないけど。もう少し大人になったらわかるようになるのかなぁ……


 お祖母ちゃんに引き摺られていくお祖父ちゃんを見送り、私は境内の掃除に向かった。




「舞桜ちゃん、お疲れさま。そろそろお昼よ。休憩どうぞ」

「はい。わかりました」


 午前中は境内の掃除で終わってしまった。私が休んでいる間に先日の衝撃波による被害の後始末はほとんど終わっており、あとは細かい部分の清掃くらい。とは言えうちの神社の敷地は中々広い。掃き掃除だけでも一苦労だ。


「もうお腹ペコペコ……」

『おっ、ようやく昼食か。今度は何を食すのだ?』

「お昼ご飯はおにぎりとお味噌汁とお漬物です」


 ラップに包まれたおにぎりと保温容器に入れたお味噌汁、タッパーに入れたお漬物。どれも朝用意したものだ。まあ私はほぼ詰めただけで、ほとんどお祖母ちゃんが作ってくれたものだけど。


『そう言えば出かける前、手でご飯を握っていたな。遊んでいるのかとも思ったが、あれは昼食の準備だったのだな』

「そうですよ。食べ物で遊ぶなんて、そんな罰当たりなことはしません」

『なるほどな。これが人間の料理という文化か』


 おにぎりでそこまで話を壮大にされると少し違和感があるけど、人間の文化と言われれば確かにそうだ。


『ふむ。おにぎりとやらは温かいご飯とはまた違……酸っぱ! なんだ今のは!?』

「ああ。梅干しですね」

『こいつは梅干しというのか。一瞬驚きはしたが……。意外とご飯との相性はいいな。酸っぱさと塩っぱさでもっとご飯が欲しくなる……』


 苦手だと言い出すのかと思ったら案外大丈夫みたい。日本人でも好き嫌いが分かれたり、同じ梅干しでも味付けで好みが分かれたりもするし、外国人風のルーシーさんが大丈夫なのはちょっと意外かも。ちなみに私は塩と赤紫蘇の葉だけで漬けたものが好きで、蜂蜜梅は少し苦手だ。


 私たちが昼食を取っていると巫女の先輩や神主さんたちもお昼休憩にやって来た。


「おっ、“ふーちゃんねる”の動画、上がってるじゃん」

「あんた、本当に好きねぇ。まああのルックスと食べっぷりは人気出るのもわかるけどさ」


 先輩たちの話し声が聞こえてくる。私はあまり詳しくないけど、確か“ふーちゃんねる”というのは大食い系動画配信者(ストリーマー)の動画チャンネルだったはず。トモちゃんも観ていて、「あんだけ食べてるのに太らないとか、絶対詐欺っしょ!」とか言っていたような……


「そう言えばふーちゃん……“久池(ひさいけ)風茉(ふうま)”って確かカグ(じょ)出身らしいね」

「えっ……?」


 先輩巫女の話に思わず反応してしまう。カグ女というのは神楽女学院の略称。ということは私の先輩にあたる人だ。それに昨日見かけた女の人が確かそんな名前で……


「あ、あの、その風茉さんの写真ってありますか?」

「おや? もしかして舞桜ちゃんもふーちゃんのファンになった?」

「い、いえ、そういうわけじゃないんですけど……」


 私がファンというのを否定すると、ふーちゃんファンの神主さんこと“(にのまえ)(しゅん)”さんは残念そうな表情を浮かべた。


「ほら、これがふーちゃんだよ。どうだい、可愛いだろう? これでご飯をたくさん、それも凄く美味しそうに食べるからまたいいんだよなぁ……」

「は、はぁ……」


 確かにご飯を美味しそうに食べる人は魅力的かもしれない。だけど、今は昨日見かけた人物がふーちゃんかどうかの方が気になる。


「やっぱり! 昨日見かけた人です!」

「なにっ!? それは本当かい? 一体どこで見たんだ?」

「え、えっと……。ガッツリ系のラーメン屋さんで、確かお店の名前は……」


 ラーメン屋には滅多に行かないので店の名前までは覚えていない。だけど、瞬さんには通じたみたい。


「ガッツリ系……ラーメン大次郎か!」

「あ、はい……。たぶんそこです」

「それならふーちゃん本人で間違いなさそうだ。なんたって今日上がった動画がそのお店なんだから」


 昨日の今日で動画が上がるのはかなり早い気がする。私が知らないだけでそういうものなのかもしれないけど。


「けどさ、最近結構叩かれてるって話も聞くよね」

「ああ、あんなのよくあるアンチの嫌がらせさ」


 古都音さんが耳にした噂を、瞬さんはバッサリと切り捨てた。でも――


 アンチの嫌がらせ……か。


『どうした?』

『いえ、大したことじゃないです……』


 やっぱり目立ったり、人気者になったりするのもいいことばかりじゃない。


(ルーシーさんは目立ちたがりそうだけど、できるだけ目立たず、平穏な日常を送りたいよ……)


 心の中で願ったけど、きっとこの願いは叶わない。そんな予感がした――

お読みいただきありがとうございました。

続く第23話も投稿しております。よろしければお読みください。

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