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正義のヒロインは魔王様!?〜巫女見習いと元魔王が紡ぐ絆物語  作者: 石島マコト
第2章 漆罪魔現る!

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第023話 新たな追っ手

 昼食を終え、今度は授与所で巫女の先輩である古都音さんと一緒に売り子をすることに。しかし――


『…………暇だな』

『…………そうですね』


 今は5月下旬。土曜日とは言えあまり混むような時期じゃない。故に参拝客は(まば)らだ。


『おい舞桜、何か面白い話でもしろ』

『無茶言わないでくださいよ……』


 こういう類は大の苦手。むしろルーシーさんこそ魔界でどんな生活をしてきたのか教えてほしい。そちらの方がずっと面白そう。そうだ、いい考えかもしれない。


『ルーシーさんがしてくださいよ。魔界で100年も生きていたんですから。面白い話も数え切れないほどあるんじゃないですか?』

『私の話だと? そうだな、武勇伝はいくつもあるが…………。しかし自ら語るより、他の者に語らせた方がカッコいいしな……』


 意外! 自分から自慢したがりそうなのに。


『今は他の人なんていないんですから、ルーシーさんが話してくれないと誰からも聞けないんですよ』

『ふむ……。確かにそうだな。仕方がない、では私自ら語……む!?』


 言いかけたところでルーシーさんが何かに気付いた様子。


『ど、どうしたんですか!?』

『舞桜、神経を研ぎ澄ませろ。何か感じないか?』

『えっ!?』


 何かって何? ルーシーさんのこの様子、いい感じではなさそうだけど……


(でもとにかく今はルーシーさんの言う通りにすべきだよね! 目を閉じて意識を集中して……)


 神経を研ぎ澄ませると背筋にゾクッときた。最近初めて感じ、神経に刻まれたあの嫌な感覚が。


『…………!!』

『お前もキャッチできたか』

『は、はい……。この嫌な感じ、まさか……』

『ああ。どうやらお出ましのようだ。恐らく新たな追っ手がな!』


 新たな追っ手。ルーシーさんを狙う存在。


『ど、どうします?』

『このまま放っておいて誰かの心にソウルダイブされても面倒だ。その前に対処するぞ!』

『は、はい!』


 そうと決まれば反応のあった場所へ急がないと!

 だけど、今は売り子の手伝いをしている最中。どうやって抜け出そう?


『おい、どうした? 行くのではないのか?』

『そ、そうなんですけど、古都音さんたちになんて説明したらいいか……』

『正直に話せないのなら、何か適当な言い訳を考えろ。あまりぐずぐずしている暇はないぞ?』


 そうは言われても、こういう時に抜け出したりしたことなんてない。上手い言い訳なんてすぐには思いつかない。


『具合が悪いとか、この際なんでも良かろう?』

『う、うーん…………』


 ルーシーさんが急かしてくるせいで余計に思いつかない。一体どうしたら……

 そう思っていると、古都音さんが声をかけてきた。


「舞桜ちゃん? そんなにそわそわして、ひょっとして御手洗いに行きたいの?」

「えっ!?」

「違うの?」


 全然違います! だけど、これはひょっとしてチャンス?


「えっ、あっ、いや、その…………。そ、そうなんです! すみません、ちょっと行って来てもいいですか?」

「ええ。我慢は身体に良くないし、それに今日は暇なんだから、遠慮せずに行ってらっしゃい」

「は、はい! ありがとうございます!」


 古都音さんは意図していなかったと思うけど、おかげで自然に抜け出すことができた。私は授与所を抜け出し、急いで神社から飛び出した。


『急ぐぞ! 反応を追えなくなったら面倒だ』

『はい!』


 新たな魔族の反応を追って、私は巫女装束のまま駆け出した――




「ハァ……ハァ……」

『あと少しだ。気合いを入れろ!』

「は、はひっ…………」


 霊山を駆け下りた時よりはだいぶマシだけど、それでも巫女装束&草履のままで全力ダッシュというのは結構キツい。


『やはり最初からデビライズしておくべきだったか? だがデビライズ時の強力な反応は敵に探知されやすく、警戒されてしまうだろうしな……』


 確かに、最初からデビライズしていたらこんな苦労はしなかったかもしれない。だけど、恥ずかしい思いをするよりはこちらの方がマシ。私はそう思う。


 神社から1、2キロメートルほど。この辺りはまだあまり開発が進んでおらず、古い建物や樹木も多い地域。人通りもかなり疎らだ。


『着いたぞ。この辺りで反応が急に消えた。恐らくこの近辺にいる人間にソウルダイブしたんだろう』

「じゃあ間に合わなかったということですか? 潜伏されちゃったんですよね?」


 もう少し早く抜け出せていたら。もう少し早く走っていたら。潜伏されずに済んだかもしれない。そう考えると申し訳ない気持ちが湧いてくる。


『だが待て。辺りにそれらしき人間が見当たらん。……妙だな』

「それってどういう……」


 私が言いかけたところで突然、ルーシーさんの態度が一変する。


『……ッ!? マズい! 舞桜、後ろだ!!』

「え……?」


 ルーシーさんの叫び声が頭の中に響いた。だけど、声に反応して振り向くより先に、私の身体を衝撃が襲った。突然の衝撃に、思わず身体が仰け反る。


「くっ……!」

「ほう……。私の反応を追ってきただけあって並の人間ではないようですね」


 体勢を立て直し、攻撃の主に視線を向けると、そこには紳士風の男性の姿が。ただし人間の、ではない。翅の生えた魔族の男性だ。


 不意打ちだったけど、霊力のおかげで大したダメージはない。だけど、魔族は余裕そうな笑みを浮かべていた。まだ全然本気ではない、ということかも。


「わざと反応を探知させてルシフェリアを誘き寄せるつもりでしたが……。まあいいでしょう。戦う力のある人間はいずれ我々の邪魔になりそうですし」


 そう言うと魔族は右手を前に突き出し、掌をこちらに向けてきた。次の瞬間、胸や腹部に強い衝撃が。


「ぐっ……!」


 苦悶の声が漏れた。見えない攻撃に襲われ、怯んでしまう。


「い、一体何が……?」

『空気を弾丸のように発射しているんだ』

「空気の弾丸……?」


 見えない攻撃の正体をすぐに見破る辺り、ルーシーさんの戦闘経験が伺える。


「この攻撃でも大したダメージにならないとは、人間も侮れませんね。仕方がありません。少し本気を出すとしましょうか」


 言い終えると同時に、魔族は翅を羽ばたかせてどこかへ行ってしまった。


「あ、あれ? 逃げたんでしょうか?」

『そうは思えんが……。まあいい。とにかく追うぞ!』

「は、はい!」


 少し本気を出すと言っていたのに、魔族の男性はどこかへ行ってしまった。私たちは急いで追いかける。


 走ること数百メートル。魔族に追いつくと、彼は片手で人間の男性の首を掴んでいた。


「た、助けてくれ! 頼む!」

「騒がしいですね。正直私好みの人間ではありませんが……。まあ良しとしましょうか」


 魔族は男性を捕えているけど、盾にする様子はない。じゃあどうして捕まえたのか。その答えは簡単だった。


『ッ……! まさか……!』

「デビライズ!?」

「ほう……。デビライズのことまで知っているとは。本当に、ただの人間ではなさそうですねぇ……!」


 言い終えると同時に、魔族と彼に捕えられている男性の身体が光に包まれた。そして二人の身体は一つになる。

 人間の男性の身体をベースに、複眼を模した眼鏡。背中には羽虫のような翅。――蝿人間。そう呼称したくなる様相だ。


「ああッ! 素晴らしい力です! 実際にデビライズするのは私も初めてですが、まさかこれほどとは! 感動ですよッ!!」


 デビライズによって溢れてくる力に、魔族自身も驚き、気分が高揚しているようだ。


『舞桜、こちらも行くぞ』

「は、はい!」


「『デビライズ!!』」

『シン・オブ・プライド!』

「『クイン・ルシフェリア!!』」


 私の身体が光に包まれ、姿が変わっていく。同時に身体の奥底から力が漲ってくる。


「そ、その姿、まさか貴女がルシフェリアの潜伏先だったとは……!!」


 デビライズした私たちの姿を見て、魔族の方も気付いたようだ。


 ――だけど、今はそれよりも気になることがある。


「……あの、ルーシーさん」

『何だ?』

「さっきの『シン・オブ・プライド』って一体……」

『ああ。それか……』


 打ち合わせなしに、突然ルーシーさんの口から発せられた謎の言葉。果たしてあの言葉にはどんな意味があったんだろう?


『口上と言ったところか。自然に頭の中に浮かんできたんだ。まあ、とにかくカッコ良かっただろう?』

「そ、そうですかね?」


 特に意味はありませんでした! ルーシーさんがただカッコつけたくて言っただけの台詞だったよ……


「フフフ……。ベルゼ親衛隊の一角、“フライ”様を前にして随分とふざけた態度を取ってくれますねぇ……!」


 フライと名乗った魔族は身体をプルプルと震わせている。私たちのやり取りが気に入らなかったみたい。


「……まあいいでしょう。こうしてまんまと誘き出されてくれたわけですし」

『なるほど。我々を誘き出すのが目的だったか。これは一杯食わされたな』

「感心している場合じゃないですよ! どうするんですか?」

『どうするも何もないだろう。舐めた真似をしてくれた礼をする。ただそれだけだ』


 まんまと罠にかかってしまったというのに、ルーシーさんは余裕綽々。頼もしさ半分だけど、不安も半分。


『おっと、そうだ』

「ルーシーさん?」

「おい、フライとやら。これで私の声が聞こえるか?」

「!!」


 ルーシーさんの声が、脳内ではなく背後から聞こえてくる。


「る、ルーシーさ……うわぁっ!?」

「何をそんなに驚いている?」


 後ろを振り向くと、私の背後に幻影のようにルーシーさんの上半身が現れていた。


「そりゃ驚きますよ! こんなこともできたんですか?」

「まあな。なんか適当にやっていたらできた」

「て、適当って……」


 本当に変わった人だ……。でもこれで敵の魔族との会話がスムーズになるかもしれない。


「悪いが細かい話は後だ。それよりもフライ、お前はベルゼ親衛隊と言っていたな?」

「ええ、そうです。私はベルゼ様に仕える戦士。その中でも指折りの、ね」

「ということはサタナスだけでなくベルゼも……か」


 ルーシーさんの声色が少し変わった。普段の豪快でも知的でもない、哀愁に満ちた声。私にはそう感じられた。


「ショックですか? ですが悪いのは貴女です。魔族でありながら人間と仲良くなろうなどという、下らない夢を抱いていたのですから」

「…………」


 返す言葉を選んでいるのか、それとも夢を否定され何も言い返せないのか。ルーシーさんは黙ってしまった。


「いいですか? 我らベルゼ軍の魔族にとって人間は食糧――つまり餌なのです。家畜同然なのですよ。そして人間界はその養殖場。仲良くなるような存在ではないのです!」


 人間は餌。人間界は養殖場。この魔族たちにとって、人間はそういう存在。

 だけど、そんな発言は認められない。人間はそんな存在じゃない。そして魔族も。喰らう側なんかじゃない。


「……違います!!」


 フライの言葉を真っ向から否定する。彼の瞳を、真っすぐ見つめて。


「人間はあなたたちの餌なんかじゃありません!」


 魔族への恐怖心がなくなったわけじゃない。今だってこうして向かい合うのは怖いし、戦うのはもっと怖い。

 だけど、フライの言葉だけは否定せずにはいられなかった。私はルーシーさんの言葉を、想いを、信じているんだから。

お読みいただきありがとうございました。

続く第24話も投稿しております。よろしければお読みください。

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