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正義のヒロインは魔王様!?〜巫女見習いと元魔王が紡ぐ絆物語  作者: 石島マコト
第2章 漆罪魔現る!

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第021話 クイン・ルシフェリア

 泣いている子どものもとへやって来た私たち。泣いていたのは小さな男の子だった。まだ幼稚園生くらいかな?


「ぼく、どうしたの?」


 屈んで男の子と目線の高さを合わせ、できるだけ優しい口調で話しかける。すると男の子は涙を服の袖で拭い、私を見つめながら口を開いた。


「ひっぐ……。お、おねえちゃんだぁれ……?」

「私は舞桜。ぼくは? お名前、言えるかな?」

「かぜと……」

「かぜとくん、だね。どうして泣いていたの?」


 お母さんとはぐれてしまったのかな? そう予想していると、かぜとくんが答えてくれた。


「ふうせん……とばされちゃって……」

「風船?」


 空を見上げるかぜとくん。彼の視線を追うと、確かに風船らしきものが。

 だけど地上からはかなり離れてしまっている。風船だと言われなければ何かわからないほど、小さくしか見えない。


 普通に考えればもう諦めるしかないだろう。それくらい高さだ。これなら木に引っかかっていた方がよほどマシだったと思う。


『どうしましょう? 何かいい方法は……』


 何気なく心の中に問いかけると、すぐに返答があった。


『あの程度の高さならデビライズすれば余裕で届くだろうな』

『あっ、そうか! その手がありましたね!』


 確かにルーシーさんとデビライズしたあの力ならなんとかなりそう。


『それじゃあ早速……』


 だけど、ここで気付く。いいや、思い出す。デビライズした自分の姿がいかに恥ずかしい格好だったのかを。


 頭の横から生えた二本の角に、ルーシーさんと同じ薄紫色の髪と燃える炎のように赤い瞳。この辺りはまだいい。問題はそれより下だ。

 普段身に着けている下着よりも面積の狭いビキニ、腕と脚だけを覆う鎧。さらに肩から膝裏の辺りまでの丈がある暗色のマント。そしてそれが身体を包むせいで露出狂のような変態さもある。


『……どうした? デビライズするのではなかったのか?』

『…………』

『舞桜?』

『だ、だって! デビライズするということは、またあの露出狂みたいな格好をするということじゃないですかぁ!!』


 他人に見られたら間違いなく痴女として扱われる、そんな格好だ。狭い田舎町――噂は瞬く間に広がるだろう。それどころかSNSで拡散される可能性もある。そんなことになってしまったら絶対に耐えられない。


『だからあの格好は魔王の正装だと何度言えば……』

『魔界ではそうかもしれませんけど、ここは人間界なんです!! 人間界ではあの格好は完全に変態扱いなんです!!』


 数日前と同じようなやり取りを繰り広げる私たち。このまま言い合っていても埒が明かない。そう思ったのか、ルーシーさんの口から私の心を揺さぶる一言が放たれた。


『ではお前は、自分が恥ずかしいという理由で困っている者を見捨てるのか?』

『うっ……!』


 ……さすがは元魔王様だ。的確に痛いところを突いてくる。


 今、私の目の前には泣いている子どもがいる。そして、私にはその子の困りごとを解決できる力がある。

 それなのに私は、自分の恥を理由に見捨てるというの? 本当に恥ずかしいのは、自分かわいさでこの子を見捨ててしまうことなのでは……?


『……わ、わかりました。わかりましたよ、もう!』

『フッ……。それでこそ私が見込んだ者だ』


 とは言え、この子の目の前で変身するわけにはいかない。あんな姿を目の当たりにしたら、一生物のトラウマにだってなりかねない。


「えっと……。かぜとくん、ちょっと待っていてね。お姉ちゃんがなんとかするから」

「ほんとに……?」

「う、うん! 任せておいて!」


 かぜとくんを待たせ、人目につかない物陰へ。


『なんだ、あの子どもの目の前で変身してカッコつけないのか?』

『あ、当たり前ですよ! あの子にトラウマを植え付ける気ですか!?』

『ふむ……。トラウマはよくわからんが、人目を忍んで変身するというのも正義の味方みたいで逆にカッコいいかもしれんな』


 確かに正義の味方が正体を隠しているというのはよくある設定かも。そもそも私たちは正義の味方じゃないと思うけど……


『……い、いいから早くデビライズしましょう!』

『そうだな……。よし、行くぞ』

「『デビライズ!!』」


 私たちの掛け声が響く。同時に私の身体が眩い光に包まれる。身に纏っていた制服が光の粒子となって弾け、代わりに例のビキニアーマーが身体を包んでいく。髪をかき分けるように、頭の横から角が生え、口の中で犬歯が伸びる感覚がある。最後にマントを羽織り、変身完了だ。


「やっぱり、すごい力が湧いてきます……!」


 暴れ回る魔族を圧倒した力が今、私の身体に宿っている。その感覚が不思議と何でもできそうな気持ちにさせてくれる。


『あの時より私が回復したからかもしれんが、あの時以上の力を出せそうだな』

『えっ!? あの時も十分凄かったのに、あれ以上ですか?』

『ああ。あの高さまで飛び上がるなど余裕すぎて、誤って風船を割ってしまう心配をした方が良さそうだ』


 言われてみればこの溢れる力、コントロールを間違えば風船なんて簡単に割れてしまいそう。魔族と戦った時の感覚だと風船どころかコンクリートの壁だって豆腐のように粉々にできそうだし。


「じゃ、じゃあどうしたら……?」

『わからん。こういう繊細な力加減を要するものは専門外だからな』

「そ、そんな……」


 確かにルーシーさんは細かい力加減とか苦手そうだけども……


『仕方がない奴だな。風船とやらがどれほど脆いのか知らんが、例えば魔法で風船の防御力を高めてみるのはどうだ?』

「で、でもどうやって……」

『防御に関してはお前の方が得意だろう? 何か考えろ』

「そんな無茶な……」


 風船の防御力なんて、一体どうすれば高めることができるんだろう?


『とにかく何か考えろ。イメージさえすればあとは私が形にしてやる。専門外の技でもな』

「…………」


 言葉は少し乱暴だけど、ルーシーさんなりに力を貸そうとしてくれているんだ。だったらその想いに私も応えたい。イメージするんだ、風船を守る方法を。


 柔らかく脆い物を守る……。例えば梱包に使われるエアーパッキンとか? あとは水も衝撃を和らげてくれたはず。高飛び込みなんて競技があるくらいだし。


「……よし! ルーシーさん、行きましょう!」

『いい案が思いついたのか?』

「上手くいくかはわかりませんけど……。やってみます!」

『そうか。ならばまずは風船のところまで行かねばな』


 そうだった。ルーシーさんと相談しているうちに風船はかなりの高度まで行ってしまっていた。だいぶ風にも流されている。そもそも今から風船のところまで辿り着けるのかな……


「い、一体どうすれば……」

『イメージしろ。身体の周囲で渦巻く風を。宙に浮かぶ自分の姿を』

「え、えーっと……。こ、こうですか……?」


 目を閉じ、ルーシーさんの言う通りにイメージを膨らませていく。髪が風に靡くのを感じる。さらにイメージを膨らませると、まるで落下する夢を見た時に感じるような浮遊感が。そこで目を開けると――


「う、浮いている!? 私の身体が本当に浮いています……!」

『今更この程度で驚くな。本番はこれからだぞ』

「は、はい……!」


 身体が浮いた程度で驚いていては空高く飛んでいった風船を捕まえることなんてできない。それはわかっているけど、少しくらいは許してほしい。宙にずっと浮いたままの状態なんて、今まで経験したことがないんだから。


『このまま一気に空まで飛び上がるぞ! イメージは……ビューン! って感じだ!』

「急に雑すぎませんか!?」


 ルーシーさんに説明を放棄されてしまった……。なんとか自分の脳内でイメージを膨らませていく。要は空気を地面に向けて一気に噴出すればいいんだ。だから風の力を地面に向けて思い切り放つ感じで……


 ――ボウッ!!


 私のイメージがルーシーさんの力で具現化された。私の足下からジェット噴射のごとく風が吹き出し、まるで爆発のような音が響く。そして私の身体は一気に空高く舞い上がった。


 ……ううん、舞い上がったなんて華麗な雰囲気じゃない。吹き飛ばされたと言った方がしっくりくる。


「わっ!? うわぁぁぁっ!?」

『情けない声を上げるな』

「で、でも……」


 こんなの、取り乱すなという方が無理がある。それくらい凄まじい勢いで空に飛び出した。


『そんなことより風船だ。見ろ、ちょうどいい高さまで上がったぞ』

「あ、あれ? でもまたどんどん距離が離れて……」


 そこで気付く。今度は少し馴染みのある浮遊感。そう、まるでジェットコースターで一気に下っているかのような。


『おい舞桜、気を抜くな! 風をきちんと制御しないと地面に向かって急降下するぞ!』

「ええっ!? そういう大事なことは早く言ってくださいよ!!」


 このままでは地面に激突してしまう。いくらデビライズしているとは言え、空から急降下、からの地面への激突はただでは済まないだろう。

 そうならないために、私は再度先ほどのように空へ上がるイメージを膨らませた。そして再びジェット噴射で空へ。今度は先ほどよりは舞い上がるに近い上昇の仕方ができた……と思う。


『ふむ……。先程より幾分かはマシになったな』

「えへへ。まだまだですけど、それでもちょっとずつ加減がわかってきた気がします」

『だが気を抜くな。今度は身体の周囲に風を纏い、浮いた状態を保つんだ』


 目を閉じ、空気の流れをイメージする。私の周囲を囲み、浮かび上がらせるような風を。


『いい感じだ。あとは風船を捕まえるだけだが……。どうするつもりだ?』

「えっと、風船の周りを空気と水の層で覆って衝撃から守ろうかな、と。あとはゆっくり降下すれば大丈夫じゃないかと思うんですけど、どうですか?」

『ふむ……。上手くいくかはわからんがとりあえずやってみるか』


 あれ? 微妙な反応だ。あまりいい考えじゃなかったかな……


「微妙でした?」

『そうではない。ただやはりこういう地味な魔法の使い方はあまり馴染みがなくてな。上手く行くか本当にわからんのだ』


 確かにルーシーさんには何かを優しく包んで守るというイメージは似合わない。大火力で「ドカンッ!!」というイメージがピッタリだ。


「つまり一か八か、試してみるしかないということですか……」

『そういうことだ』


 彼女がそう言っている以上は仕方がない。失敗すればかぜとくんを更に悲しませてしまうだろうけど……。その時は素直に謝ろう。


「そ、それじゃあ……えいっ!」


 風船を空気の層と水の層で包む。両手を突き出し、そのイメージで掌に力を込める。するとその通りに風船は包まれ、移動を止めた。


「や、やった!」

『よし、あとはこのままゆっくりと地上に降りるぞ』

「はい!」


 勢いが付きすぎないよう、上手く風の力を制御しながら地上へと降りていく。数分後、自然落下よりだいぶ時間がかかってしまったけど、無事風船を守りながら地上に着地することができた。


「ふぅ……。あとはこの風船をかぜとくんに届けるだけ……」


 言いかけたところでルーシーさんが少し言いづらそうに声をかけてきた。


「ど、どうしたんですか?」

『……後ろを見てみろ。お前の姿、かぜとの奴にバッチリ見られているぞ』

「え゛っ……」


 慌てて振り返ると、ルーシーさんの言う通りそこにはかぜとくんの姿があった。


 ――サーッ……


 血の気が一気に引いていく。嫌な汗が背中を伝うのがわかる。だけど、かぜとくんは私が舞桜だとわかっていないのか、不思議そうな顔で見つめてくる。


『……まあ、その……。とりあえず風船を渡してやったらどうだ?』

「…………」


 私は無言で頷き、水と風が散る光景をイメージする。すると風船を覆っていた水と風の層が散り、消えていった。空気に溶けていくように。そして風船の紐を掴んで屈み、かぜとくんに手渡した。


「……おねえちゃんだぁれ? もしかしてまおおねえちゃんにおねがいされたの?」


 良かった。どうやらかぜとくんは私が舞桜だとは気付いていないみたい。それならまだ誤魔化せる……はず!


「そ、そうだよ! もう離しちゃ駄目だからね?」

「うん、ありがとう! えーっと……」

「あ、私の名前? 私は舞……」


 ……って危ない! 危うくこの姿で舞桜と名乗るところだった。せっかくかぜとくんにバレていないのに、自らバラしたらさすがに間抜けすぎるよ……


『ルーシーさん、どうしましょう?』

『フッ……。こんなこともあろうかと、この姿の時の名前を考えておいたぞ』

『そ、そうだったんですか? それじゃあその名前を……』


 ルーシーさんが考えた、デビライズしている時の私たちの名前。一体どんな名前なんだろう?


『いいか、よく聞け! “クイン・ルシフェリア”だ!!』

「く、クイン・ルシフェリア!?」


 私の要素がない! ……というのは全然構わない。というかむしろありがたい。だけど自らクイン、つまり女王を名乗るのはすごく恥ずかしいですって!


『ちょっと恥ずかしすぎませんか!?』

『どこが恥ずかしいのだ? カッコいいだろうが!!』


 そうだった! ルーシーさんのセンスは私とは全然違うんだった! だけどこのままこの名前で決定というのは恥ずかしすぎる。なんとかして別の名前にしないと……


 そう思ったけどもう遅かった。そう、私は驚いて口に出してしまっていたんだ。“クイン・ルシフェリア”という名前を。


「くいん・るしふぇりあ…………。かっこいい!!」

「……えっ?」

『フッ……。決まりだな』


 これが私とルーシーさんのデビライズ姿の名前がクイン・ルシフェリアに決定してしまった瞬間。姿だけなく、名前まで恥ずかしいものになってしまった。


「い……いやぁぁぁ――――ッッッ!!!!」


 白峰舞桜改めクイン・ルシフェリアの絶叫が、閑静な田舎町に木霊した――

お読みいただきありがとうございました。

続く第22話も投稿しております。よろしければお読みください。

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