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正義のヒロインは魔王様!?〜巫女見習いと元魔王が紡ぐ絆物語  作者: 石島マコト
第2章 漆罪魔現る!

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第019話 見透かす瞳

「この世界には“魔族”がいる」


「……なんて言ったら、あなたは信じるかしら?」


 そのたった二言に、私の心は大きく揺さぶられた。神代先輩がこの言葉を口にしたということはつまり――彼女は“魔族”という存在を「知っている」ということ。


「ま、魔族……ですか? 先輩は何を言って……」

「その呼び方じゃわからなかったかしら? それじゃあ悪魔とか、怪物とか、人ならざる者とか。そういった呼び方ならわかる?」

「…………」


 呼び方を変えてもらう必要なんてない。私は魔族を知っている。……ううん、知っているどころじゃない。現在進行形で心の中に潜伏させているんだから。


 だけど、ここで正直に答えるわけにはいかない。ありのままの事実を打ち明けた結果、私やルーシーさんがどうなってしまうのか。それがまだわからない以上、迂闊には話せない。


 本来なら頼りになる先輩に相談できるチャンスだ。だけど、それ以上にピンチだと感じていた。それほどまでに先輩の放つ圧は鋭く、私の身体を貫いていた。


「フッ……。もう答えなくていいわ」

「えっ!?」

「『知っているけど、答えるわけにはいかない』といったところかしら?」

「ッ……!!」


 ど、どうして!? まさか神代先輩は読心術でも使えるの!? さらに動揺してしまう私。すると先輩は口角を上げ、少し楽しそうに言った。


「だってあなた、すぐに目が泳ぐんだもの。嘘や隠し事、苦手でしょう?」


 確かに私は嘘をついたり、隠し事をしたりするのは苦手だ。すぐに顔や仕草に出てしまう、というのもある。

 だけど、何より心が痛む。すぐに胸が痛く、苦しくなっちゃうんだ……


「え、えっと……」

「だけど安心してちょうだい。別に魔族を知っているからといってあなたを拘束したり、始末したりするわけではないから」


 それは朗報……なのかな? さすがに「秘密を知った者は問答無用で消す!」なんて言われるとは思っていなかったけど、はっきりと口に出してもらえると少し安心する。


「ただ……霊山への落雷、そして空き地での火事。あれは十中八九魔族の仕業。私はそう考えているわ」


 先輩はただの自然現象や放火魔の可能性をバッサリと切り捨てた。


「ど、どうしてそこまで言い切れるんですか? 魔族なんて、その存在すら信じない人がほとんどなのに……」

「それは私の家系(・・)が関わってくる話になるけど……。そこまであなたに話す義理はないわね」


 先輩の家系? 確かに神代という名字は珍しいし、何かありそうだけど……


「私が魔族の存在を信じている理由なんて、今はどうでもいいの。ただそれよりも、魔族が暴れたであろう現場の近くにあなたがいた、ということが問題なのよ」

「ど、どういうことですか?」


 彼女の言葉を聞くたびに鼓動が速まっていく感覚を覚える。今にも心臓が破裂しそう、そんな感覚に陥る。


「魔族は人の心に取り憑き、身を隠すことができる。そして空き地の火事を起こした魔族は未だに姿を消したまま。ということは……」

「と、ということは……?」

「近くにいたあなたの心の中に潜伏している可能性もある、ということよ」


 す、鋭い……! 実際に潜伏しているのは火事を起こした魔族じゃなくて、その魔族たちを懲らしめたルーシーさんだけど……。魔族が私の心の中に潜んでいるところまでは見透かされてしまっている。


「ま、まさか。私の中に魔族が潜伏しているなんて、そんな……」

「……まあ、普通は有り得ないわね」


 魔族が人間の心に取り憑いて潜伏しているかもしれないなんて、普通に考えたら有り得ない。そう、有り得ないんですよ先輩!


「で、ですよね!? じゃあ……」

「だからこそこうして間近であなたを観察しているのだけどね」

「ええっ!?」


 有り得ないと言ったばかりなのにどうして!? 先輩の意図が理解できず、パニックになりそうだった。

 だけど、すぐに意図が明かさせることになる。もっとも、それがさらに私の心を揺さぶることになるんだけど。


「だってあなた、強い霊力を持っているでしょう? 強い霊力は魔族を討つ剣であり、魔族の力から身を守る盾だもの。そんな力を持ったあなたの心に魔族が潜伏するなんて、普通は有り得ないのよ」


 バレている。霊力のことまでも。


『……おい舞桜。もしかしてお前が物を知らないだけで、普通の人間は魔族や霊力について知っているものなのではないか?』

『そ、そんなことありませんって! むしろ神代先輩が特別なんですよ!』

『さすがにそうか……。しかし、そうだとするとこいつ、一体何者なのだ?』


 魔族の存在や霊力のことまで知っている人間はそうはいないはず。神代先輩がただの生徒会長でないことは明白だ。

 だけど、そうなると神代先輩は一体何者なんだろう? ルーシーさんでなくとも、気にならないはずがない。


「か、神代先輩、あなたは一体……?」


 気付けば私は疑問を口にし、先輩に問いかけていた。だけどその問いに、私たちの望む答えは返ってこない。


「今のあなたにはまだ(・・)名乗る必要を感じないわ」


 お互い自己紹介は済んでいる。だけど名乗る必要がない。ということはつまり――


「……正体を明かす気はない、ということですか?」

「ええ。そういうことになるわね」


 口調は相変わらず優しい彼女のもの。だけど、その印象は今日一日で一変した。


「あれ? でも待ってください。私が強い霊力を持っていて、魔族に取り憑かれるはずがないと思っているのなら、どうして私が取り憑かれるかもしれないと疑っていたんですか?」


 私が尋ねると、「そんなことか」と言わんばかりの表情を浮かべながら先輩は答えた。


「私は人間の持つ霊力や魔族の持つ魔力を気配のように感知できる。だからあなたが強い霊力を持っていることは以前から知っていたわ」


 神代先輩の言葉は続く。私は静かに耳を傾けた。


「そして、ただ強いだけじゃない。とても清らかな霊力だということも。だけど、そんな霊力の気配に変化があったの。霊山への落雷があったあの日に、ね」

「え……?」


 あの日に私の霊力に変化があったとすれば、ルーシーさんの影響に違いない。


「しかも、魔族の気配を感じた直後くらいから。この状況、魔族の影響を受けたと考えるのが自然じゃないかしら?」

「そ、それは……」


 即座に否定できなかった。先輩の言う通りだと私も思うから。


「ただ一つだけ、確信を揺るがすことがあるわ」

「そ、それって一体……?」

「あなたが何者かの影響を受けたのは確かなはず。でも、あなたから感じる気配には魔族のような禍々しさは混ざっていないのよね……」

「…………」


 それはきっとルーシーさんが悪い魔族じゃないからだ。だけど、それを今神代先輩に伝える勇気はない。それだけの圧が彼女にはあったから。


「……あの、お話はこれで終わりですか?」

「そうね……。今日のところは終わりでもいいわ。だけど……」


 神代先輩は立ち上がり、私の前に来ると屈んで目線を合わせてきた。そしてじっと私の目を見つめながら言う。


「私はまだ、あなたが魔族に取り憑かれている可能性を捨て切れていないわ。だから……」


 息を深く吸い、彼女は告げる。


「もしあなたが魔族の影響を受け、自覚できるような症状や現象が生じたらきちんと報告してほしいの」

「は、はい。わかりました……」


 彼女の瞳は私に拒否を許さない。私は頷き、了承する他なかった。




 神代先輩との話を終え、私は下校していた。下校中、頭の中に声が響く。


『神代(ゆう)()、か。侮れん奴だな』

「はい……」


 元々生徒会長としてデキる人だとは思っていた。

 だけど、今はそれだけじゃない。彼女は魔族の存在を認知し、霊力や魔力の感知まで行える。私の中にルーシーさんがいることにも勘付いていそう。今では憧れよりも畏怖の対象になりつつあった。


『まああの様子ならいきなり取って食われることはないだろうし、そこまでビビる必要はないだろう』

「そう……ですね……」


 正直に言うと不安は少しある。だけどルーシーさんの言う通り、身構えすぎる必要はないのかもしれない。


『ところで舞桜、何故あいつが霊山にいたのか訊きそびれたな』

「あっ……。完全に圧倒されてしまって、すっかり忘れていましたね……」

『まあ訊いたところで答えてくれたとも思えんがな』

「そうですね……」


 質問したところであの様子では素直に教えてくれたとも思えない。それに今さら戻って訊く勇気もない。気持ちが少し落ち着くと気になってくるけど、今は謎のままにしておく他ない。そう思うようにしておこう。


『それで、この後はどうするんだ?』

「体調もだいぶ良くなったので本当は神社に行きたいところなんですけど、今日までは大事を取ってお休みしようかな、と」

『ふむ……。つまりは暇ということだな?』

「ま、まあそうなりますね……」


 何だろう、ちょっと嫌な予感がする。


『暇なら人間界探索に向かうぞ!』

「ええっ!? い、今からですか!?」

『無論だ! 案内を頼むぞ、舞桜!』

「えぇ……」


 今私たちは神代先輩に目をつけられている。この人はちゃんとわかっているのかな?


「あの……。しばらく大人しくしているという考えはないんですか?」

『うむ。ないな』

「即答!?」


 この人は「侮れない」という言葉の意味を「取るに足らない」とでも思っているんじゃないだろうか。そう疑いたくなるほど軽率だ。


『生憎あの程度のことで自重する私ではないのでな』

「えぇ……」


 そういう性格じゃないのはわかっていたけど、ここは自重してほしい。本当に。


「せ、せめて日を改めませんか?」

『なんだ、そんなに嫌なのか? ならば私一人で行くぞ』

「え゛っ」


 ルーシーさんが一人で出歩く。となれば当然格好はあの露出度MAXの魔王の姿だ。あんな格好の人を街に出すわけにはいかない。


「だ、駄目です! ルーシーさん一人で出歩くなんて絶対に駄目です!!」

『駄目駄目ってなぁ……。じゃあ大人しく付き合え』

「わかりましたよ。もう…………」


 ルーシーさんってこういう時本当に強引なんだから……

 彼女の強引さに折れた私は、渋々放課後の寄り道をすることに。


 この寄り道が後の私たちの運命を左右することになるなんて、この時はまだ思いもしなかった――

お読みいただきありがとうございました。

続く第20話も投稿しております。よろしければお読みください。

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