第018話 生徒会長 神代優咲
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神代先輩からの呼び出し。どうしてもそのことが気になってしまい、全く集中できないまま今日の授業が終わってしまった。
ついに約束の放課後。生徒会室へ向かおうとする私をトモちゃんが呼び止めた。
「生徒会長サマに呼び出されるなんて、アンタ一体何やらかしたわけ?」
「や、やらかしていない! やらかしてなんかいないよ! ……たぶん」
「なんでちょっと自信なさげ?」
生徒会長直々に呼び出しなんて滅多にないこと。だからトモちゃんの反応もわからなくもない。でも、心当たりが全くないから不安になるのもわかってほしいところ。
「ま、さすがに取って食われることはないだろうし、あんま身構えなくてもいいっしょ。神代センパイは優しいって評判だしさ」
「う、うん……。そうだよね」
私も、今まで見聞きしてきた限りでは先輩は優しい人だと思う。だけど、今朝直接話した時に感じた圧は優しい彼女の印象とはかけ離れていた。恐れるには十分なほどに。
「そんなにビビってるならアタシもついてこっか?」
「えっ?」
正直に言うとついてきてほしい気持ちも少しはある。だけど、わざわざ私一人を呼び出すくらいだ。恐らくトモちゃんの同席は許されないと思う。
「だ、大丈夫。ちょっと緊張しているだけだから。先輩にはずっと憧れていたし……」
「そっか。じゃ、憧れのセンパイとのお話、楽しんできなよ」
「う、うん……!」
トモちゃんに見送られながら、私は神代先輩の待つ生徒会室へ向かった――
うちの学校の生徒会室は3階にある。3階には3年生の教室もあるため、必然的に上級生に見られながら向かうことに。
先輩たちの方も下級生がやって来るのは珍しいのか、チラチラと私の方を見てくる。注目されるのが苦手な私としては早くこの状況から抜け出したいところ。
(うぅ、見られている……。もう、生徒会室ってどうしてこんなに遠いの?)
少し俯きながらそんなことを考える。少し早足で歩くこと数分。ようやく生徒会室の前に。
――コンコンコン。
「し、失礼しま〜す……」
ノックをして生徒会室に入ると、すぐに生徒会長の姿が視界に入った。
「来たわね。待っていたわ」
私を出迎える先輩の声は、私のよく知る柔らかく優しい声。
生徒会室に入るのは初めてだ。思わず部屋の中を見回してしまう。
まず目に入ってくるのは長机だ。部屋の真ん中にコの字型に並べられており、その周りを囲むように椅子が並べられている。
正面には窓。普通の教室と同じように大小2種類の引違い窓がある。壁には沿うように扉付きの本棚が並べられており、様々な本やファイリングされた書類が保管されているみたい。
だけど向かって右側、一番手前のスペースだけ棚がない。代わりにあるのは隣の部屋へと繋がる扉だった。
「こちらへ来てちょうだい」
神代先輩が指したのはその扉だった。隣の部屋に何があるのかは知らない。私は案内されるがままその部屋へと足を踏み入れた。
「こ、ここは……?」
「会長室、とでも言うのかしらね」
「会長室……?」
生徒会長専用の部屋があるというのは初耳だった。
部屋の奥には校長先生や理事長が使っているような大きな机。そして手前の広いスペースには一人掛けのソファが2台、それと向かい合うように複数人掛けのソファが1台、真ん中には小さな机が置かれている。
うちの神社の応接室と似ているところを見ると、恐らく応接スペースだろう。
「いろいろ眺めたいかもしれないけど、まずは座ってちょうだい」
「は、はい……」
私は無意識のうちに室内をキョロキョロと眺めてしまっていた。神代先輩に促され、複数人掛けのソファに腰を掛ける。
――そわそわ。
席に着いてからも、やっぱり落ち着かない。ついつい部屋中をキョロキョロ、指をもじもじさせてしまう。
そんな私に気を遣ってくれたのか、先輩が声をかけてきた。
「飲み物は緑茶で良かったかしら? もし紅茶やコーヒーの方が良ければ言ってちょうだい」
「い、いえいえ。お構いなく!」
先輩にお茶を淹れさせるなんてとんでもない。そう思い、遠慮しようとしたけど……
「少しリラックスした状態でお話ししたいの。だから遠慮なんてしないで」
「わ、わかりました。そういうことでしたら緑茶で大丈夫です。緑茶、大好きなので……」
「そうなのね。イメージで緑茶にしてみたけど、その通りで安心したわ」
柔らかく微笑む先輩。やっぱり私って“和”のイメージなんだ。まあ食事は和食、お菓子も和菓子、飲み物も緑茶が好きだから否定のしようがないんだけどね。
私の分と先輩自身の分のお茶を用意し、先輩は席に着いた。ちょうど私と向かい合う形で。
「さて……一応、まずは自己紹介をしておこうかしら。私は3年E組の神代優咲。この学校の生徒会長よ」
「は、はい。よく存じ上げております……」
思わず姿勢を正し、堅苦しい言葉遣いになってしまう。
「そんなに堅くならなくても大丈夫よ」
「す、すみません……」
大丈夫だと言われても、ついヘコヘコと頭を下げてしまう。
「え、えっと、それじゃあ……わ、私は2年A組の白峰舞桜、です……」
「ふふっ、大丈夫。ちゃんと知っているから」
「そ、そうなんですね。恐縮です……」
まごまごしてしまう私。憧れの先輩に呼び出されるというシチュエーションに、わかりやすく緊張していた。
『おい舞桜、落ち着け。そんなザマじゃこちらから質問なんてできないだろう?』
『そ、そうですけど……!』
このシチュエーションで緊張するなという方が無理があるというもの。
「お茶、遠慮せずに飲んでいいから、少し落ち着いてちょうだい」
「す、すみません……」
本日何度目かの謝罪。先ほどから謝ってばかりな気がする。
「そうだ。本題に入る前に確認しておきたいのだけど、もう体調は大丈夫?」
「えっ? ど、どうしてですか?」
「だってあなた、一昨日救急車で運ばれたばかりでしょう?」
うぅ……。まさか神代先輩にまで知られているなんて……
「うちの学校で救急車沙汰なんて数年に一度あるかないかのことだもの。恐らくほとんどの生徒が知っているわよ?」
「えっ……」
確かに朝にクラスメイトの波が押し寄せたし、休み時間にも他のクラスの子が覗きに来ていたけど、まさかそんなに有名になっていたなんて……!!
「うぅ……。もう嫌だぁ…………」
「大袈裟ねぇ。でも、その様子ならもう体調は大丈夫そうね」
私は思わず頭を抱えてしまったけど、神代先輩はそんな私の様子を軽く流してしまう。
「それじゃあ本題に入らせてもらうわね」
「えっ!? あっ、はい!」
本題。いよいよ私が呼び出された理由が明らかになる。
――ゴクリ。
固唾を呑み、神代先輩の言葉を待つ。
「白峰さん、あなた……3日前に大きな落雷があったのは当然知っているわよね?」
「えっ、ええ、まあ。当然かはわかりませんけど、はい」
先ほどまでと彼女の口調はほとんど変わらない。だけど背筋にぞわりと悪寒が走った。
「白峰家の、しかも巫女見習いのあなたが神社の裏山に雷が落ちたことを知らないはずがないでしょう?」
「そ、それは……。そう、ですね……」
神代先輩から感じる圧がさらに強まった気がする。口調はまだ、穏やかなはずなのに。
「それに……あなた、落雷直後に裏山……霊山へ行ったでしょう?」
「え、えっと……」
「誤魔化さなくていいわよ。目撃証言もあるんだから」
少しずつ、確実に追い詰められていく感覚がある。私は神代先輩の言葉に頷いて肯定することしかできなかった。
「霊山であなたは何を見て、何をしたの?」
「え、えっと……」
「答えられないかしら? それじゃあ……」
矢継ぎ早に質問が繰り出される。彼女の口撃に、私は狼狽えるばかりだ。
「その後すぐに下山して、火事があった空き地の辺りに行っていたわよね?」
「!!!!」
まさかそこまで知られているとは思わず、私は目を見開き、そのまま言葉を失ってしまった。
『こ、こいつ何者だ? どこまで知っている?』
『わ、わかりません……。でも、なんとか誤魔化さないと……』
そう思ったけど、そんな考えは神代先輩にはお見通しだったみたい。
「その反応、どうやら図星のようね。ほぼ確信していたけど、裏付けてくれてありがとう」
駄目だ……。私が彼女の呼び出しに応じた時点でもうこうなることは決まっていたんだ。彼女の口撃で、追い詰められるということが。
「そう言えば先程、本題と言ったけど……」
追い詰められている私とは対照的に、静かな水面のように穏やかな先輩。そんな彼女の口調が余計に私の緊張を煽る。
「本当の本題はここからよ」
本当の本題。その言葉に私の身体は一層強張る。
「この世界には“魔族”がいる」
彼女の口から、ついにその言葉が飛び出てしまった。
「……なんて言ったら、あなたは信じるかしら?」
神楽女学院生徒会長・神代優咲。彼女は“魔族”を知っていた――
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