第017話 ファーストコンタクト
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魔王様(元)と一緒にお風呂という貴重な体験を終え、今はその魔王様の髪を乾かしているところ。
「ほう。人間たちはこれで髪を乾かすのか」
「そうですね。魔族はどうやっているんですか?」
「風の魔法や炎の魔法で一気に乾かしているな」
「それは髪にかなりのダメージを与えそうですね……」
相変わらず魔族たちのやり方は大胆だ。それだけ彼らの身体が丈夫だから許されることなんだろうね。
「よし。これでOKです」
「おおーっ! 今までにないほど髪がサラッサラだ!」
無邪気に喜ぶルーシーさん。こういう姿を見ると、改めてこの女性が昔出会った子と同一人物なんだと再確認する。
魔王様とのバスタイムを終え、ルーシーさんは再び私の心の中に。私も自分の部屋へと戻る。
『もう眠るのか?』
「はい。今日は大人しくしておこうと」
『そうか。ゆっくり休むといい』
ルーシーさんとおやすみの挨拶を交わし、私は眠りにつく。疲れが溜まっていたからか、それともお風呂でリラックスできたからか。理由は定かじゃないけど、昨夜よりもすぐに眠りにつくことができた――
「うーん…………」
どれくらい眠っていたんだろう? 部屋の中も窓の外もまだ暗い。
時計に目をやると、時刻は深夜2時。まだ寝ているべき時間だった。
「……まあこうなっちゃう気はしていたんだけどね」
それでも、途中で一度も目覚めることなく10時間以上眠っていたことを考えると、本当に疲れが溜まっていたんだと実感する。
ルーシーさんの方は……静かだ。今はまだ眠っているみたい。
「そう言えばあの落雷以降、一人静かに過ごす時間ってなかったかも」
霊山への落雷、ルーシーさんとの再会、魔族たちとの戦闘、そしてルーシーさんとの合体――デビライズ。
その反動か、学校で倒れて救急搬送、そして検査入院。さらに入院中にテレビで観た、霊山へ向かう神代先輩の姿。
たった3日間で本当にいろいろな出来事があり、正直気持ちの整理ができていなかった。現在深夜2時。ルーシーさんもまだ眠っている。今なら一人で落ち着いて考え事ができそうだ。
仲間だったはずの魔族たちに追われ、人間界へやって来たルーシーさん。そして現れた追っ手の魔族たち。
彼らの追撃はあれで終わりだったの? それともまだまだ追っ手がやって来るの? もしそうなった時、私は一体どうしたらいいんだろう?
様々な考えが次から次へと頭の中に浮かんでくる。
もしまた彼女を狙う魔族が現れたら、その時はまた一緒に戦うことになるのかな? デビライズしたあの姿で。あの露出度MAXな魔王の姿で…………
思い出すだけで顔が熱くなり、嫌な汗が出てきてしまう。今鏡を見たらきっと顔が真っ赤に染まっていることだろう。
「うぅ……。またあの格好、しなきゃいけないのかな? でもあの姿に変身しないと戦えないし……」
ルーシーさんは魔王の正装でカッコいいと言っていたけど、私には防御力0のただの痴女スタイルとしか思えなかった。あんな格好で戦うなんて、どう考えても正気の沙汰じゃない。
だけど……もしまた魔族が現れたら? ルーシーさんの命が狙われたら? 無関係な人たちが巻き込まれたら? 助けられるのはルーシーさんとデビライズした私しかいないのかもしれない。
「いつまでも恥ずかしがってちゃ駄目、なんだよね……」
私の持つ霊力やルーシーさんとの合体が誰かの役に立ったり、誰かを守ったりできるのなら、それはとても嬉しい。だけどそのためには恐ろしい魔族と戦わなければならない。ものすごく恥ずかしい格好で。
「私なんかにできるのかな…………」
胸に湧き上がる不安に、思わず呟いてしまった。
「ふわぁ〜……」
『なんだ? 随分眠そうではないか』
『はい……。夜中に目が覚めたっきり寝付けなくて、それで今になって眠気が……』
せっかく早く、そしてたくさん寝たのにその甲斐がない。
『お前って意外と不規則な生活を送るタイプなのか?』
『普段はこんなことは滅多にないんですけどね……』
十中八九倒れたり、変な時間に眠ったりしたせいだと思う。
『ふむ……。だとするとやはり私への霊力供給の影響か』
『……ああ。それですね原因』
ルーシーさんはかなりの出血や大火傷をしていたはずなのに、数日で入浴ができるほど回復した。私の霊力供給は決して無駄じゃないはず。
だけど私自身の生活にもかなりの影響が出てしまっているのは由々しき事態。この現状をなんとかする方法はちゃんと考えないといけないよね……
「どうしたんじゃ舞桜? ぼーっとして」
「えっ!? あっ、いや、何でもないよ!」
「まさかまだ体調が……」
「だ、大丈夫! 本当に大丈夫だから!」
ルーシーさんとの脳内会話に夢中になってしまい、祖父母に心配されてしまった。特にお祖母ちゃんの視線が怖くて痛い。
「い、行ってきます!」
「行ってらっしゃい。くれぐれも無理するんじゃないよ?」
「は、はい!」
祖父母に見送られながら学校へ向けて出発。昨日とは違い、今日は時間にかなりの余裕がある。ゆっくり歩いて向かっても十分間に合いそうだ。
『先日はゆっくり眺める時間がなかったが、ここがお前の暮らす街か。自然が豊かで中々良いところだな』
「そうですね。それでいて程よく栄えている場所もあるから、すごく田舎っぽいというわけでもなくて。結構暮らしやすい街だと思います」
こういう地域を地方都市と呼ぶのかな? トモちゃんには「いや普通に田舎っしょ」と否定されそうだけどね。
「おーい、マオー!」
ルーシーさんと話しながら登校していると、ちょうど思い浮かべていた彼女の声が。振り向くと既にこちらへ向かって駆け出していた。
「と、トモちゃん! おはよう」
「おはよ。それよりマオ、無事だったならちゃんとメッセージ返せよなー」
そう言えばトモちゃんから何通かメッセージが届いていた。だけど私はトモちゃんに隠し事をしている。その後ろめたさもあって返信を躊躇っているうちに返信自体を忘れ、未読スルーをしてしまっていた。
「ご、ごめんね。病院ではずっとスマホの電源を切っていたし、退院してからもほとんど寝ていたから……」
「ふーん……。まあアンタって四六時中スマホ触ってるタイプじゃないしね」
トモちゃんの言うように、私のスマホの使う頻度は最低限に近い。日常の連絡と、あとはちょっとした調べ物や電子書籍を読む程度。その電子書籍も、紙の本の方が好みのため、本当にたまに利用しているだけ。その他ゲームや動画、SNS等のために使うことは少ない。
「それで、結局なんで倒れたのかはわかったわけ? とどめはボールが顔面にぶつかったことだろうけど……。そもそも普段のマオならあんなヘマしないよね?」
「え、えっと……。疲れが溜まっていたみたいだってお医者さんは言っていたよ」
「疲れ、ねぇ……」
納得がいかない。そう言わんばかりにトモちゃんは眉をひそめている。だけど魔族に霊力を供給しているせいだ、なんて言えるはずがない。
「……ま、あんま無理しないよーに」
「う、うん。気をつけるよ……」
納得がいっていない様子のトモちゃんだけど、それ以上深く追及してくることはなかった。
――ズキッ。
胸が痛む。仕方がないことだけど、やっぱり隠し事をし続けるのは苦しい。
だけど、この秘密はそう簡単に打ち明けるわけにはいかないんだ……
苦しみを胸に、私はトモちゃんと一緒に学校へと向かった。
学校に着き、教室に入るといつもと様子が違った。私に気が付くと、すぐにみんなが駆け寄ってきたのだ。
「白峰さん、大丈夫?」
「救急車で運ばれるというのはどのような感覚ですの?」
「今日も須藤さんと一緒に登校だなんて、お二人は本当に仲良しですわね♪」
……なんだか違うものも混ざっていたような気がするけど、とりあえず私が倒れ、救急車で運ばれた件に興味がある子が多いみたい。
(まあ無理もないよね。うちの学校で救急車沙汰なんて年に一度もないことだし。身内でもそうそうあることじゃないだろうし……)
私を囲むクラスメイトたち。だけどその輪は急に散ることになった。ある人物の登場によって。
「あ、あれは、神代会長!?」
「神代様、今日も麗しく凛々しいお姿……♡」
「ですがなぜ2年生の教室へ?」
神代優咲。神楽女学院の3年生で現生徒会長。そして私を始め、多くの生徒の憧れの存在。そんな彼女が一体何の目的で2年生の教室へやってきたのか。その答えはすぐに判明する。
「白峰舞桜さんはもう登校しているかしら?」
そう、彼女の目的は私だった。
「はい。あちらにおりますわ」
「ありがとう」
質問に答えた生徒に、凛々しくも優しい笑顔で礼を言い、私の方へ向かってくる。
「あなたが白峰舞桜さんね?」
「は、はい。そうですけど……」
――ぞわっ。
思わず身震いしてしまった。向かい合う先輩の表情は柔らかいのに、背筋に寒気が走るような感覚が。
「放課後、生徒会室へ来てください。大事なお話があります」
柔らかな表情は崩れていない。だけどその言葉からは得体のしれない圧を感じ、私は静かに首を縦に振ることしかできなかった。
「それでは失礼するわね、白峰さん」
「は、はい……」
先輩はすぐに去ってしまった。だけどその後も私はまるで蛇に睨まれた蛙のように、その場で固まってしまっていた。クラスメイトが騒ぎ出していたけど、何を話しているのか全く頭に入ってこない。
『おい舞桜、しっかりしろ! いつまで呆けているんだ』
『あっ、ごめんなさい……』
頭の中に響くルーシーさんの声で我に返る。
『まさか向こうから接触してくるとはな。だが良い機会だ。霊山にいた理由、訊いてみようではないか』
「…………」
確かに神代先輩が霊山にいた理由は気になる。ルーシーさんの言う通り、訊いてみるには絶好のタイミングだと思う。
だけど先輩からは謎の圧を感じた。果たして彼女の放つ圧力に臆することなく質問なんてできるのだろうか。
『お前が訊けないのなら、代わりに私が訊いてやろうか?』
『そ、それは絶対に駄目です! ……はぁ。ルーシーさんに質問させないためにも、私が訊くしかないかぁ……』
どうやら諦めて覚悟を決めるしかないみたい。憧れの神代先輩と話せる機会。本来なら嬉しいはずなのに、こんなに気が重くなるなんてね……
先輩からの突然の呼び出し。これを機に私たちの関係が大きく変わっていくことになるなんて、この時の私はまだ考えてもいなかった――
お読みいただきありがとうございました。
続く第18話も投稿しております。よろしければお読みください。




