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カジバノチカラ - 鉱石少女がエクスカリバーになるまで -  作者: 上田文字禍
第2部 「魔剣衝突」
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44「心刃一体」

「ギィィィァァァアアアッ!!!」

 職人殺しが咆哮(ほうこう)した。


 黒竜の巨大な口が開き、その奥が真っ赤に染まる。


「まずい!」

 右脚へ魔力を流す。

 足裏から水が爆発的に噴き出した。


 川から伸びた白銀の管が大きくしなり、おれの身体が真横へ弾かれる。


 直後。


 ゴォォォォォォッ!!!

 炎が、さっきまでいた空間を焼き払った。


「あっちぃぃぃっ!!!」

 避けても熱い。


 それでも――


「当たらなきゃ、どうってことねぇ!」

 両脚の噴射角を変え、そのまま一気に下降。

 黒竜の腹の下へ潜り込み、左脚だけを強く噴かす。


「ぐぉっ!」

 身体が半回転する。


 まだ思った通りには動かねぇ。

 でも飛べる。追える。

 もう、こいつの背中を見上げるだけじゃねぇ!


「……見つけろ」

 やつをたおすための方法を。


 視線を動かす。

(……首から腹にかけて刻まれた、ハルジオンの斬撃の跡)

 おかげで動きは鈍ったが、致命傷じゃねぇ。


(そうだ)


 水の試練で、おれは父ちゃんの記憶を見た。

 あの日、父ちゃんは職人殺しに殺される直前、錬成魔術(モーフィング)を使った。

 そして、職人殺しの腹に傷をつけた。


 黒竜の腹に目を向ける。


「……あった」

 右の脇腹。

 鱗の奥へ走る、大きな亀裂。

 六年前、父ちゃんがつけた傷だ。


 その周囲には、さっきハルジオンが刻んだ斬撃まで重なっている。


(傷が――繋がってる)


 父ちゃんが残した傷。

 ハルジオンが広げた傷。


(だったら)


 そこへ、おれたちが最後の一撃を入れる。



 職人殺しが動いた。

 おれは軌道を変え、やつの腹部をねらう。


『カジバ! 焦っちゃダメ!』

 そんなリルの声を無視して、水を噴射する。


 尾をかわす。

 鉤爪(かぎづめ)をかわす。

 牙をかわす。


「邪魔すんなぁっ!」

 水圧を限界まで上げる。


『カジバ! 速すぎる!』


 忠告は聞こえていた。

 でも、止まれなかった。


 あと少し。

 あと少しで――


 職人殺しが急に身体を沈めた。

 おれの目の前から、その巨体(きょたい)が消える。


「は?」


 行き場を失ったおれの身体が、空中で大きく傾く。


「まずっ――」


 噴射方向が崩れる。

 回る。


 空。地面。空。


『カジバ!』

 最後はリルが無理やり噴射を変えた。


 地面すれすれで水流が弾ける。

 落下の勢いは殺しきれない。


 おれは、石畳へたたきつけられた。


「……まずった」

 意識が朦朧とする。


 見上げると、黒竜が羽を広げている。

 また、武器を飛ばす気だ。


「立て! カジバ!」

 ハルジオンの声。


 視界の端で、なにかが光った。

 降り注ぐ武器がおれに向かう。


(身体、動かねぇ……)


『カジバ!』

 リルの声。


「カジッ!」

 続いてアルヴィースの声。


(すまねぇ……こんな)


 ガガガガガガッ!!!

 武器が突き刺さる音が響いた。



(……あ?)

 おれは目を開ける。


「……なにが」

 目の前に、アルヴィースが立っていた。


 おれの前で両手を広げた姿勢のまま、立っている。

 その腹からは――剣先が出ていた。


「……あ」

 時間が止まったように感じた。


 アルヴィースが振り向く。

「ったく……。頭冷やせ……カジ」


「アルヴィース!!!」

 おれは地面を這(は)う。

「おい、アルヴィース!」


「うるせぇ……」


「なにしてんだよ……」

 アルヴィースの腹に触れる。

 熱い。手が真っ赤になる。


「なんで庇ったんだよ、クソジジイ……!」

「ガキを庇うのが……ジジイの仕事だろうが……」

「……っ」



 おれは上空の黒竜を見上げる。

 「……てめぇぇぇぇぇぇっ!!!」


 《アクアドライブ》へ、魔力をたたき込む。


 水が爆発した。

 おれの身体が、職人殺しへ一直線に飛ぶ。


 やつの爪が来る。


「知るかぁっ!!!」


 頬を裂かれる。

 それでも止まらない。


 おれは右手を伸ばす。

 触れればいい。

《錬成魔術》をたたき込む。


「“ブッ壊してやるっ"!!!!!!」


 こいつを壊せるなら。

 腕が折れても、身体が砕けても――


『ダメ!!!』

「――っ!」


 突然、《アクアドライブ》が横へ逸れた。


「なにすんだ、リル!」

『カジバが死んじゃう!』

「知るかぁ!!!」

『私は知るよ!!!』


「――っ」


 リルの叫びでハッとする。


『カジバがいなくなったら、私は悲しい!』

「……」

『アルヴィースさんを傷つけたあいつがムカつく! カジバのお父さんとお母さんのことも! 私だって、あいつをたおしたい!』

「だったら――」


『でも!』

 リルが遮った。


『ブッ壊すなんて――そんなの、鍛冶じゃない!!!』

「……!」

『それに、使うひとが死んじゃう武器になんて……なりたくない!』

「……」


 胸を殴られたみたいな衝撃だった。

 頭にのぼった血が、引いていくのがわかる。


『壊すだけじゃなくて――私と、つくろうよ』


「……」


 つくる。

 そうだ、おれは――。


「……なにやってんだ、おれ」

 職人殺しを見上げる。


 あいつを壊す。

 そのことしか考えてなかった。


 (ちがうよな。この力は……殺意で動かすんじゃねぇ)


「悪ぃ、リル。手間かけさせた」

『いいよ』


 大きく息を吸う。

 そして吐く。


 気の試練で、何度もやった。

(呼吸を合わせる)


「見ろ……」

 おれは、職人殺しを見る。

「考えろ」

(怒りはあっていい。許せるわけねぇ)

 だけど、怒りだけで金槌を振ったって、いい武器なんてつくれねぇ。


「おれは――職人だ」


 ねらいはわかっている。

 右の脇腹。

 父ちゃんが残した亀裂、ハルジオンが広げた傷。

 そこだけでいい。

 あそこへ、おれたちの全部をたたき込む。



*   *   *



 地上に降り、アクアドライブをリルに戻す。


「カジバ無事か!」

 ハルジオンがかけ寄ってくる。


「ああ!」

 おれはあたりを見る。


 ガラールとヴェイグたちは、職人殺しの動きを止めている。

 他のドワーフたちも戦っている。

 ナーガの軍勢(ぐんぜい)は、少しずつ押し返されていた。


 そして。


「アルヴィース!」

 ヘイミルが、たおれたアルヴィースの脇腹へ布を巻いている。


「大丈夫なのか!?」

 おれはヘイミルに聞く。


「傷は深い。だが、急所は外れている」

「……ほんとか?」

 ヘイミルが力強くうなずいた。

「応急処置はした」


「……よかった」

 全身から力が抜けそうになった。


「勝手に……殺すんじゃねぇ……」


「!」


 アルヴィースが薄く目を開けた。

「ジジイ!」

「だぁれが……ジジイだ……」

「ジジイだろ!」


「ガハ……」

 アルヴィースが笑った。


「あとで肉奢ってやるからな」

「最高級の……やつな……」


「ああ、約束だ」

 おれは立ち上がる。


「……カジバ」

 声をかけてきたのはエグレだった。

「やっぱりアタシの眼……職人殺しには効かなかった」


「試したのか?」

「一瞬だけね」

 エグレが黒竜を見上げる。


「大丈夫」

 おれはエグレの肩をたたいた。

「ここまでやってくれたんだ。あとは――おれたちがたおす」

 おれは、リルとハルジオンを見た。


 ふたりも同意してうなずく。


「ありがとな、リル」

 おれはリルに声をかけた。


「え?」

 リルが首を傾げる。


「おれを止めてくれて、ありがとう」

 リルは少し驚いた顔をしたあと、

「……うん」と笑った。


 おれは、リルの手を握る。

「もう一回。力を貸してくれ」

「もちろん」

 リルが手を握り返す。


「あ、いや。……ちがうな」

「え?」

「“貸してくれ"、じゃねぇ」

 握った手に力を込める。

「“一緒につくろう"」


 リルが目を見開いた。

 そして――

「うん」と、笑った。


 おれたちは目を閉じる。

 呼吸を合わせる。

「おれは、あいつをたおしたい」

「……私も」

「アルヴィースを守りたい。ガラールの旦那も。里のみんなも」

「うん」

「ハルジオンも。ヘイミルも。エグレも」

「うん」

「……お前も」

 リルがおれの手を強く握り返した。

「私も、カジバを守りたい」


 その瞬間、繋がった。


 おれの魔力がリルへ流れる。

 同時に、リルの魔力がおれへ流れ込んでくる。


 いままでは、おれがかたちを決めていた。

 リルを、必要な武器へ変えていた。


 でも。

 こいつには心がある。

 なりたいかたちがある。

 守りたいものがある。


 だったら……。


 おれがリルを武器にするんじゃない。

 リルがおれの武器になるんでもない。


 ふたりで、ひとつの武器をつくる。


(……これだ)


「心と心を重ね――ひとつの刃と成す!」


「「《心刃一体(しんばいったい)》!!!」」


 銀光が爆発した。


 まばゆい光のなかへ、両手を伸ばす。

 指先が、なにかに触れた。


 それを握り、一気に引き抜く。


 光が収束していく。

 おれの手のなかにあらわれたのは――白銀の長剣(ロングソード)。

 見た目は、これまでの《レヴェル》と大きく変わらない。


 だけどわかる。

 まるで別物だ。


 とんでもない量の魔力が、刃の内側をかけ巡っている。

 それなのに、少しもかたちがぶれない。


 魔力と刃が、完全にひとつになっている。


『カジバ!』

「ああ!」


 おれたちは同時に叫んだ。

「「《レヴェル、Ⅳ》!!!」」


「ギィィィァァァアアアッ!!!」

 職人殺しが咆哮した。


 黒竜の全身が、ぼこぼこと盛り上がる。


「来るぞ!」

 ハルジオンが短剣(ショートソード)を構える。


 黒竜の鱗のすきまから、数え切れないほどの武器が生えてくる。

 職人殺しが殺してきた、職人たちの作品。

 かたちだけを真似た、中身のない模造品。

 それが、一斉に放たれた。


「またそれかよ」

 おれは、《レヴェルⅣ》を構える。


「そんなもん――!」

 長剣を振る。

 ただ、それだけだった。


 長剣の魔力が爆発し、飛んできた武器の群れが、まとめて弾き飛ばされる。


「……は?」

 自分でも驚きの声が出た。

「これヤベぇ!!!」


『カジバ! 喜んでる場合じゃないよ!』

「そうだった!」


 職人殺しを見る。

 そして、長剣を見る。


 この長剣を一番強く使えるのは――おれじゃない。


「ハルジオン!」

「ああ!」

 すぐさま声が返ってくる。

 あいつも、わかっていた。


 長剣を持ち、おれは走る。

 ハルジオンも走ってくる。


「ねらいは右の脇腹だ!」

「ああ、見えている!」

(《天眼》か……さすがだぜ)


「頼んだ!」

 すれちがいざま、《レヴェルⅣ》をハルジオンへ託した。


 迷いはなかった。


 おれは鍛冶師だ。

 最強の武器をつくる。

 そして、一番強く使えるやつへ渡す。


「あとは任せろ!!!」

 長剣を受け取ったハルジオンが、地面を蹴る。


 危険を感じたのか、職人殺しが巨大な翼を広げた。


「逃がすかぁぁぁっ!!!」

 ガラールの声が飛ぶ。


 魔鎖、《ドローミー》が、黒竜の右脚へ巻きついた。


「野郎どもぉ! 竜の動きを止めろぉ!!!」

「おおおおおおっ!!!」


 ガラールの掛け声で、無数のドワーフたちが魔鎖へ飛びつく。


 さらに……。


「吾輩も忘れるなぁ!!!」

 ヴェイグの戦鎚(ウォーハンマー)が、黒竜の左脚へたたき込まれた。


「ギィッ!!!」

 職人殺しの身体が傾く。

 しかし、それでも飛ぼうとする。


「引けぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 ガラールの号令。

 何十人ものドワーフが、一斉に魔鎖を引いた。


 黒竜の身体がほんの一瞬、止まった。


「いまだぁ!!!」

 ガラールがハルジオンに叫ぶ。


「引き受けた!」

 ハルジオンは右眼の眼帯へ手をかけ、外す。

 青緑色の、《天眼》が輝いた。


「ねらいは見えた」

 ハルジオンが長剣を両手で握る。


 黒竜の右の脇腹へ、剣先が向けられる。


「《理論武装(ウェポンアーツ)》――」


 ハルジオンの構えが変わった。


 いままで見たことがない構え。

 斬るためじゃない。

 全身の力を、たった一点へ……。一本の剣へ……。

 全てをブチ込むための構え。


「七式ぃ!!!」


 職人殺しが炎を吐こうと口を開く。


「対竜―― 一撃必墜」

 ハルジオンが踏み込んだ。


「《バルムンク》!!!」


 銀色の閃光が、黒竜の右脇腹に突き刺さる。


「墜ちろぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 ハルジオンは両手で柄を握ったまま、さらに押し込んだ。


 バキッ。


 小さな音。


 黒竜の鱗に一本の亀裂が走った。


 そこから。二本。三本。

 蜘蛛の巣みたいに、亀裂が広がっていく。


「ギィ……ァ……」

 職人殺しの身体が震えた。


「……父ちゃん、母ちゃん」

 そんな声が勝手に出た。


 六年前、おれから全部を奪ったバケモノ。

 夜になるたび怖かった。

 いつかまた来るんじゃないかって。

 おれのつくった武器も、大切なひとも、全部また奪われるんじゃないかって。


 だから――

 最強の武器をつくろうと思った。


「やっと――」


 黒竜の身体が崩れた。

 鱗が剥がれ、翼が砕け、巨大な身体が赤紫色の鉱石へ戻っていく。


 黒竜が落ちる。


「やっと……終わった」


 大地が揺れ、土煙が舞い上がる。

 赤紫色の巨大な鉱石が、音を立てて砕け散った。



*   *   *



「……やった」

 膝から一気に力が抜けた。


(あれ……立ってられねぇ)

 地面に両手をつく。

 そして。


「いっ――!」

 両手に激痛が走った。


「いてぇぇぇっ!!!」


 手のひらを見ると真っ赤だ。

 皮膚の内側から焼かれているみたいに、ジンジンする。


「なんだよ、これ……」


 対魔力があるからって、なんでも平気なわけじゃない。


《レヴェルⅣ》。

 あまりにも大量の魔力が、おれの身体を通った。

 身体そのものが、耐えきれなかったんだ……。


 少し離れた場所。

 ハルジオンも、痛みが襲い長剣を落としていた。


「お前もかよ……」

「笑うな……」

「笑ってねぇよ……」


 ハルジオンはそのままたおれた。


「おい!」

「大丈夫だ。魔力を使いすぎただけだ……」

 ハルシオンはたおれたまま返答する。


「それ大丈夫って言わねぇだろ!」


「……アンタもね」

「うぉっ」

 たおれそうになった身体を、横から支えられた。

 エグレだ。


「……ったく。男って、なんで限界までやってからたおれるわけ?」


「ありがとな……」

「重いんだけど」


 エグレに肩を借りて立ち上がる。

 そのまま、職人殺しが落ちた場所へ向かった。


 赤紫色の鉱石が、散らばっている。


「……これが」

(父ちゃんと母ちゃんを……)


「……」

 なにを言えばいいのかわからなかった。


 嬉しいはずなのに。

 胸の奥に、穴が空いたみたいだった。


(あれだけたおしたかったのに)

 たおしたからって、父ちゃんと母ちゃんが帰ってくるわけじゃない。


「……カジバ」

 エグレが小さく呼ぶ。


「ああ。大丈夫だ」

 おれは言った。


 そのとき。

 残骸のなかで、なにかが光った。


「……ん?」

 他の破片とはちがう、拳くらいの大きさ。

 赤と緑。二つの色が混ざった、ひび割れた鉱石。


「これは……?」

 近づこうとすると。


 バサッ!


「うぉっ!?」


 一羽のカラスが空から降りてきた。

 黒いくちばしが、ひび割れた鉱石をくわえる。


「あ! おい!!!」


 カラスがこちらを見る。

『まさか――』


「……!」


 声。

 カラスが喋った。


『まさか、やられちゃうなんてね』

 女の声だった。


(この声は、聞いたことがある)


「てめぇ……《沈黙の魔女》だな」


『……これは渡せないわ』

 カラスは首を傾げたあと、ぎこちなくこちらへ向く。

 見ているのは、エグレだ。


『……あら?』


「……っ」

 エグレの指が震えている。

 さっきまでナーガの軍勢を前にしても、あんなに強気だったやつが。

 息すらできないみたいに固まっている。


『エグレ、久しぶりじゃない』

「……」

『あなたはそこで、なにをしているのかしら?』


「……わ、私は」

 エグレの声が震えた。


『……まあ、いいわ』

 カラスが翼を広げる。

『また会いましょう』


「おい! 待ちやがれ!!!」


 カラスが飛び立つ。

 黒い点が、空の向こうへ消えていった。


「くそっ……!」

 職人殺しの核を、持っていかれた。


 見届けたあと、エグレが一気に息を吐いた。

「っはぁ! はぁ……」


「……エグレ、大丈夫か」

「……」

 返事がない。


「おい、エグレ」

「平気」

 エグレが強く答える。

 でも、平気な顔じゃなかった。


「……それより」

 エグレが周囲を見る。

「終わったみたいよ」


「あ?」

 顔を上げる。

 職人殺しをたおしたことで、ナーガ軍の動きも崩れていた。

 やつらは武器を捨て、次々と里の外へ逃げていく。


「追えぇぇぇ!」

「二度と来るなぁ!」

 ドワーフたちの怒声が響く。


 勝った。

 今度こそ。


 そう思った――そのとき。


 ヒュゥゥゥ――


「……あ?」

 空から、なにかが落ちてくる。


「カジバ!」

 エグレが叫んだ。


 ドォンッ!!!


 おれたちの目の前へ、一本の長剣が突き刺さった。


「な、なんだぁ!?」


 漆黒の剣身。

 刀身も、柄も、なにもかもが、黒い。

 それは、見たことのない鉱石でできていた。


「魔鉱石……?」

 おれが近づこうとした瞬間。


「待て!」

 ハルジオンの声が響いた。


 振り返ると、ハルジオンが長剣を杖代わりにして身体を起こしている。

「カジバ! その剣から離れろ!」


「え?」


 ふたたび黒い長剣を見る。

 黒い刀身が、ぐにゃりと歪んだ。


「うぉっ!?」


 黒い長剣が、光に包まれる。

 伸び、広がり、ひとのかたちへ……。


「擬態(トランス)……!?」


 光が消える。

 そこに立っていたのはひとりの女だった。


 黒髪。

 透き通るような白い肌。

 冷たい目。


 彼女は周囲を見まわした。


「……お前、まさか――」

 ハルジオンが信じられないものを見るように、目を見開く。


 女の視線が、ハルジオンから、ハルジオンの持つ長剣へ移った。


「なんでここにいる! 《アダマンタイト》」

 ハルジオンが、その名を口にした。



☆本作に登場する武器と種族のかんたん解説!☆


■バルムンク

ドイツの英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』に登場する名剣。

英雄ジークフリートが手にし、竜を倒した「竜殺し」の剣としても知られるよ。


本作では《理論武装》七式として登場。

防御を捨て、全身の力をただ一度の攻撃へ集中させる《必殺》の型。

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