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カジバノチカラ - 鉱石少女がエクスカリバーになるまで -  作者: 上田文字禍
第2部 「魔剣衝突」
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43「EXTRA WEAPON」

 胸部の奥で、リルの魔力が少しずつ、《バスターアーマー》全体へ流れ始めていた。


 装甲のすきまを縫うように細い銀光が走り、肩から両腕へ、腰から両脚へと枝分かれしていく。

 長いあいだ、ただの鉄塊だった巨大装甲に、まるで血が通っていくみたいだ。


「お、おお……!」

 思わず声が漏れた。


 アルヴィースは胸部の横から半身を乗り出し、内部に並ぶ歯車を確認しながら叫ぶ。

「そのままだ、嬢ちゃん! 魔力を止めるな!」


「と、止めるなって言われてもぉ……!」

 装甲のなかから、リルの涙声が聞こえる。

「これ、どこまで出せばいいの!?」


「まずは全部に行き渡るまでだ!」


 直後、巨大な右腕が動いた。


「……」

 おれたち全員が黙る。


 続いて左腕が持ち上がり、巨大な五本の指がぎこちなく開閉する。

 首が左右へ動き、最後に両脚が地面を踏み締めると、倉庫全体がズンッと揺れた。


 アルヴィースは一瞬だけ呆然としていたが、すぐに両腕を突き上げた。


「ガァッハッハッハ! 見たかぁ!!!」

 笑い声が倉庫中に響き渡った。

「《バスターアーマー》、起動成功だぁ!!!」


「え、えっ! 待って!」

 胸部からリルの声。

「ど、どうやって動かすの、これ!?」


「歩くんだよぉ!」

 アルヴィースが言う。

「歩き方がわかんないよぉ!」

「だったら走れ!」

「もっとわかんない!!!」


 アルヴィースが操作盤の横にある太いレバーを、勢いよく手前へ引いた。

 すると、バスターアーマーの両脚から大量の金属音が鳴りはじめる。


「な、なんだ!?」

 目を凝らす。


 脚部の装甲が左右へ展開した。

 そのなかから姿をあらわしたのは――無数の小さな車輪を、分厚い金属帯で繋いだ機構。


「……なんだぁ、その脚!」

 おれは目を見開く。


「歩かせるより、こっちのほうが速ぇと思ってな!」

 アルヴィースが腕を組む。

「これ、設計図にないのかよ!」

「ガハハッ! 《改作リメイク》だぁ!!!」


「ふえーん……」

 リルの情けない声。

「リル! とりあえず魔力流し続けろ!」

「カジバまで適当なこと言わないでぇ!」


 そのとき、倉庫の外から蛇人間たちの叫び声が響いた。

 軍勢が迫ってきている。


「アルヴィース!」

「わかっとる!」

 別のレバーを、アルヴィースがたたき込む。


 ギュルルルルルルルッ!!!


「は?」


 バスターアーマーが突然、前方に飛び出した。


「うぉぉぉっっ!?」

 おれとアルヴィースは、咄嗟に装甲横の取っ手へしがみつく。


「きゃぁぁぁ!!!」

 リルの悲鳴。


 巨大装甲が倉庫の扉をブチ破り、そのまま蛇人間の軍勢へ突っ込んだ。

 先頭の蛇人間たちが槍を構える。

 だけど――止まれるわけがない。


 衝突。

 何十体もの蛇人間が、まとめて宙を舞った。


「まじかよ……」

 このデカブツ。

 見た目はとにかく重そうなのに、脚部の履帯がまわり始めると、グルファクシにも負けない速度で地面をかけ抜けていく。


 反対側から、ローニがひらりと装甲へ飛び乗った。

「これは、なかなか刺激的だネ☆」


「お前らだけズルいぞぉぉぉ!」

 スラーインも走りながら装甲へ飛びつく。


「お前らぁ! 乗れ乗れぇ!」

 アルヴィースが笑う。


 ドヴァリン、ハーナルもそれぞれ装甲へ飛びついた。


 ハルジオンは合流したグラニテイオーへ跨がり、ヘイミルとエグレはグルファクシに乗って、おれたちの横へ並んだ。


「前だ! 来るぞ!」

 ハルジオンが叫ぶ。


 前方には、道を埋め尽くすほどの蛇人間。

 一斉に槍を向けたやつらを、三戸の職人たちが次々と払い落としていった。


 右肩では、ローニが連射弓を構える。

「ボクたちを忘れてもらっちゃ困るネ☆」

 放たれた矢が、蛇人間の肩や腕を正確に射抜く。


 反対側では、スラーインの《シェイバー》が迫る槍をまとめて斬り落とした。

「ぬぅぅぅん! 六枚刃ぁ!!!」


 足元へ近づいた敵は、ドヴァリンの馬鹿みたいに長い剣が薙ぎ払う。

 頭上から飛びつこうとした蛇人間には、ハーナルの《ジャグラー》が襲いかかった。


(すげぇ……)


 巨大な《バスターアーマー》だけじゃない。

 こいつを中心に、全員が自分にしか扱えない武器で、互いの死角を埋めている。


 まるで――

 こいつら全員で、ひとつの武器みてぇだ。


「このまま、黒竜を目指すぞぉ!」

 アルヴィースが、背負っていた巨大な戦鎚を引き抜いた。


 見た目は戦鎚。

 ……ただ、妙に鎚頭がデカい。


「なんだそれ?」


「よくぞ聞いた!」

 待ってましたとばかりに、アルヴィースが笑う。


「ドワーフガジェット十三号――《機巧式回転破砕槌》!!!」

 アルヴィースは戦鎚を振り下ろし、横から迫った蛇人間を殴り飛ばした。

 一体。さらに一体。

 殴るたび、鎚頭の内部からカチカチと小さな音が鳴っている。


「……なんの音だよ!」


「こいつは殴った衝撃で内部のゼンマイを巻き上げる! そして十分に力が溜まったら――」

 アルヴィースが柄を捻る。


 鎚頭が真ん中から割れた。

 なかからあらわれたのは、細かな刃がびっしりと並んだ金属の帯。


「変形する!」


 ギュィィィィィィン!

 刃が高速でまわりはじめる。


 アルヴィースは、それを蛇人間の槍へ押し当てた。

 槍が真ん中から豪快に削り落とされる。

「ガハハハハ! どうだぁ!!!」


「もうハンマーじゃねぇじゃん!」

「細けぇこと気にすんな!」

 トンチキな回転刃を振りまわしながら、アルヴィースが豪快に笑う。


 まったく。

 なんなんだよ、このジジイ。


(最高じゃねぇか!)



*   *   *



「ギィィィァァァアアアッ!!!」

 遠くから、職人殺しの咆哮が響いた。


 浮かれていた気持ちが、一気に引き締まる。


 里の中央から、黒煙が上がっている。

 ガラールたちだ。


「アルヴィース!」

「わかっとる!」

 アルヴィースも同じ方向を見た。

「このまま突っ切るぞ! ガラールのところまで行く!」


「リル! まだいけるか!?」

 おれは声をかける。


「だ、大丈夫ぅ!」

 装甲の中から声が返ってくる。


 バスターアーマーが、さらに速度を上げた。

 道を塞ぐ蛇人間を吹き飛ばし、家屋のあいだを抜ける。

 その先に、里を囲う山肌が見えた。

 そして――


「旦那ぁ!」

 交戦するガラールの姿があった。

 ヴェイグをはじめとするドワーフの戦士たちと一緒に、黒竜へ攻撃を続けている。

 だけど、やっぱり相性が悪い。

 ガラールの《ドローミー》が届くぎりぎりの高さを、黒竜は旋回していた。


 ガラールが振り返る。

 おれたちを見た瞬間、目が点になった。

「なんだぁぁぁ、ありゃあ!?」


「旦那! 加勢に来たぜぇ!」


「ガハハハ! ずいぶん面白ぇもん持ってきたじゃねぇか!!!」

 笑った直後、ガラールの表情が変わった。

「坊主! 上だ!」


「あ?」

 見上げると、黒竜の口が大きく開いていた。

 牙の奥が真っ赤に光っている。


「リル! 避けろぉぉぉ!!!」

「えぇっ!?」


 炎が降ってきた。

 バスターアーマーは地面を蹴るように進路を変え、そのまま山肌へ向かっていく。


「そっち壁だぞ!」

「止まりかた、わかんない!」


「アルヴィース! 止まりかたは!?」

「ガハハ! そのまま行けぇぇぇ!!!」


(ぶつかる!)


 その瞬間、脚部の履帯から無数の金属爪が飛び出し、岩肌へ食い込んだ。


「……は?」

 そのまま登った。


 バスターアーマーが、ほとんど垂直に近い山肌をかけ上がる。


「うぉぉぉっ!!」

 取っ手へ必死にしがみつく。


 すぐうしろを竜の炎が追ってきた。岩肌が赤く焼け、次々と弾け飛んでいく。


「右だ、リル!」

「右っ! こっち!?」

「そっちは左ぃ!」

「わかんないよぉ!」


 山肌を蛇行しながら、どうにか炎を避ける。

 黒竜は忌々しそうに首を振ると、一度上空へ舞い上がった。


「逃げたか?」

「いや! 続けて来るぞ!」

 グラニテイオーに乗るハルジオンが叫ぶ。


 黒い影が一気に迫ってきた。

 長大な尾。避けられない。


「守る!」

 リルの声と同時に、装甲を走っていた銀光が一気に濃くなった。

 バスターアーマー全体を、薄い銀色の膜が包み込む。

 直後。

 竜の尾が胴体へたたきつけられた。


「ぐぁっ!」

 全身へ衝撃が走る。

 取っ手を握っていた手が外れそうになった。


 バスターアーマーは山肌から吹き飛ばされ、その巨体が宙へ投げ出される。


「リル!」

「み、みんな! しっかりつかまって!」


 地面へ落下。

 だが、バスターアーマーは両脚を踏ん張り、そのまま着地した。

 あれだけの一撃を受けたのに、装甲に亀裂はない。



「おれが行く!」

 グラニテイオーの背から、ハルジオンが飛んだ。


 黒竜が気づく。

 巨大な前脚が振り下ろされた。


 ハルジオンは短剣へ魔力を集中させる。

「魔鉱武器――《奥義》!」

 刃が、夜空の星みたいに輝いた。

「《夜狩ナイトハンター》!!!」


 一閃。

 竜の爪と短剣が激突する。


「ぐっ……!」

 ハルジオンの身体が沈んだ。

 それでも。

「うぉぉぉぉぉ!!!」

 剣を振り抜く。

 銀色の斬撃が弾け、黒竜の前脚が大きく跳ね上がった。


「はぁぁぁっ!」

 短剣が、職人殺しの口元を斬り裂いた。

 そのまま身体を回転させ、もう一撃。

 首から腹へ、黒い鱗の上へ深い斬撃が走る。


「ギィィィァァァアアアッ!!!」

 黒竜の巨体が傾いた。


「あいつ! やりやがった!」

 このまま墜ちる。

 そう思った。

 職人殺しは、落下の途中で翼を大きく広げ、地面すれすれで身体を持ち上げる。


「くそっ!」

 ハルジオンが地面に着地する。

 職人殺しはふたたび上空へ逃れたが、それでも、あいつの身体にはたしかに斬撃の跡が残っている。


(動きが鈍ってる)


「ちゃんと効いてる……!」



『……面白い』

 空から声が降ってきた。

 職人殺しだ。


『その鎧も。短剣も。鎖も』

 黒竜が、ゆっくり翼を広げる。


『やはり職人は、面白いものをつくる』

 黒竜の身体が、不自然に波打った。

 鱗のすきまから、なにかが飛び出す。


「……剣?」


 一本じゃない。

 背中、胸、腕から。

 次々と武器が生えてくる。


 長剣。槍。戦鎚。斧。

 そのなかには、見覚えのある黒い剣もあった。


『《サンジェルマン》』

 職人殺しが言う。

『《パラケルスス》。《エドワード》。《ヴィーラント》』


「……あのやろう」

 父ちゃんの剣だけじゃない。

 こいつが殺してきた職人たちの武器が、黒竜の身体を埋め尽くしていく。


『彼らは死んだ。でも、作品は僕のなかに残っている』

 黒竜が笑った。

『素敵だと思わないか?』


「……ふざけんな」

 こいつは、なにもわかってない。

 作品が残っている?


(ちがう)


「そいつをつくったやつが、なに考えて、だれのためにつくったのかも知らねぇくせに……!」

 腹の底が熱くなる。

「かたちだけ盗んで、浸ってんじゃねぇ!!!」


 職人殺しは翼を振った。

 身体から生えていた武器が、一斉にこちらを向く。


『――君も加えてあげよう』


「まずい! 伏せろぉぉぉ!!!」

 ガラールの怒声。


 つぎの瞬間、無数の武器が降ってきた。


 バスターアーマーが巨大な腕を掲げる。

 装甲へ無数の武器が降り注ぐ。

 剣が弾け。

 槍が折れ。

 斧が表面を削った。


 だが――全部は防ぎきれない


「ぐっ!」

 ローニの肩を槍が掠める。


「ぬぅっ!」

 スラーインの腕へ、斧の刃が走った。


 ハーナルの頬が裂け。

 ドヴァリンの脚にも剣が刺さった。


 となりで、一本の短剣がアルヴィースの肩口へ突き刺さった。


「アルヴィース!」

「この程度で騒ぐなぁ!」

 アルヴィースは顔をしかめながらも、短剣を乱暴に引き抜く。

 肩から血が流れた。

「職人はなぁ、指が動きゃ仕事できんだよ!」


「痩せ我慢を!」

 怒鳴り返しながら、おれは空を睨む。


 職人殺しの身体には、まだ無数の武器が生えている。

 全部、だれかがつくったものだ。

 何度もたたいて、失敗して、完成させたものだ。


「ひとが命かけてつくったもんを……そんなふうに使うんじゃねぇよ」

 拳を握る。

「てめぇだけは……絶対に許さねぇ!」


 立ち上がろうとした、そのとき。

 バスターアーマーから異音がした。


 銀色に輝いていた魔力の線が、次々と消えていく。


「カジ……バ……」

 装甲の奥から、弱々しい声が聞こえた。


「リル!?」

「ごめん……。ちょっと……力、入らない……」

「もういい、よくやった!」


 リルはずっと魔力を流し続けていた。

 こんな巨大な鉄の塊を動かして、職人殺しの尾まで受け止めたんだ。

 限界が来て当然だ。


 バスターアーマーが膝をつく。

 巨大な身体が、完全に沈黙した。


「とはいえ……どうする」

 職人殺しは空にいる。

 こっちの攻撃は届かない。

 ハルジオンだって、《夜狩》を何度も使えるわけじゃない。


(どうする。考えろ)

 おれは鍛冶師だ。

 戦えないなら――つくれ。


「……あ」

 視界の向こう。

 山肌を流れる、大きな川が見えた。

 頭のなかで、設計図が開く。


「やるしかねぇ」

 おれはバスターアーマーの胸部へかけ寄った。


「リル!」

「……なに?」

「悪い。もう一回だけ力貸してくれ」

「え……?」

「バスターアーマーはもう動かさなくていい。出てこれるか?」

「……うん、いける」

 胸部から、リルが転がり落ちてきた。


「リル! 大丈夫か?」

 慌てて彼女を受け止める。


「ちょっと……疲れた」

「ごめんな」

「ううん。それでどうするの?」


 おれは空を見る。

 職人殺しは、まだ悠々と飛んでいる。


「飛ぶ」

「……え?」

「おれたちも、あそこまで飛ぶぞ」

「えぇっ!?」


 蛇人間を蹴散らし、ハルジオンが走ってくる。

「待てカジバ! なにをする気だ!」

「《改作》だ」

「なに!?」


「ぶっつけ本番」

 おれはリルの手を握る。

 頭のなかでは、もうかたちが見えている。


 必要なのは、おれの身体を空まで押し上げられる水圧。

 両足から水を下へ噴き出す。

 左右の噴射量と向きを変えれば、空中でも姿勢を変えられる。

 問題は――水。


 でも、もう答えは出ている。

 ――水はつくらなくていい。 

 川から直接、吸い上げればいい。


「……カジバ」

 リルが、不安そうにおれを見る。

「おれとお前なら、なんとかなる!」

「根拠ないよぉ!」


(根拠はない。……だけど)


 いろんな土地へ行って、いろんな武器を見た。

 ハルマのつくった聖宝器を触った。

 失敗もした。

 自分でも、いちから武器をつくった。

 その経験は、全部おれのなかにある。


「いくぞ、リル」

「……わかったよ!」

 リルが泣きそうな顔で笑う。


「《錬成モーフィング》!!!」


 銀色の光が弾けた。

 リルの身体が、かたちを変えていく。

 両脚を覆う、白銀の装具。

 足裏には、下へ向いたふたつの噴射口。

 さらに腰のうしろから、一本の太い白銀の管が伸びる。

 その先端が――川へ飛び込んだ。


「水、来い!」

 おれは、《水》の魔力を使う。


 ゴボォッ!!!


 川の水が管へ吸い込まれた。

 水そのものをつくる必要はない。川から吸う。

 装具のなかで、それを圧縮する。

 そして――

 足裏から、一気にたたき出す。


 アルヴィースと考えた通りだ。


「おい……」

 ハルジオンが目を見開く。

「まさか、それで……」


「ああ! ブッ飛ぶ!!!」


 噴射。

 両足の下から、高圧の水がたたき出された。

 その反動で、おれの身体が一気に空へ持ち上がる。

 腰から伸びた白銀の吸水管が川とおれを繋いだまま、蛇のように持ち上がった。


『カジバぁぁぁ! 姿勢! 姿勢ぇぇぇ!』

 両脚の装具から、リルの叫び声が聞こえる。


「うぉぉぉっ!? わかってる、けど!」

 身体がぐるぐるまわる。

 空と地面が、何度も入れ替わった。

「止まれ、止まれ、止まれっ!」

 右脚を外へ傾ける。

 右の噴射方向が変わり、身体が反対側へ振られた。


『やりすぎ! 左右合わせて!』

「わかってるっ!」


(落ち着け)


 水の量。噴き出す向き。身体の傾き。

 全部が繋がっている。


 両脚を少しずつ動かす。

 二本の噴射が、ほぼ真下へ揃った。

 回転が止まる。


「……これで」

 身体が宙に浮いている。

 下を見れば、噴き出した大量の水が滝みたいに地面へ落ちていた。


「飛んでる」

 おれ、空を飛んでる。


「はっ……はははっ!!!」

『喜んでる場合じゃないよぉ!』


「わーってるっ!」


 前方に職人殺しがいる。

 やつは、動きを止めていた。


 いままでずっと、こいつを見上げてきた。

 父ちゃんと母ちゃんを殺したバケモノ。

 子供の頃から怖かった。

 名前を聞くだけで身体が震えた。


 だけど。

 いまは――同じ高さにいる。


「職人殺しぃっ!!!」


 両脚の噴射を一気に強める。

 水飛沫を引きながら、黒竜へ突っ込んだ。


「てめぇだけは――絶対に許さねぇぇぇ!!!」

 勇者ハルマが《水を撃ち出す》ためにつくった技術。


 おれはそれを――

 《自分を撃ち出す》ための武器へ変えた。


 新世代の《水の聖宝器》。

 ――《アクアドライブ》。


 おれは生まれてはじめて。

 父ちゃんと母ちゃんの仇と――同じ空に立った。



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