42「ドワーフ決戦」
《職人殺し》。
かつて世界を恐怖に陥れた《岩石王》のしもべ。
七体存在した、宝石の魔物の一体。
《アレキサンドライトの魔物》。
数え切れないほどの鍛冶師を殺し、《職人殺し》なんて名前で呼ばれるようになった怪物。
そして――
おれの父ちゃんと母ちゃんの仇。
出会った者は、生きて帰れない。
子供の頃から、何度も聞かされてきた。
そんな"バケモノ"がいま、おれの目の前にいる。
どう考えても、大ピンチだ。
(でも……待てよ)
おれが大ピンチってことは――
「――あいつの、たてがみが光ってる!」
崖の下へ視線を落とす。
木々のすきまを縫うように、金色の光がこっちへ向かってきていた。
「相棒ぉぉぉっ!!!」
迷わず、崖から飛び降りる。
身体が宙へ投げ出され、腹の奥がふわっと浮いた。
直後――
金色のたてがみを輝かせた《グルファクシ》が、崖下をかけ抜け、おれの身体を背中で受け止めた。
「うおっ!」
衝撃で身体が跳ねる。
慌てて首へしがみついた。
グルファクシのたてがみは、主人と認めた相手の危険を感じ取る。
おれの危険を感じて、ここまで来てくれたんだ。
「助かったぜ、相棒!」
首筋をなでると、グルファクシが力強く鼻を鳴らした。
「まずはみんなに知らせる! 走ってくれ!」
グルファクシが地面を蹴る。
背後から、気味の悪い音が聞こえた。
ゴリ。
ミシッ。
バキバキバキッ――
「……なんだ?」
走る馬上から振り返る。
崖の上にいた職人殺しの身体が、異様なほど膨らんでいた。
細長かった手足が太くなり、背中が大きく盛り上がる。
肉とも石ともわからない身体が変形し、黒い外套ごと裂けていった。
(大鷲か?)
いや、以前見た大鷲なんかとは比べ物にならない。
「どんだけデカくなる気だよ……」
膨張した身体を、硬質な鱗が覆っていく。
一枚一枚が、黒い屋根瓦みたいに重なっていた。
前へ突き出した巨大な頭部。その口は、岩盤に走った亀裂みたいに横へ裂けている。
開いたすきまから、無数の牙が覗いた。
そして、背中から広がった二枚の翼が――空を黒く塗り潰す。
「ギィィィァァァアアアアアアッ!!!!!!」
聞いた瞬間、身体が縮み上がった。
獣の咆哮じゃない。
石を削る音と、人間の悲鳴を無理やり重ねたような声。
実物なんて見たことはない。
だけど、わかる。
「……ドラゴン」
百年前。 《翼の民》の国を滅ぼしたとされる、最悪の怪物。
職人殺しは――かつて世界を焼いた竜の姿へ擬態していた。
「ったく……冗談じゃねぇぞ!」
シュル。
シュルシュルシュル……。
今度は、里を囲う城壁のほうから音がした。
「なんだ?」
目を凝らす。
壁の外側から、何本もの腕が伸びている。
細長い指。鱗に覆われた腕。
「なっ……!」
二股の槍が、城壁の上へ突き立った。
その柄を伝い、人間の上半身と蛇の下半身を持った兵士たちが、次々と壁を乗り越えてくる。
「蛇人間……!」
一体じゃねぇ。
十。二十。
その向こうにも、まだいる。
職人殺しが言っていた通りだ。
里の外で、ずっと息を潜めていやがった。
そこで気づく。
さっきの咆哮。
「あれが……開戦の合図か!」
黒竜となった職人殺しが、大きく翼を打った。
空気が爆発する。
舞い上がった土埃が壁みたいに押し寄せ、グルファクシの身体が横へ流された。
「うぉっ!」
輝くたてがみにしがみつく。
職人殺しは一気に上空へ舞い上がると、大きく旋回した。
そして、赤紫の瞳が――おれを捉える。
「……やべぇ」
おれは走り続けるグルファクシの背から身を乗り出し、畑の脇に立てかけられていたスコップを引っ掴んだ。
少し先。
高台には、敵襲を知らせるための大きな鐘が吊るされている。
「当たれぇぇぇっ!」
スコップを投げる。
くるくると回りながら飛び――鐘へ直撃した。
低く重い音が、里全体へ広がる。
「敵襲ぅぅぅぅっ!!!」
鐘の音を聞きつけ、工房や家屋からドワーフたちが次々と飛び出してきた。
さすがだ。
酔っぱらいだろうが、変人だろうが関係ねぇ。
こういうときは、全員が戦士になる。
もう一度、上空を見る。
「……ん?」
職人殺しの巨大な口が動いていた。
噛み合う牙のすきまから、灰色の煙が漏れている。
そして――喉の奥が、赤く光った。
「おいおいおいおい……!」
(まさか!)
「相棒っ!!!」
グルファクシの首をたたく。
つぎの瞬間、身体がうしろへ持っていかれた。
速い。いままでより、さらに速度が上がる!
「グルファクシ! かけ抜けろぉぉぉっ!!!」
直後、背後が一気に明るくなった。
炎が大地を舐める。
数秒前までおれたちがいた場所が、真っ赤な炎に包まれた。
「あっっっちぃぃぃっ!!!」
直撃してねぇのに熱い!
髪が焦げそうだ。
空気を吸っただけで、喉が焼ける。
サウナは好きだけどよぉ! これは死ぬやつだ!!!
グルファクシの背へ身体を伏せる。
まだ炎が追ってくる。
「……くそっ!」
そのときだった。
視界の横から、巨大な黒い塊が飛んできた。
(鉄球?)
おれの胴体なんて簡単に潰せそうな、バカでかい鉄球だ。
表面には、無数の棘が生えている。
そいつが――
ゴォンッ!!!
職人殺しの右頬へたたき込まれた。
鱗は砕けないが、鉄球のバカみたいな重量に巨大な首が横へ弾かれた。
吐き出していた炎が大きく逸れ、森の外を焼き払う。
「野郎どもぉぉぉっ! ぶちかませぇぇぇっ!!!」
聞き覚えのある、腹の底まで響く声。
「旦那ぁ!」
おれは鉄球の飛んできたほうを見る。
武装したドワーフたちが、道を埋め尽くしていた。
先頭に立つのは、里長、《ガラール・フレグル》。
その手には、黒い鎖が握られている。
鎖の先に繋がっているのは、さっきの巨大鉄球。
そのうしろには、角張った兜を被った《ヴェイグ》と、里の戦士たちが並んでいた。
ガラールは鎖を強く引いた。
地面を抉りながら鉄球が戻ってくる。
それを片腕で受け止めた。
「ようこそ、ドワーフの里へ!!!」
ガラールが笑う。
「我が家族と、この魔鎖、《ドローミー》が――貴様ら全員をたたき出してやる!!!」
「くらぇっ!」
ヴェイグが地面を蹴り、ドワーフとは思えない高さまで跳び上がる。
巨大な戦鎚を頭上へ振り上げ、黒竜の頭めがけてたたきつけた。
だが。
「ぐっ!」
長い尾が、横薙ぎに振られる。
ヴェイグは咄嗟に戦鎚を盾にしたが、勢いまでは殺せない。
身体ごと吹き飛ばされ、地面を何度も転がった。
「ヴェイグ!」
「問題ない!」
彼はすぐに戦鎚を地面へ突き立て、身体を起こす。
黒竜は追撃せず、翼を広げてふたたび空へ上がった。
ドワーフたちが一斉に空を見上げる。
こっちは近接武器ばかり。
空へ逃げられると、相性が悪い。
黒竜の赤紫色の瞳が、おれを見る。
その口元が――笑ったように見えた。
(……なんだ?)
追ってこない。
まるで、
『まずは、こいつらから奪う』
そう言われた気がした。
「旦那!」
おれは叫んだ。
「あいつ、火ィ吐きやがる! まともに受けたらヤベぇぞ!」
「ガハハハ! 見ればわかるわ!!!」
ガラールは笑った。
そして、おれを庇うように前へ立つ。
「坊主! お前は仲間のところへ行け!」
背中越しに、太い声が飛んでくる。
「でも!」
ガラールが、《ドローミー》を振りまわす。
鉄球が唸り、風を切った。
「お前は”聖剣”をつくるんだろうが!!!」
「――っ」
その一言で、迷いが消えた。
「……わかった!」
グルファクシの首をたたく。
「頼んだぜ、旦那!」
「任せろ!!!」
おれはドワーフたちへ背を向けた。
向かうのは三戸。
リルたちのところだ。
* * *
川が見えてきた。
その向こうでは、すでに戦闘が始まっている。
蛇人間の兵士たちが、細長い身体をくねらせながら道へ雪崩れ込んでいた。
それを迎え撃っているのは――
「いた!」
リル。ハルジオン。ヘイミル。エグレ。
そして――
「カジ! 無事だったかぁ!」
アルヴィースたち、三戸の職人連中だ。
「ああ! 無事だ!」
グルファクシから飛び降りた瞬間、リルが橋を渡って走ってきた。
「カジバ!」
リルは、めずらしく息を切らしている。
「早く、私を武器に!」
「ああ!」
差し出された手を掴む。
「いくぜ、リル!」
「うん!」
呼吸を合わせる。
以前より、ずっと鮮明だ。
どこへ魔力を流せばいいのか。どの部分を細くして、どこへ強度を持たせるのか。
おれの考えに、リルが応えている。
「《錬成》!」
銀色の光が、リルの身体を包んだ。
「《レヴェルⅢ》!!!」
光が収束する。
おれの手のなかへあらわれたのは、白銀の長剣。
『カジバ……いくよ』
「……」
おれは長剣を見る。
「……リル?」
『なに?』
「しゃべってるぅぅぅ!?」
『え!? ほんとだ!』
武器になったリルの声が、頭のなかじゃない。
握った剣そのものから、はっきり聞こえてくる。
「エアの呼吸を合わせる修行の成果か……?」
『たぶん! でもいまは――』
「ああ! とにかく、この状況をなんとかしないと!」
「カジバ! リルをこっちへ!」
川の向こうから、ハルジオンが叫んだ。
「川挟んでんだぞ!?」
「投げろ!」
ほんっと、無茶言う野郎だな!
でも、あいつなら取る。
「リル! ちょっと飛ぶぞ!」
『えええ!? まって――』
「受け取れぇぇぇっ!」
白銀の長剣となったリルを、思い切り投げる。
剣が回転しながら、川の上を飛んだ。
『うぁぁぁぁ〜!』
リルの情けない声。
ハルジオンが柄を掴んだ。
そのまま身体を一回転。
剣身へ、大量の魔力が流れ込む。
「くらえ!」
横薙ぎの一閃。
銀色の衝撃波が、扇状に広がった。
蛇人間たちが慌てて槍を構えるが、間に合わない。
前線にいた数十体が、まとめて吹き飛ばされた。
「すげぇ……!」
また強くなってる。
おれの剣も。ハルジオンも。
だけど――
「数が多い!」
ハルジオンが叫んだ。
吹き飛ばしたやつらのうしろから、次の兵士が雪崩れ込んでくる。
そのうしろからも。
さらに、そのうしろからも。
「キリがない!」
「カジ! こっちへ来い!」
撤退するアルヴィースが手招きしていた。
「どこにいくの?」
「決まっとる! 《秘密兵器》だぁ!」
アルヴィースがニヤッと笑う。
「……っ!」
(秘密兵器って、まさか!)
「まさか……"アレ"!?」
里にいた頃、アルヴィースたちと一緒につくっていた、あのデカブツ。
「いけるの!?」
「見りゃわかる!」
「ハルジオン!」
おれは叫ぶ。
「おれたち、倉庫へ行く! お前も来てくれ!」
「いや、お前たちは先に行け!」
ハルジオンが長剣を構えたまま答える。
すると、横からヘイミルが飛び込んできた。
「ふんっ!」
大剣を振り抜き、ハルジオンへ迫っていた蛇人間をまとめて薙ぎ払う。
「君も行け! ここは私が残る!」
ヘイミルの周囲には、すでに何人ものドワーフ戦士が集まっていた。
「ひとりでは危険です!」
「ひとりではない。それに――作り手と使い手は離れない方がいい!」
ヘイミルがハルジオンの背中をたたいた。
「大丈夫、まかせろ!」
「……わかりました」
ハルジオンがうなずく。
おれたちは走った。
グルファクシ。アルヴィース。ハルジオン。エグレ。
そして、三戸の職人たち。
「で、どこ行くわけ!?」
となりを走るエグレが、おれを見る。
「武器を取りに行く!」
「武器?」
「見りゃわかるってさ!」
「なんなのさ、それ!」
背後では戦いの音が続いている。
蛇人間の叫び。
剣と槍がぶつかる金属音。
遠くでは、黒竜になった職人殺しの咆哮まで響いていた。
この里には、魔鉱石武器なんてほとんどない。
普通の武器じゃ、職人殺しには決定打を与えられない。
(急がねぇと!)
* * *
「うおりゃぁぁぁっ!!!」
倉庫へ着くなり、スラーインが上着を脱ぎ捨てた。
「なんで脱ぐの!?」
エグレが叫ぶ。
「力を出すには邪魔ぁ!!!」
「絶対関係ないでしょ!」
筋肉を膨らませたスラーインが、巨大な扉へ両手をかける。
「ぬぅぅぅぅん!」
重たい扉が、一気に左右へ開いた。
「さぁ、みんな! 急ぐんだヨ☆」
ローニが、こんなときまで優雅な身振りでおれたちをなかへ招く。
倉庫へ飛び込む。
なかは暗い。
「明かりは!」
ハルジオンが叫ぶ。
「慌てるな」
暗闇のどこかから、ドヴァリンの声がした。
「俺たちには、まだ光がある――」
「早くつけろ!」
「いまつけようとしていたが?」
天井の《太陽石》が、一斉に光を放った。
倉庫の中が、昼間みたいに明るくなる。
そして――
「……おお」
何度見ても、ビッグだぜ。
倉庫の中央に鎮座しているのは、巨大な人型装甲。
ドワーフの三倍以上ある。
全身を分厚い金属板で覆い、両腕も両脚も、人間の身体をそのまま巨大にしたみたいな構造だ。
ただし、胸から腹にかけては空洞になっている。
ひとが、なかへ入るための場所だ。
「なんだ……これ」
ハルジオンが、めずらしく呆然としていた。
「ちょっと……嘘でしょ」
エグレまで口を開けている。
「ガハハ!」
アルヴィースが腰へ手を当てた。
「ドワーフガジェット六十六! 《バスターアーマー》!」
アルヴィースは、古びた設計図を机の上へ広げた。
「俺たちが何年もかけて作っていた、最強の鎧だ!」
「おい待て、これ……!」
ハルジオンが設計図へ飛びついた。
「異世界語。それに、この筆跡……」
指が、紙の上をなぞる。
「勇者ハルマのものだ」
「え?」
おれも横から覗き込む。
「まちがいない」
ハルジオンが顔を上げた。
「これ、《エクストラウェポン》だぞ」
「……マジ?」
おれは驚いた。
もしかして……。
《土の聖宝器》が示した、《エクストラウェポン》の設計図。
ドワーフに売った図面って――
おれは巨大な鎧を見る。
「設計図って、これかよぉぉぉっ!!!」
「お前、いままで気づいてなかったのか?」
ハルジオンが冷たい目を向ける。
「だって異世界語読めねぇし!」
「そんなことより!」
エグレが装甲を指さした。
「それ、使えるなら早く使ってよ!」
「それがな」
アルヴィースの顔から笑いが消えた。
「まだ動かん」
「……は?」
「正確には、つくるところまではできた。だが、動かす力が足りん」
そう言って、装甲の胸部をたたく。
「これだけの鉄を動かすんだ。腕一本持ち上げるだけでも、とんでもない動力が必要になる。歯車とゼンマイだけじゃどうにもならん」
「はぁ! 未完成なの!?」
エグレが頭を抱える。
アルヴィースが腕を組む。
「必要なのは、馬鹿みたいに大量の魔力だ」
視線が――ハルジオンへ向いた。
「……嫌だぞ」
「まだなにも言っとらん」
「顔が言ってる!」
「お前、魔力量が多いんだろ?」
「こんな訳のわからない鉄の塊に乗るくらいなら、普通に戦った方が百倍役に立つ!」
「じゃあほかに、だれがいる!」
アルヴィースがおれを見た。
「無理だぞ」と、おれも先に言っておく。
「錬成魔術はできるけど、魔力量そのものは大したことねぇし、外へ出すのも得意じゃねぇ」
「となると……」
全員が黙る。
大量の魔力。しかも、それを外へ放出できるやつ。
「……あ」
(いた)
全員の視線が、ハルジオンの手にある白銀の長剣へ向く。
「リルじゃん」
おれは錬成を解く。
銀色の光が広がり、長剣が少女の姿へ戻った。
「……え?」
リルが苦笑いする。
全員の視線が集まっていることに気づき、自分を指さした。
「わ、私?」
「お前、魔力放出の練習してただろ!」
「し、してたけど……」
「頼む!」
「ちょ、ちょっと待って!」
気づけば、リルは装甲の胸部へ座らされていた。
「なんでこうなるのぉっ!?」
「……頼んだぞ」
ハルジオンまで言う。
「ふえぇぇ……」
リルは目をまわす。
涙目だ。
(悪いな)
おれは装甲の下から見上げる。
「リル! お前ならいけるっ!」
「……それ、根拠あるの?」
「ねぇ!」
「カジバぁ!」
突然、倉庫全体が大きく揺れた。
天井から、木屑と埃がパラパラと降ってくる。
「おやぁ!?」
ハーナルが外を覗いた。
「たはーっ! こいつはスゴいねぇ!」
「なにがいる!」
「でっかい巨人!」
「巨人は元からデカいが?」
ドヴァリンが突っ込む。
「しかも四体!」
「四体ぃ!?」
おれも外を覗く。
巨人が、四体。
家屋くらいある巨体が、この倉庫を取り囲むように立っている。
そのさらにうしろには、蛇人間の軍勢まで迫っていた。
「アーマーの起動には時間がかかる!」
アルヴィースが装甲の内部へ潜り込む。
「お前らぁ、時間を稼げぇ!!!」
「やるしかない!」
ハルジオンが短剣を抜いた。
その横を、ローニが悠々と歩いていく。
「さて☆」
彼は、背中から妙な形の弓を外した。
「ボクの美しい武器を披露するとしようか」
「クロスボウ?」
おれは聞く。
「ただの、じゃないヨ☆」
ローニが側面のレバーを引く。
弦が巻き上がると同時に、箱状の部品から矢が滑り込んだ。
「エルフ式弓術に、ドワーフの連続装填機構を組み込んだのサ」
バシュッ!
放たれた矢が、ナーガの肩を射抜く。
ガシャッ! バシュッ!
ほとんど間を置かず、二本。三本。
「連射っ!?」
「美しさとは、無駄がないことだからネ☆」
今度はスラーイン。
巨大な剃刀みたいな刃物を、両手で構えている。
「磨き抜かれた我が肉体! そして――磨き抜かれた、我が刃!」
薄い刃が光った。
「《シェイバー》ァァァ!!!」
蛇人間が槍を突き出す。
スラーインは刃を斜めに添えた。
槍の穂先が刃の上を滑る。
そのまま。
スッ。
穂先だけが、地面へ落ちた。
「……なんだ、その切れ味」
「六枚刃だ」
さらに、ドヴァリンが、背中から剣を引き抜いた。
「長っ!!!」
思わず声が出る。
長剣なんてもんじゃない。本人の身長の三倍くらいある。
「《深淵断界黒鋼極長――》」
「名前も長いのかよ!」
「まだ正式名称の三割だが?」
「さっさと戦え!」
「せっかちだな」
ドヴァリンが剣を横薙ぎに振る。
届かないと思っていた距離の蛇人間三体が、一瞬で両断された。
(間合いが、バカみたいに広ぇ)
「たはーっ!」
最後にハーナル。
「オレちゃんもいっくよぉ!」
彼が一本の棒を振った……と思ったら。
ガシャガシャッ!
棒が分裂し、五本の短い刃があらわれた。
そして、そのすべてが、細い金属線で繋がっている。
「お見せしよう! 《ジャグラー》!」
曲芸みたいに五枚の刃を操りながら、蛇人間の群れへ飛び込んでいく。
「あれあれ!? そっち行った!?」
「自分でつくった武器だろ!?」
「予定通りより、予定外のほうが面白いよね!」
こいつらやっぱり変人だ。
集団制作じゃ問題ばかり起こして、三戸へ送られたはみ出し者。
でも。自分で考えた武器を、自分で持たせたら――
「……つえぇ」
口の端が上がった。
「最高じゃねぇか!」
直後。
巨人の拳が、ハルジオンめがけて振り下ろされた。
「っ!」
ハルジオンは逃げない。
腰を落とし、真正面から拳を見据えた。
「《理論武装》――三式!」
握っていた短剣を、巨人の拳へ斜めに添える。
「《アイギス》!」
拳の力を、刃の側面へ流した。
巨人の拳がわずかに逸れ、そのまま地面へたたきつけられる。
腕を振り切った巨人の身体が、前へ大きく傾いた。
「崩した!」
ハルジオンが懐へ飛び込む。
だが――
「ちっ!」
横から、別の巨人の拳。
さらに背後から、三体目。
ハルジオンは最初の巨人の肩を蹴り、空中で身体を捻って攻撃を避けた。
地面へ着地する。
「一体なら崩せるが……」
四体の巨人が、四方からハルジオンを囲んでいた。
「四対一は、面倒だな」
さらに後方では。
「ぐっ!」
ヘイミルが大剣を振るい続けている。
ナーガを一体たおしても、そのうしろから二体。三体。
次々と来る。
じわじわと、敵の群れが倉庫へ近づいていた。
「まずいな……」
(おれも戦わねぇと)
「……ねえ」
「うわっ!」
真横にエグレがいた。
「びっくりした……なんだよ」
エグレは、おれを見ていなかった。
戦場を見ている。
赤い、《グラス》の奥。その視線の先には、押し寄せてくる蛇人間たちがいた。
「本気なの?」
「なにが?」
「聖剣をつくって、岩石王の復活を止めるって話」
「ああ」
おれは即答した。
「……ああ、そう」
エグレが、小さく笑う。
バカにした笑いじゃない。
なんだか諦めたような。それでいて、なにかを決めたような笑いだった。
エグレが赤いグラスへ手をかける。
「じゃあ――アタシもやる」
「……え?」
彼女はグラスをゆっくり外す。
赤い板の奥に隠されていた両目は、固く閉じられていた。
「お前……」
「アタシも、ここで死ぬのは嫌」
そのまま、蛇人間たちの方へ顔を向ける。
声が少しだけ低くなった。
「それに――蛇人間って大嫌いなのよ」
口元が歪む。
「ずっと、あいつらの好きに使われてきた」
エグレの指が、外したグラスを強く握った。
「だから今度は――アタシが、自分の力を好きに使う番」
「……」
胸の奥が、ざわついた。
エグレの《呪眼》。 見た相手を石へ変える力。
強ぇ。
だからこそ――怖い。
シグルドで石になったノーラの姿が、一瞬だけ頭をよぎった。
「……なに?」
目を閉じたまま、エグレが言う。
「まだ疑ってんの?」
「いや」
――疑ってない。
そう言ったら、嘘になる。
こいつが本当のことを全部話しているかなんて、わからない。
混乱に乗じて逃げるかもしれない。
おれたちへ呪眼を向ける可能性だって――ゼロじゃない。
だけど。
(……だったら、なんのために一緒にここまで来たんだよ)
飯を食って。
同じ場所で寝て。
バカみたいな話をして。
シグルドを出るとき、おれは決めたんだ。
「……頼む、助けてくれ」
「はいはい」
エグレが歩き出す。
巨人の拳が地面を砕いた。
ハルジオンが転がりながら避ける。
「くっ……!」
起き上がろうとするが、一瞬だけ膝が落ちた。
一体を《アイギス》で崩しても、その隙を別の三体が潰してくる。
休む暇がない。
ハルジオンの前を――エグレが通った。
「アンタも、下がって」
「なっ! お前!」
ハルジオンが目を見開く。
「死にたくなければ――目ぇ瞑りな」
エグレが笑う。
ハルジオンは巨人から距離を離し、即座に目を閉じた。
四体の巨人が動きを止める。
いままで追っていたハルジオンではなく、目の前へ出てきた小さな少女へ向き直った。
巨大な腕が持ち上がる。
一体。二体。三体……。
四体すべてが――エグレへ顔を向けた。
「エグレ!」
思わず声が出る。
「大丈夫だから、目ぇ瞑っとけって」
エグレは一歩前へ出る。
「アタシだって――」
閉じていた瞼が、ゆっくりと開く。
「やられっぱなしは、ムカつくんだよ」
おれは目を瞑る。
「失せろ、ノロマ」
ほんの一瞬。
戦場から音が消えたような気がした。
(……?)
「……もういいよ」
エグレの声。
おれは目を開ける。
そこには、巨大な石像が四体。
振り上げた拳も、歪んだ顔も。全部、そのまま固まっている。
「……すげぇ」
思わず声が漏れた。
両目を閉じているエグレは、グラスをかけ直した。
「なにぼさっとしてんの」
エグレが息を整えながら言う。
「あのデカブツ。早く動かしなよ」
「……だな!」
おれは倉庫へ振り返った。
胸部の奥。
《バスターアーマー》へ乗り込んだリルが、両手を胸の前で握っている。
「いくよっ……!」
魔力が、身体から溢れた。
装甲の内部へ流れ込む。
一本。また一本。
回路に、銀色の光が走っていく。
ゴォン。
巨大な装甲の奥で。
なにかが はじめて動いた。




