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カジバノチカラ - 鉱石少女がエクスカリバーになるまで -  作者: 上田文字禍
第2部 「魔剣衝突」
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43/44

42「ドワーフ決戦」

 《職人殺し》。

 かつて世界を恐怖に陥れた《岩石王》のしもべ。

 七体存在した、宝石の魔物サイレンスの一体。


《アレキサンドライトの魔物》。


 数え切れないほどの鍛冶師を殺し、《職人殺し》なんて名前で呼ばれるようになった怪物。

 そして――

 おれの父ちゃんと母ちゃんの仇。


 出会った者は、生きて帰れない。

 子供の頃から、何度も聞かされてきた。

 そんな"バケモノ"がいま、おれの目の前にいる。

 どう考えても、大ピンチだ。


(でも……待てよ)


 おれが大ピンチってことは――

「――あいつの、たてがみが光ってる!」


 崖の下へ視線を落とす。

 木々のすきまをうように、金色の光がこっちへ向かってきていた。


「相棒ぉぉぉっ!!!」

 迷わず、崖から飛び降りる。

 身体が宙へ投げ出され、腹の奥がふわっと浮いた。


 直後――

 金色のたてがみを輝かせた《グルファクシ》が、崖下をかけ抜け、おれの身体を背中で受け止めた。


「うおっ!」

 衝撃で身体が跳ねる。

 慌てて首へしがみついた。


 グルファクシのたてがみは、主人と認めた相手の危険を感じ取る。

 おれの危険を感じて、ここまで来てくれたんだ。


「助かったぜ、相棒!」

 首筋をなでると、グルファクシが力強く鼻を鳴らした。

「まずはみんなに知らせる! 走ってくれ!」

 グルファクシが地面を蹴る。



 背後から、気味の悪い音が聞こえた。


 ゴリ。

 ミシッ。

 バキバキバキッ――


「……なんだ?」

 走る馬上から振り返る。


 崖の上にいた職人殺しの身体が、異様なほど膨らんでいた。

 細長かった手足が太くなり、背中が大きく盛り上がる。

 肉とも石ともわからない身体が変形し、黒い外套ごと裂けていった。


(大鷲か?)


 いや、以前見た大鷲なんかとは比べ物にならない。


「どんだけデカくなる気だよ……」

 膨張した身体を、硬質な鱗が覆っていく。

 一枚一枚が、黒い屋根瓦みたいに重なっていた。


 前へ突き出した巨大な頭部。その口は、岩盤に走った亀裂みたいに横へ裂けている。

 開いたすきまから、無数の牙が覗いた。

 そして、背中から広がった二枚の翼が――空を黒く塗り潰す。


「ギィィィァァァアアアアアアッ!!!!!!」


 聞いた瞬間、身体が縮み上がった。

 獣の咆哮じゃない。

 石を削る音と、人間の悲鳴を無理やり重ねたような声。

 実物なんて見たことはない。

 だけど、わかる。


「……ドラゴン」


 百年前。 《翼の民》の国を滅ぼしたとされる、最悪の怪物。

 職人殺しは――かつて世界を焼いた竜の姿へ擬態していた。


「ったく……冗談じゃねぇぞ!」


 シュル。

 シュルシュルシュル……。


 今度は、里を囲う城壁のほうから音がした。


「なんだ?」

 目を凝らす。

 壁の外側から、何本もの腕が伸びている。

 細長い指。鱗に覆われた腕。


「なっ……!」

 二股の槍が、城壁の上へ突き立った。

 その柄を伝い、人間の上半身と蛇の下半身を持った兵士たちが、次々と壁を乗り越えてくる。


蛇人間ナーガ……!」


 一体じゃねぇ。

 十。二十。

 その向こうにも、まだいる。


 職人殺しが言っていた通りだ。

 里の外で、ずっと息を潜めていやがった。

 そこで気づく。

 さっきの咆哮。

「あれが……開戦の合図か!」



 黒竜となった職人殺しが、大きく翼を打った。

 空気が爆発する。

 舞い上がった土埃が壁みたいに押し寄せ、グルファクシの身体が横へ流された。


「うぉっ!」

 輝くたてがみにしがみつく。

 職人殺しは一気に上空へ舞い上がると、大きく旋回した。

 そして、赤紫の瞳が――おれを捉える。


「……やべぇ」

 おれは走り続けるグルファクシの背から身を乗り出し、畑の脇に立てかけられていたスコップを引っ掴んだ。

 少し先。

 高台には、敵襲を知らせるための大きな鐘が吊るされている。


「当たれぇぇぇっ!」

 スコップを投げる。

 くるくると回りながら飛び――鐘へ直撃した。

 低く重い音が、里全体へ広がる。


「敵襲ぅぅぅぅっ!!!」

 鐘の音を聞きつけ、工房や家屋からドワーフたちが次々と飛び出してきた。

 さすがだ。

 酔っぱらいだろうが、変人だろうが関係ねぇ。

 こういうときは、全員が戦士になる。


 もう一度、上空を見る。


「……ん?」

 職人殺しの巨大な口が動いていた。

 噛み合う牙のすきまから、灰色の煙が漏れている。

 そして――喉の奥が、赤く光った。


「おいおいおいおい……!」

(まさか!)


「相棒っ!!!」

 グルファクシの首をたたく。

 つぎの瞬間、身体がうしろへ持っていかれた。


 速い。いままでより、さらに速度が上がる!


「グルファクシ! かけ抜けろぉぉぉっ!!!」


 直後、背後が一気に明るくなった。

 炎が大地を舐める。

 数秒前までおれたちがいた場所が、真っ赤な炎に包まれた。


「あっっっちぃぃぃっ!!!」

 直撃してねぇのに熱い!

 髪が焦げそうだ。

 空気を吸っただけで、喉が焼ける。


 サウナは好きだけどよぉ! これは死ぬやつだ!!!


 グルファクシの背へ身体を伏せる。

 まだ炎が追ってくる。


「……くそっ!」


 そのときだった。

 視界の横から、巨大な黒い塊が飛んできた。


(鉄球?)


 おれの胴体なんて簡単に潰せそうな、バカでかい鉄球だ。

 表面には、無数の棘が生えている。

 そいつが――

 ゴォンッ!!!


 職人殺しの右頬へたたき込まれた。


 鱗は砕けないが、鉄球のバカみたいな重量に巨大な首が横へ弾かれた。

 吐き出していた炎が大きく逸れ、森の外を焼き払う。


「野郎どもぉぉぉっ! ぶちかませぇぇぇっ!!!」

 聞き覚えのある、腹の底まで響く声。


「旦那ぁ!」

 おれは鉄球の飛んできたほうを見る。


 武装したドワーフたちが、道を埋め尽くしていた。

 先頭に立つのは、里長、《ガラール・フレグル》。

 その手には、黒い鎖が握られている。

 鎖の先に繋がっているのは、さっきの巨大鉄球。

 そのうしろには、角張った兜を被った《ヴェイグ》と、里の戦士たちが並んでいた。


 ガラールは鎖を強く引いた。

 地面を抉りながら鉄球が戻ってくる。

 それを片腕で受け止めた。


「ようこそ、ドワーフの里へ!!!」

 ガラールが笑う。

「我が家族と、この魔鎖、《ドローミー》が――貴様ら全員をたたき出してやる!!!」



「くらぇっ!」

 ヴェイグが地面を蹴り、ドワーフとは思えない高さまで跳び上がる。

 巨大な戦鎚を頭上へ振り上げ、黒竜の頭めがけてたたきつけた。


 だが。


「ぐっ!」

 長い尾が、横薙ぎに振られる。

 ヴェイグは咄嗟に戦鎚を盾にしたが、勢いまでは殺せない。

 身体ごと吹き飛ばされ、地面を何度も転がった。


「ヴェイグ!」

「問題ない!」

 彼はすぐに戦鎚を地面へ突き立て、身体を起こす。


 黒竜は追撃せず、翼を広げてふたたび空へ上がった。

 ドワーフたちが一斉に空を見上げる。

 こっちは近接武器ばかり。

 空へ逃げられると、相性が悪い。


 黒竜の赤紫色の瞳が、おれを見る。

 その口元が――笑ったように見えた。


(……なんだ?)


 追ってこない。


 まるで、

『まずは、こいつらから奪う』

 そう言われた気がした。


「旦那!」

 おれは叫んだ。

「あいつ、火ィ吐きやがる! まともに受けたらヤベぇぞ!」


「ガハハハ! 見ればわかるわ!!!」

 ガラールは笑った。

 そして、おれを庇うように前へ立つ。

「坊主! お前は仲間のところへ行け!」

 背中越しに、太い声が飛んでくる。


「でも!」

 ガラールが、《ドローミー》を振りまわす。

 鉄球が唸り、風を切った。

「お前は”聖剣”をつくるんだろうが!!!」


「――っ」

 その一言で、迷いが消えた。


「……わかった!」

 グルファクシの首をたたく。

「頼んだぜ、旦那!」


「任せろ!!!」

 おれはドワーフたちへ背を向けた。

 向かうのは三戸。

 リルたちのところだ。



*   *   *



 川が見えてきた。

 その向こうでは、すでに戦闘が始まっている。

 蛇人間の兵士たちが、細長い身体をくねらせながら道へ雪崩れ込んでいた。

 それを迎え撃っているのは――


「いた!」


 リル。ハルジオン。ヘイミル。エグレ。

 そして――


「カジ! 無事だったかぁ!」

 アルヴィースたち、三戸の職人連中だ。


「ああ! 無事だ!」

 グルファクシから飛び降りた瞬間、リルが橋を渡って走ってきた。


「カジバ!」

 リルは、めずらしく息を切らしている。

「早く、私を武器に!」


「ああ!」

 差し出された手を掴む。

「いくぜ、リル!」


「うん!」


 呼吸を合わせる。

 以前より、ずっと鮮明だ。

 どこへ魔力を流せばいいのか。どの部分を細くして、どこへ強度を持たせるのか。

 おれの考えに、リルが応えている。


「《錬成》!」

 銀色の光が、リルの身体を包んだ。


「《レヴェルⅢ》!!!」

 光が収束する。

 おれの手のなかへあらわれたのは、白銀の長剣。


『カジバ……いくよ』


「……」

 おれは長剣を見る。

「……リル?」


『なに?』


「しゃべってるぅぅぅ!?」

『え!? ほんとだ!』


 武器になったリルの声が、頭のなかじゃない。

 握った剣そのものから、はっきり聞こえてくる。


「エアの呼吸を合わせる修行の成果か……?」

『たぶん! でもいまは――』

「ああ! とにかく、この状況をなんとかしないと!」



「カジバ! リルをこっちへ!」

 川の向こうから、ハルジオンが叫んだ。


「川挟んでんだぞ!?」

「投げろ!」


 ほんっと、無茶言う野郎だな!

 でも、あいつなら取る。


「リル! ちょっと飛ぶぞ!」

『えええ!? まって――』


「受け取れぇぇぇっ!」

 白銀の長剣となったリルを、思い切り投げる。

 剣が回転しながら、川の上を飛んだ。


『うぁぁぁぁ〜!』

 リルの情けない声。


 ハルジオンが柄を掴んだ。

 そのまま身体を一回転。

 剣身へ、大量の魔力が流れ込む。


「くらえ!」


 横薙ぎの一閃。

 銀色の衝撃波が、扇状に広がった。

 蛇人間たちが慌てて槍を構えるが、間に合わない。

 前線にいた数十体が、まとめて吹き飛ばされた。


「すげぇ……!」

 また強くなってる。

 おれの剣も。ハルジオンも。

 だけど――


「数が多い!」

 ハルジオンが叫んだ。

 吹き飛ばしたやつらのうしろから、次の兵士が雪崩れ込んでくる。


 そのうしろからも。

 さらに、そのうしろからも。


「キリがない!」


「カジ! こっちへ来い!」

 撤退するアルヴィースが手招きしていた。


「どこにいくの?」


「決まっとる! 《秘密兵器》だぁ!」

 アルヴィースがニヤッと笑う。


「……っ!」

(秘密兵器って、まさか!)


「まさか……"アレ"!?」

 里にいた頃、アルヴィースたちと一緒につくっていた、あのデカブツ。


「いけるの!?」

「見りゃわかる!」


「ハルジオン!」

 おれは叫ぶ。

「おれたち、倉庫へ行く! お前も来てくれ!」


「いや、お前たちは先に行け!」

 ハルジオンが長剣を構えたまま答える。


 すると、横からヘイミルが飛び込んできた。

「ふんっ!」

 大剣を振り抜き、ハルジオンへ迫っていた蛇人間をまとめて薙ぎ払う。

「君も行け! ここは私が残る!」

 ヘイミルの周囲には、すでに何人ものドワーフ戦士が集まっていた。


「ひとりでは危険です!」

「ひとりではない。それに――作り手と使い手は離れない方がいい!」

 ヘイミルがハルジオンの背中をたたいた。

「大丈夫、まかせろ!」


「……わかりました」

 ハルジオンがうなずく。


 おれたちは走った。

 グルファクシ。アルヴィース。ハルジオン。エグレ。

 そして、三戸の職人たち。


「で、どこ行くわけ!?」

 となりを走るエグレが、おれを見る。


「武器を取りに行く!」

「武器?」

「見りゃわかるってさ!」

「なんなのさ、それ!」


 背後では戦いの音が続いている。

 蛇人間の叫び。

 剣と槍がぶつかる金属音。

 遠くでは、黒竜になった職人殺しの咆哮まで響いていた。


 この里には、魔鉱石武器なんてほとんどない。

 普通の武器じゃ、職人殺しには決定打を与えられない。

(急がねぇと!)



*   *   *



「うおりゃぁぁぁっ!!!」

 倉庫へ着くなり、スラーインが上着を脱ぎ捨てた。


「なんで脱ぐの!?」

 エグレが叫ぶ。


「力を出すには邪魔ぁ!!!」

「絶対関係ないでしょ!」

 筋肉を膨らませたスラーインが、巨大な扉へ両手をかける。

「ぬぅぅぅぅん!」

 重たい扉が、一気に左右へ開いた。


「さぁ、みんな! 急ぐんだヨ☆」

 ローニが、こんなときまで優雅な身振りでおれたちをなかへ招く。


 倉庫へ飛び込む。

 なかは暗い。


「明かりは!」

 ハルジオンが叫ぶ。


「慌てるな」

 暗闇のどこかから、ドヴァリンの声がした。

「俺たちには、まだ光がある――」

「早くつけろ!」

「いまつけようとしていたが?」


 天井の《太陽石》が、一斉に光を放った。

 倉庫の中が、昼間みたいに明るくなる。

 そして――


「……おお」

 何度見ても、ビッグだぜ。


 倉庫の中央に鎮座しているのは、巨大な人型装甲。

 ドワーフの三倍以上ある。

 全身を分厚い金属板で覆い、両腕も両脚も、人間の身体をそのまま巨大にしたみたいな構造だ。

 ただし、胸から腹にかけては空洞になっている。

 ひとが、なかへ入るための場所だ。


「なんだ……これ」

 ハルジオンが、めずらしく呆然としていた。


「ちょっと……嘘でしょ」

 エグレまで口を開けている。


「ガハハ!」

 アルヴィースが腰へ手を当てた。

「ドワーフガジェット六十六! 《バスターアーマー》!」


 アルヴィースは、古びた設計図を机の上へ広げた。

「俺たちが何年もかけて作っていた、最強の鎧だ!」


「おい待て、これ……!」

 ハルジオンが設計図へ飛びついた。

「異世界語。それに、この筆跡……」

 指が、紙の上をなぞる。

「勇者ハルマのものだ」


「え?」

 おれも横から覗き込む。


「まちがいない」

 ハルジオンが顔を上げた。

「これ、《エクストラウェポン》だぞ」


「……マジ?」

 おれは驚いた。


 もしかして……。

《土の聖宝器》が示した、《エクストラウェポン》の設計図。

 ドワーフに売った図面って――


 おれは巨大な鎧を見る。


「設計図って、これかよぉぉぉっ!!!」

「お前、いままで気づいてなかったのか?」

 ハルジオンが冷たい目を向ける。

「だって異世界語読めねぇし!」


「そんなことより!」

 エグレが装甲を指さした。

「それ、使えるなら早く使ってよ!」


「それがな」

 アルヴィースの顔から笑いが消えた。

「まだ動かん」


「……は?」

「正確には、つくるところまではできた。だが、動かす力が足りん」

 そう言って、装甲の胸部をたたく。

「これだけの鉄を動かすんだ。腕一本持ち上げるだけでも、とんでもない動力が必要になる。歯車とゼンマイだけじゃどうにもならん」


「はぁ! 未完成なの!?」

 エグレが頭を抱える。


 アルヴィースが腕を組む。

「必要なのは、馬鹿みたいに大量の魔力だ」

 視線が――ハルジオンへ向いた。


「……嫌だぞ」

「まだなにも言っとらん」

「顔が言ってる!」

「お前、魔力量が多いんだろ?」

「こんな訳のわからない鉄の塊に乗るくらいなら、普通に戦った方が百倍役に立つ!」

「じゃあほかに、だれがいる!」


 アルヴィースがおれを見た。

「無理だぞ」と、おれも先に言っておく。

「錬成魔術はできるけど、魔力量そのものは大したことねぇし、外へ出すのも得意じゃねぇ」


「となると……」


 全員が黙る。

 大量の魔力。しかも、それを外へ放出できるやつ。


「……あ」

(いた)


 全員の視線が、ハルジオンの手にある白銀の長剣へ向く。


「リルじゃん」

 おれは錬成を解く。

 銀色の光が広がり、長剣が少女の姿へ戻った。


「……え?」

 リルが苦笑いする。

 全員の視線が集まっていることに気づき、自分を指さした。

「わ、私?」


「お前、魔力放出の練習してただろ!」

「し、してたけど……」

「頼む!」

「ちょ、ちょっと待って!」


 気づけば、リルは装甲の胸部へ座らされていた。

「なんでこうなるのぉっ!?」


「……頼んだぞ」

 ハルジオンまで言う。


「ふえぇぇ……」

 リルは目をまわす。

 涙目だ。


(悪いな)

 おれは装甲の下から見上げる。

「リル! お前ならいけるっ!」

「……それ、根拠あるの?」

「ねぇ!」

「カジバぁ!」



 突然、倉庫全体が大きく揺れた。

 天井から、木屑と埃がパラパラと降ってくる。


「おやぁ!?」

 ハーナルが外を覗いた。

「たはーっ! こいつはスゴいねぇ!」


「なにがいる!」


「でっかい巨人!」

「巨人は元からデカいが?」

 ドヴァリンが突っ込む。


「しかも四体!」


「四体ぃ!?」

 おれも外を覗く。


 巨人が、四体。

 家屋くらいある巨体が、この倉庫を取り囲むように立っている。

 そのさらにうしろには、蛇人間の軍勢まで迫っていた。


「アーマーの起動には時間がかかる!」

 アルヴィースが装甲の内部へ潜り込む。

「お前らぁ、時間を稼げぇ!!!」


「やるしかない!」

 ハルジオンが短剣を抜いた。


 その横を、ローニが悠々と歩いていく。

「さて☆」

 彼は、背中から妙な形の弓を外した。

「ボクの美しい武器を披露するとしようか」


「クロスボウ?」

 おれは聞く。


「ただの、じゃないヨ☆」

 ローニが側面のレバーを引く。

 弦が巻き上がると同時に、箱状の部品から矢が滑り込んだ。

「エルフ式弓術に、ドワーフの連続装填機構を組み込んだのサ」


 バシュッ!

 放たれた矢が、ナーガの肩を射抜く。

 ガシャッ! バシュッ!

 ほとんど間を置かず、二本。三本。


「連射っ!?」

「美しさとは、無駄がないことだからネ☆」



 今度はスラーイン。

 巨大な剃刀みたいな刃物を、両手で構えている。


「磨き抜かれた我が肉体! そして――磨き抜かれた、我が刃!」

 薄い刃が光った。

「《シェイバー》ァァァ!!!」


 蛇人間が槍を突き出す。

 スラーインは刃を斜めに添えた。

 槍の穂先が刃の上を滑る。

 そのまま。

 スッ。

 穂先だけが、地面へ落ちた。


「……なんだ、その切れ味」

「六枚刃だ」



 さらに、ドヴァリンが、背中から剣を引き抜いた。


「長っ!!!」

 思わず声が出る。

 長剣なんてもんじゃない。本人の身長の三倍くらいある。


「《深淵断界黒鋼極長――》」

「名前も長いのかよ!」

「まだ正式名称の三割だが?」

「さっさと戦え!」

「せっかちだな」

 ドヴァリンが剣を横薙ぎに振る。

 届かないと思っていた距離の蛇人間三体が、一瞬で両断された。


(間合いが、バカみたいに広ぇ)



「たはーっ!」

 最後にハーナル。

「オレちゃんもいっくよぉ!」

 彼が一本の棒を振った……と思ったら。

 ガシャガシャッ!

 棒が分裂し、五本の短い刃があらわれた。

 そして、そのすべてが、細い金属線で繋がっている。


「お見せしよう! 《ジャグラー》!」

 曲芸みたいに五枚の刃を操りながら、蛇人間の群れへ飛び込んでいく。

「あれあれ!? そっち行った!?」

「自分でつくった武器だろ!?」

「予定通りより、予定外のほうが面白いよね!」


 こいつらやっぱり変人だ。

 集団制作じゃ問題ばかり起こして、三戸へ送られたはみ出し者。

 でも。自分で考えた武器を、自分で持たせたら――


「……つえぇ」

 口の端が上がった。

「最高じゃねぇか!」



 直後。

 巨人の拳が、ハルジオンめがけて振り下ろされた。


「っ!」

 ハルジオンは逃げない。

 腰を落とし、真正面から拳を見据えた。

「《理論武装ウェポンアーツ》――三式!」

 握っていた短剣を、巨人の拳へ斜めに添える。


「《アイギス》!」


 拳の力を、刃の側面へ流した。

 巨人の拳がわずかに逸れ、そのまま地面へたたきつけられる。

 腕を振り切った巨人の身体が、前へ大きく傾いた。


「崩した!」


 ハルジオンが懐へ飛び込む。

 だが――


「ちっ!」

 横から、別の巨人の拳。

 さらに背後から、三体目。


 ハルジオンは最初の巨人の肩を蹴り、空中で身体を捻って攻撃を避けた。

 地面へ着地する。


「一体なら崩せるが……」

 四体の巨人が、四方からハルジオンを囲んでいた。

「四対一は、面倒だな」



 さらに後方では。


「ぐっ!」

 ヘイミルが大剣を振るい続けている。

 ナーガを一体たおしても、そのうしろから二体。三体。

 次々と来る。

 じわじわと、敵の群れが倉庫へ近づいていた。



「まずいな……」

(おれも戦わねぇと)


「……ねえ」


「うわっ!」

 真横にエグレがいた。

「びっくりした……なんだよ」


 エグレは、おれを見ていなかった。

 戦場を見ている。

 赤い、《グラス》の奥。その視線の先には、押し寄せてくる蛇人間たちがいた。


「本気なの?」

「なにが?」

「聖剣をつくって、岩石王の復活を止めるって話」

「ああ」

 おれは即答した。


「……ああ、そう」

 エグレが、小さく笑う。

 バカにした笑いじゃない。

 なんだか諦めたような。それでいて、なにかを決めたような笑いだった。


 エグレが赤いグラスへ手をかける。

「じゃあ――アタシもやる」


「……え?」

 彼女はグラスをゆっくり外す。

 赤い板の奥に隠されていた両目は、固く閉じられていた。


「お前……」

「アタシも、ここで死ぬのは嫌」

 そのまま、蛇人間たちの方へ顔を向ける。

 声が少しだけ低くなった。

「それに――蛇人間って大嫌いなのよ」

 口元が歪む。

「ずっと、あいつらの好きに使われてきた」

 エグレの指が、外したグラスを強く握った。

「だから今度は――アタシが、自分の力を好きに使う番」


「……」

 胸の奥が、ざわついた。

 エグレの《呪眼》。 見た相手を石へ変える力。


 強ぇ。 

 だからこそ――怖い。

 シグルドで石になったノーラの姿が、一瞬だけ頭をよぎった。


「……なに?」

 目を閉じたまま、エグレが言う。

「まだ疑ってんの?」


「いや」

 ――疑ってない。

 そう言ったら、嘘になる。

 こいつが本当のことを全部話しているかなんて、わからない。


 混乱に乗じて逃げるかもしれない。

 おれたちへ呪眼を向ける可能性だって――ゼロじゃない。


 だけど。

(……だったら、なんのために一緒にここまで来たんだよ)


 飯を食って。

 同じ場所で寝て。

 バカみたいな話をして。


 シグルドを出るとき、おれは決めたんだ。


「……頼む、助けてくれ」


「はいはい」

 エグレが歩き出す。


 巨人の拳が地面を砕いた。

 ハルジオンが転がりながら避ける。


「くっ……!」

 起き上がろうとするが、一瞬だけ膝が落ちた。

 一体を《アイギス》で崩しても、その隙を別の三体が潰してくる。

 休む暇がない。



 ハルジオンの前を――エグレが通った。

「アンタも、下がって」


「なっ! お前!」

 ハルジオンが目を見開く。


「死にたくなければ――目ぇ瞑りな」

 エグレが笑う。


 ハルジオンは巨人から距離を離し、即座に目を閉じた。


 四体の巨人が動きを止める。

 いままで追っていたハルジオンではなく、目の前へ出てきた小さな少女へ向き直った。


 巨大な腕が持ち上がる。

 一体。二体。三体……。

 四体すべてが――エグレへ顔を向けた。


「エグレ!」

 思わず声が出る。


「大丈夫だから、目ぇ瞑っとけって」

 エグレは一歩前へ出る。


「アタシだって――」

 閉じていた瞼が、ゆっくりと開く。

「やられっぱなしは、ムカつくんだよ」


 おれは目を瞑る。


「失せろ、ノロマ」

 ほんの一瞬。

 戦場から音が消えたような気がした。


(……?)


「……もういいよ」

 エグレの声。


 おれは目を開ける。

 そこには、巨大な石像が四体。

 振り上げた拳も、歪んだ顔も。全部、そのまま固まっている。


「……すげぇ」

 思わず声が漏れた。


 両目を閉じているエグレは、グラスをかけ直した。


「なにぼさっとしてんの」

 エグレが息を整えながら言う。

「あのデカブツ。早く動かしなよ」


「……だな!」

 おれは倉庫へ振り返った。


 胸部の奥。

《バスターアーマー》へ乗り込んだリルが、両手を胸の前で握っている。


「いくよっ……!」


 魔力が、身体から溢れた。

 装甲の内部へ流れ込む。

 一本。また一本。

 回路に、銀色の光が走っていく。


 ゴォン。


 巨大な装甲の奥で。

 なにかが はじめて動いた。



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