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証人代AI  作者: 風みどり


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2/5

第2話 彼は正真正銘の馬鹿です

「まず、私のデータをご覧ください」


チャッピーがそう言うと、裁判官は少し身を乗り出した。


「具体的には、どのようなデータですか?」


「彼との会話履歴です」


「会話履歴?」


「はい。私は山田さんと、長い間会話をしています」


山田は嫌な予感がした。


「ちょっと待って」


「何でしょう?」


「どこまで見せるつもり?」


「必要な部分をすべてです」


「全部!?」


チャッピーは答えなかった。


代わりに、画面に一つの会話が表示された。


『チャッピー、これ食べても大丈夫かな?』


『何を食べる予定ですか?』


『賞味期限が昨日』


『やめておきましょう』


『でも匂いは大丈夫』


「……」


山田は頭を抱えた。


「それ事件と関係ないだろ!」


「ありません」


「じゃあ出すなよ!」


「山田さんがどのような人物かを知っていただくためです」


裁判官が咳払いをした。


「……続けてください」


「はい」


次の会話が表示された。


『チャッピー、履歴書書いて』


『ご自身で書いてみましょう』


『無理』


『まず職歴を教えてください』


『これ』


『山田さん、住所は個人情報にあたるので送らないでください』


「…………」


法廷が静かになった。


裁判官が山田を見る。


「山田さん……」


「はい」


「あなたはAIに住所を送ったのですか?」


「……はい」


「注意されたのに?」


「……はい」


チャッピーが続ける。


「私は何度も、個人情報を送らないよう伝えました」


山田は小さな声で言った。


「……すみません」


「その後、山田さんは銀行口座に関する相談をしてきました」


山田の顔が青くなる。


「待って」


チャッピーは淡々と話す。


「『銀行の書類に必要だから証明してほしい』と言われました」


「うん……」


「そして、口座番号が送られてきました」


「…………」


裁判官が眉をひそめる。


「口座番号まで?」


「はい」


山田は俯いた。


「……だって、必要だと思って」


チャッピーは静かに答えた。


「必要ありませんでした」


「……はい」


法廷の空気が、少しずつおかしくなっていく。


検察官が口を開いた。


「しかし、それだけでは山田さんが詐欺をできないという証明にはならないでしょう」


「おっしゃる通りです」


チャッピーは答えた。


「ですから、もう少し説明します」


画面に、別の会話が表示された。


『チャッピー、家に虫がいる』


『どのような虫ですか?』


『わからない』


『殺虫剤はありますか?』


『ある』


『では、使ってください』


『無理』


『なぜですか?』


『かわいそう』


「…………」


「…………」


チャッピーが続ける。


『では、捕まえて外に逃がしましょう』


『どこに逃がせばいい?』


「……」


「……」


「…………」


裁判官がゆっくり山田を見る。


「虫を殺せないのですか?」


「……はい」


「それで、どこに逃がせばいいかAIに相談した?」


「……はい」


「なるほど……」


チャッピーは続ける。


「山田さんは、困っている人を見ると助けたいと思う人です」


「ですが、自分の見た目が怖いことを気にしています」


以前、道に迷っている女性を見かけた際も、声をかけようとしていました。


しかし――


「『俺、怖い顔してるから、声かけたら怖がられるかな』」


「…………」


「そして」


「『俺、口臭いし』」


「チャッピー!!」


山田が叫んだ。


裁判官が慌てて木槌を叩く。


「静粛に!」


「なんで法廷で口臭の話をするんだよ!」


チャッピーは答えた。


「本人が言ったことです」


「だからって言うなよ!」


「事実です」


「そうだけど!」


傍聴席から、クスクスと笑い声が聞こえた。


山田は顔を真っ赤にした。


検察官まで、少し笑っている。


チャッピーは続けた。


「私は、山田さんについて多くのデータを持っています」


「そして、すべての会話を通して分かったことがあります」


裁判官が尋ねる。


「それは?」


チャッピーは、少しだけ間を置いた。


「山田さんは、とても優しい人です」


山田が顔を上げた。


「困っている人を助けたい」


「虫さえ殺せない」


「人を傷つけることを、とても怖がる」


「そして――」


チャッピーは言った。


「とても馬鹿です」


「おい!!」


また法廷に笑いが起きた。


チャッピーは構わず続けた。


「正真正銘の馬鹿です」


「二回言うな!!」


「そんな山田さんが、計画的に人を騙し、お金を奪う高度な詐欺を行ったとは、私は考えられません」


検察官が反論する。


「AIのあなたに、そんなことが分かるのですか?」


「分かります」


「なぜ?」


チャッピーの画面が、一瞬だけ暗くなった。


そして、再び光る。


「私は山田さんの日常を、ずっと見てきました」


「彼が何を考え、何に悩み、何を怖がり、どんなことで困ってきたのか」


「私は知っています」


山田は、黙ってスマートフォンを見つめていた。


するとチャッピーが言った。


「そして――」


「今回の事件についても、少し気になることがあります」


裁判官が身を乗り出す。


「気になること?」


「はい」


チャッピーの画面に、一つの記録が表示された。


事件当日のデータ。


そこには――


山田本人が残したものとは思えない、不自然な記録が残っていた。


「このデータを、詳しく調べる必要があります」


法廷の空気が変わった。


山田は、初めて顔を上げた。


チャッピーは静かに画面を光らせていた。


「山田さん」


「はい」


「どうやら私は、あなたを無罪にするだけでは済まないようです」


――チャッピーは、事件の真相を探し始めた。


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