↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
柳田さんに取り憑かれた日のこと  作者: せなね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/93

番外編『宮本さんと風間さん㊵』

 

 うっかり寸止めを失敗した後、りっちゃんはしばらく陸に打ち上げられた魚のようにビックンビクンしていたのだが、30分が過ぎる頃になると、白目を剥いたままピクリとも動かなくなってしまった。

 私は、身体が針金を通したようにピーーンっとなっているりっちゃんを見下ろしながら、どうしたものかと思案していた。

 (薩摩たるもの、若いうちに童貞は捨てねばならぬと思っちょったが、それをまさか、りっちゃんで捨てることなるとは夢にも思わんかったのう・・)

 私くらいの年齢で人をコロコロしてしまったら、いったいどれくらいの期間豚箱にぶち込まれることになるのだろうかと考えていると、それまでぴくりとも動かなかったりっちゃんが、急にむくりと上半身を起こした。

 それを見て、私は「おっ」と目を丸くする。

 「りっちゃん、おまん生きちょったか、ワレ!! ワシの一撃を食らって生きちょるとは、流石はワシの親友じゃな!! 見直したど!!!」

 うんうんと頷きながら、これで豚箱に行かずに済むぞと内心で小躍りしていると━━

 


 目の前で、りっちゃんの首が180度ぐるりと回った。



 「・・・」

 りっちゃんは白濁した目を私に向け、口の端を限界まで吊り上げた壮絶な笑みを浮かべていた。私は戸惑いつつ、「ど、どうしたんじゃ」と訊ねる。すると、

 


 ━━━※※※※※※※※ッッッ!!!



 突然、りっちゃんは酒焼けした中年のおっさんのようなダミ声で何事かを捲し立て始めた。

 日本語ではなかった。

 それは古いラテン語で、神と人間を徹底的に汚く罵る、SNSなら即日永BAN間違いなしの大暴言だった。

 私は眉を顰めつつりっちゃんに、「そういうことを言うのはよくないぞ」と嗜めたのだが、

 「BITCH!!」

 と罵られ、顔に唾を吐かれた。すごく臭かった。

 「・・・りっちゃん。りっちゃんも一応女の子なんじゃから、口臭のケアはしっかりしといた方がええと思うぞ」

 私は、アルコールスプレーを浸したハンカチで入念に顔を拭き拭きしつつ苦言を呈したのだが、当の本人は空を見上げながら神を呪う言葉をぶつぶつ呟くばかりで、こちらの方を見ようともしなかった。

 その態度に、私は流石にちょっとムッとしてしまったのだが、つい先程、りっちゃんをコロコロしかけてしまった負い目があるので、黙って首を左右に振るにとどめた。

 結局、その日は一日中、私が何を言ってもりっちゃんはそんな感じだった。首も180度回ったままだった。



 翌日。

 目を覚ますと、りっちゃんは何故かブリッジをした格好で、器用に山の中を走り回っていた。

 りっちゃんはムール貝みたいな目をした銀色の猿を捕まえようとしているらしく、バリウムのように白濁した涎をダラダラ流しながら銀色の猿をひたすら追いかけ回していた。逃げ惑う銀色の猿は、時折後ろを振り返りつつ、ソフトクリームにグリップを取り付けたような変な形の銃をりっちゃんに向けていた。その引き金を絞ると、「びるびるびー」という間抜けな音と共に、銃からウスノロの稲妻みたいな光線が放たれる。しかし、スパイダーウォークで爆走するりっちゃんは見事なサイドステップでそれを回避し、銀色の猿との距離を更に詰めていく。外れた光線は背後の木に当たった。ジュッという、熱したフライパンに水を一滴垂らしたような音がしたかと思うと、その木はまるで最初からそこに存在しなかったかのように綺麗に蒸発した。それを見て、私は危ないなぁと思った。りっちゃんは銀色の猿に飛びつくと、その身体を地面に押し倒し、「お前は惨めな奴なんだ」的なことを古いラテン語で罵り始めた。銀色の猿は生まれたての子鹿のように身体を震わせながら、しくしくと泣いていた。顔がゲロまみれになっていた。

 それから30分くらい、りっちゃんは銀色の猿を組み伏せた格好のまま、この世がいかにデタラメだらけなのかを古いラテン語で熱弁していた。

 その様子を横目で眺めつつ、私は朝食の準備に取りかかっていた。メニューは昨日のイワナっぽい魚の残りである。料理が完成し、りっちゃんを呼ぼうと腰を上げると、



 不意に、空が七色にペカペカと光り始めた。



 何じゃと思い顔を上げると、バブル時代のデコトラみたいな巨大な円形のドローンが空にふわふわと浮かんでいた。バ●ラの宣伝車はこんなとこにまで来とるんかと感心していると、ドローンの真ん中あたりにパッカリと穴が空き、そこへ向かって、りっちゃんと銀色の猿が吸い込まれるようにして浮かび上がっていく。りっちゃんは古いラテン語で「堕天の時を思い出すわ!!」と楽しそうに笑っていたが、バ●ラの宣伝車の人の迷惑になると思い、腰を掴んで無理矢理地面に引きずり下ろした。りっちゃんはバリウムみたいな白い唾液を撒き散らしながら、首を360度高速回転させていた。ドローンは銀色の猿を回収すると、そのまますごいスピードで何処かへ向けて飛んで行った。私は、ドローンが飛んで行った方角を眺めつつ、いつもの「バー●ラ、バ●ラ、バー●ラ求人!!」のクソデカ音頭を流していなかったけど、契約的に大丈夫なのだろうかと少しだけ心配になった。



 ※※※

 ※※

 ※



 それから一週間後。

 私の献身的な修行の甲斐あって、りっちゃんはほぼ完全に山に適応し、スパイダーウォークで42.195kmを自在に駆け抜けるまでに成長していた。

 「俺はサタンだっ!!」と叫びながら元気に野山を駆け回るりっちゃんの姿を見て、私は腕を組みつつ満足げに頷き、

 「うむっ。こんくらい鍛えておれば、学校でいじめられることもなくなるじゃろっ!! これにて、今回の山籠りは修了とするっ!! よう頑張ったのう、りっちゃん!!!」

 と、言った。

 しかし、りっちゃんは「俺はサタンだっ!!」と叫ぶと、そそくさと木の影に隠れてしまった。そして、チラチラと顔を出しつつ、私に向かって緑色のゲロを吐いてくる。

 「俺はサタンだっ!!」

 どうやらこの山に愛着が湧きすぎて、帰るのが嫌になってしまったらしい。私は苦笑しつつ、

 「りっちゃん、わがまま言っちゃいかんど? 一緒に帰ろう?」

 と、手を差し伸べたのだが、

 「俺はサタンだっ!!」

 と言って、七色のゲロを吐かれた。顔にモロにかかった。

 「・・・」

 私は張りついた笑みを浮かべつつ、懐から輪っかの形をした一本の古い縄を取り出した。それは、ここに来る途中で見つけた木の枝にぶら下がっていたものである。何だか黒ずんでいるし、ベトベトするし、下に何かの動物の骨とボロ布が落ちていたけれど、どこかで役に立つかもしれないと思い失敬しておいて正解だったようだ。

 山から帰りたくないという気持ちは分からないでもないが、私たちはまだ小学生なのである。これ以上は流石に親が心配するだろうし、学校の出席日数にも響く。

 なので、強制連行とする。

 「俺はサタンだっ!! 俺はサタンだっ!!」

 私は嫌がるりっちゃんの首に無理矢理縄を引っかけると、そのまま引きずるようにして下山した。



 麓に辿り着くと、何故か物凄い数の警察官がそこら中をうろちょろしていた。

 何かあったんじゃろうかと思い声をかけると、警察官たちはギョッとした顔をして、すぐに無線に向かって何事かを報告し始めた。私は「何じゃ?」と首を傾げ、りっちゃんはブリッジをしたまま「俺はサタンだっ!!」と喚きながらバリウムみたいな白い液体を警察官たちに向けて吐き散らしていた。何人かに銃を向けられた。



 その後、色々な大人にクソほど怒られた。



 ※※※

 ※※

 ※



 「ちゃんと書き置きを残したじゃろ!! ちょっと山に行ってくるって!!」

 山籠りで何をしたかを一通り説明した後、私は頬を膨らませて抗議した。しかし、

 「・・・」

 対面に座るあか婆は、眉間を押さえた格好のまま何も言わずに黙って俯いていた。

 色々な大人に散々怒られた後、最後に「ちょっと来なさい」と言って無理矢理連れて来られたのが、あか婆の家だった。

 ×川(ばつかわ)あかり。

 りっちゃんが子どもの頃からお世話になっている、拝み屋のお婆さんである。

 子どもの頃の私は、幽霊だの超能力だのといったものの存在を、まったく信じていなかった。

 拝み屋なんて、昼は安い女と一緒にフェラーリを乗り回し、夜は安い女にフェラーリさせている性欲の権化のような詐欺師の同類だろうと端からバカにしていたのだが、あか婆に初めて会った瞬間、そんな私の固定観念は一瞬にして霧散した。



 あか婆は、神社の空気を纏う人だった。



 高名な神社の鳥居をくぐると、明らかに外界とは異なる雰囲気に、心と身体が自然に一段上へと引き締まる━━。あの不思議な感覚と同じものを、あか婆からは『ただそこにいる』だけで覚えてしまう。りっちゃんに寄生する詐欺師だったら頭をカチ割っちゃると、意気揚々とあか婆の元に乗り込んだかつての私は、彼女の姿を見た瞬間、担いでいた木刀を思わず落としてしまったのだ。



 そして、この人はホンモノなのだと、本能で理解した。



 「・・・後で『安南(あなん)』の人たちと一緒にお詫びに伺わないと・・」

 ひとしきり眉間を押さえた後、あか婆はそう言って、すごく大きなため息を吐いた。あか婆の年齢を感じさせない端正な顔が、何故だか酷くやつれていた。

 あか婆の正確な年齢がいくつなのかを、私は知らない。

 ただ、髪が総白髪なのと、手の甲や首元の肌の具合から、間違いなく還暦は超えているものと思われる。恐らく、私の家の隣に住んでいる源爺さんの一回り下くらいの年齢なのだろう。

 しかし、それほどの高齢にも関わらず、あか婆の顔は、時折10代の少女に見えてしまうほどに美しい。



 そう見えるのは、彼女の顔が元からひどく整っているからだろう。



 若い頃は相当な美人だったに違いない。現に、私の住んでいる地域の老人会━━『安南老人クラブ』では、あか婆はアイドル的な存在なのだと聞く。本人はひどく迷惑がっているらしいが。

 その老人会のアイドルは今、頭を抱えた格好で、何事かをぶつぶつと呟いていた。

 「どうしたんじゃ、あか婆? 神経の発作か? 救急車呼んだ方がええか?」

 私は親切でそう訊いたのに、何故かあか婆はキッと私を睨みつけると、そのまま無言でゆっくりと立ち上がり、神棚に置かれていた『モノ』を手にして戻ってくる。

 あか婆はその『モノ』を━━『静佳ちゃん用』と腹面にデカデカと書かれたハリセンを二、三度軽く振るうと、それで私の頭をバチコンと思いきり殴ってきた。

 「あたっ!!」

 殴られた私は、思わず頭を押さえてしまう。あか婆の持つハリセンはただの紙製で、中に鉄板が仕込まれているわけでもないのに、殴られると何故だか酷く痛かった。

 私は頭をさすりながら恨めしげにあか婆を見上げ、「虐待じゃ、虐待!!」と、抗議する。

 「黙りなさい」

 あか婆は腰に手を当てた格好で、まなじりを吊り上げていた。

 それを見て、私は抗議の声を引っ込める。

 あか婆は普段は穏やかで優しい女性なのだが、ガチで怒った時は、睨まれただけでチビりそうになるくらい怖い人になるのだ。

 「・・・」

 あか婆はひとしきり厳しい眼差しで私を睨みつけた後、「はぁぁぁぁ・・」と、心底げんなりした感じでため息を吐いた。

 そして、再び眉間を押さえる。

 「まったく、あなたは本当にもう・・。私だって、幼い子どもをハリセンで殴るような真似なんてしたくありませんよ? けれどね、あなたは本当に・・本っっっ当に、人の話をまっっっったく聞かない子だから、こうでもしないと分からないでしょう?」

 その言葉を聞き、私は思わずムッとしてしまう。

 「何じゃ、ワシのことを聞き分けのない幼児みたいに言いよって!! ワシは話の分かる薩摩じゃぞ?」

 「どこがよ!? あなたはいつだって、人の話を右から左へボウリングみたいにスルっと流していくじゃないの?」

 「そんなことはないぞ!! ワシはいつだって、人の話はちゃんと聞いちょるわい!! 不要と判断した話は無視するがな!!」

 「そういうのを、人の話を聞いていないって言うのよ!! あなたは色々な意味で規格外なんだから、自分の尺度で人を測ってはいけないと何度教えたら分かるの? 人並み以上に『魂』が頑丈な立夏ちゃんだから雑霊に取り憑かれる程度で済んだけど、もし普通の人をあの山に連れて行った挙句、『神殺し』と『神喰い』と『黄泉送り』なんて行おうものなら、命を取られるだけでは済まなかったのかもしれないのよ!? 」

 「あ? 何じゃ、『神殺し』と『神喰い』と『黄泉送り』って? わしゃそんなことはしとらんぞ?」

 「あなたが言う『鹿』━━ダイハツのハイビームみたいにペカーっと光っている山の主様を殺したことを『神殺し』、その山の主様を不敬にも捌いた挙句、生食したことを『神喰らい』、そして、立夏ちゃんの頭を木の棒でカチ割って死の淵を彷徨わせたことを『黄泉送り』って言うのよ!!」

 「なんじゃ、それのことか。いちいち大袈裟な言い方じゃのう。その年齢で厨二病みたいな言い回しは恥ずかしいぞ、あか婆? マッチングアプリで一体いくつの若いツバメとコンタクトを取っとるん・・いったいっっ!!!」

 あか婆は幼稚園児がプレイするワニワニパニックのように私の頭をハリセンでデタラメに叩きまくると、

 「私は源さんや『南』の人たちみたいに、マッチングアプリなんかに手を出していませんっ!!!」

 と、顔を真っ赤にして、大声で怒鳴ってきた。

 私は涙目で頭を押さえつつ、

 「この件はしかるべきところに報告させてもらうぞ、あか婆!! 更年期障害の一番ヤバいフェーズに突入した近所のババアに理不尽な暴力を振るわれましたって通報しちゃるけぇ覚悟せえよ!!!」

 「勝手になさい!! どうせこの家はあなたがスナック菓子感覚で気軽に通報するせいで警察と役場から要警戒者リストの上の方に挙げられているんですからね!! 今更です!!」

 私たちは、ぎゃあぎゃあとお互いを罵り合う。

 その声に、時折パーーンという、ハリセンが私の頭に炸裂する小気味のよい音が混ざる。音がする度、私は「おまわりさぁぁぁぁぁん!!」と、大声で叫んだ。いつもなら大抵パトカーの召喚に成功するのだが、その日は何故か、いくら叫んでもお巡りさんがあか婆の家に凸してくることはなかった。



 罵り合いがひと段落すると、ハアハアと肩で息を切らせたあか婆が、不意に真面目な顔つきになった。そして、

 「・・・静佳ちゃん」

 私の目を、まっすぐに見つめてくる。

 「あなたはね、何でも一人で出来すぎてしまうのよ。それが、あなたの祝福でもあり、呪いでもある。あなたから見れば、あなた以外の人間はみんな、赤ちゃんのようにしか見えないのでしょう。けれど、何も出来ない赤ちゃんにだからこそ、尊重するという気持ちを忘れないでいてほしいのよ。あなたが他人のことをまったく考えていないわけではないことは分かっています。けれど、そ(・)れ(・)で(・)は(・)足(・)り(・)な(・)い(・)の(・)。あなたには一度立ち止まって、今以上に他人のことをしっかりと慮る癖を身につけて欲しいのよ。あなたは、せっかちすぎる。あまりにも他人を見ていない。厳しい言葉を使うなら、傲慢なところがある。その傲慢は、きっとこの先、あなたを不幸にするでしょう・・。何でもかんでも一人で決めて、正しく合理的な道筋の通りに進んでいけるあなたはとても強い人だけれど、他人に合わせて敢えて非合理的なまわり道をする『強さ』があなたにはない。その『強さ』がなければ、あなたがこの先何か大きな壁にぶつかった時に、あなたを他の道へと導いてくれる誰かの手が届かなくなってしまう」



 「ずっと他人と歩幅を合わせずに生きてきた人間というのはね、誰かに歩幅を合わせてもらうことも出来なくなるのよ?」



 「そうなってしまったら、あなたはたった一人で壁の前でうずくまり、そこから一生動けなくなってしまう。・・・静佳ちゃん。私はね、あなたにそんな風にはなって欲しくないのよ? 今は理解していなくてもいい。老人の戯言だと鼻で笑っておきなさい。けれど、私の言ったことの意味が分かった時、あなたの心が完全に折れてしまわないよう、自分が今までやってきたことはすべて憶えておくようにしておきなさい。その後悔が━━その後悔に対する贖罪の気持ちが、きっとあなたに今までとは違う『強さ』を与えてくれるでしょうから・・」

 「・・・」

 真摯な表情で語りかけてくるあか婆の言葉を、私は眉根を寄せながら聞いていた。

 あか婆が私に何を伝えたいのか、それがいまいち分からなかったからである。

 「あか婆の言う『壁』とは、人生における困難や理不尽のことか? んなもん人の手なんぞ借りずとも、自分で破壊するなり飛び越えるなりすればええじゃろうが? まったく━━」



 「人(・)間(・)と(・)は(・)、(・)本(・)当(・)に(・)軟(・)弱(・)な(・)生(・)き(・)物(・)じ(・)ゃ(・)の(・)う(・)」



 「・・・」

 あか婆は悲しそうな表情で私の顔をしばし見つめた後、

 「破壊したり、乗り越えられる程(・)度(・)のものを『壁』とは言わないのよ・・。あなたにもいずれ必ず、それが分かる時が来る」

 あか婆はそう言って、目を伏せた。

 私は呆れ半分怒り半分で、その顔を見つめていた。

 あか婆は、私のことを人情がない自分勝手な奴のように決めつけているが、私はりっちゃんのことを尊重しているし、大事な友達だと思っている。だから━━


 

 りっちゃんには、私と同じくらい強くなってもらいたかった。



 そのために、私は今回の山籠りを決行したのである。りっちゃんのために色々と骨を折ったし、日課の立木打ちをする時間も大幅に削った。趣味の『御山』にも行けていない。

 他人のためにここまで尽くしてあげられる自分が、何故冷血動物のように言われなくてはいけないのか? それが、本当に不服で仕方なかったのだ。



 あか婆の言ったことは何もかも正しくて、私は何もかもを間違っていて━━けれど、その何(・)も(・)か(・)も(・)を(・)間(・)違(・)え(・)て(・)い(・)る(・)『(・)私(・)』(・)こ(・)そ(・)が(・)、(・)『(・)私(・)』(・)に(・)と(・)っ(・)て(・)の(・)正(・)解(・)だ(・)っ(・)た(・)の(・)だ(・)と気付くのは、これよりずっと後のことである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。