番外編『宮本さんと風間さん㊱』
「・・・『火車』に取り憑かれている、と、その男━━金崎じゃこてんの先輩芸人は言った」
「『火車』、ですか?」
聞き慣れない言葉に、宮本静佳は僅かに首を傾ける。
「火車の本来の意味は妖怪だ。火車は、悪党の葬儀に現れ、その遺体を何処かへ持ち去っていくっていう何とも粋な妖怪のことなんだが、その男が言う『火車』とは、それとは全く異なる。男の言う『火車』とは、読んで字の如く『火の車』。激しく燃え盛りながら回り続ける、地獄の車輪のことだ。その男は生まれつき、人間の中に何かしらの『イメージ』のようなものが視えるという不思議な力を持つ男でな。その男が金崎じゃこてんに視た『イメージ』が、それだったんだそうだ」
━━━『火車』は、回れば回るほど地獄へ向かって一直線に落ちていき、取り憑いている人間に絶え間ない苦痛を与え続ける呪いような『イメージ』です。けれど、どういうわけだか、『火車』の『イメージ』を持つ人というのは、好んでそれを背負いたがるのです。それがもたらす苦痛も地獄も、すべて受け入れて笑っている。信じがたい精神状態ですが、『火車』の『イメージ』を背負う人たちは、自分が立っている場所が地獄であればあるほどに、安堵を覚えるのです。・・・金崎さんも、そういう人でした。
「そんなものは捨てちまえばいい。好んで苦痛を背負うことなどないんだと、誰しもがそう思うことだろう。だが、『火車』を背負う人間にとって、その『苦痛』こそが生きるための原動力なんだ。それがなければ立ち上がることすら出来なくなる。『火車』は『呪い』だが、その『呪い』がなければ生きていけない人間というのは確かに存在する。俺はその当時、オカルトだのスピリチュアルだのといったものはすべてまやかしだと思っていた。詐術の一種だと、端からバカにしていたよ。だが、その男の語った『火車』という『イメージ』は、どういうわけだか俺の心にしっくりと入り込んできた。その理由はすぐに分かった。何故なら他ならぬ俺自身が━━」
「彼女同様、『火車』がなければ生きていけない人間だったからだ」
ヤマさんの眼差しが、呆然とした表情の宮本静佳と重なる。
「静佳ちゃんなら、俺の言っていることが理解出来るだろう。あの時━━緑ヶ丘市で俺たちが初めて出会った時、お前さんは俺や金崎じゃこてん同様、『火車』を背負っていたんだからな・・」
※※※
※※
※
高校三年生の秋。
九州の端から『奴ら』を追ってたどり着いた、緑ヶ丘市とかいう聞いたこともない名前の地方都市で、私は『奴ら』の一人の居場所を偶然突き止めることが出来た。
しかし、そいつの住処にたどり着くと、男は『あのバケモノ』たちの手によって、すでに殺されてしまった後だった。
バケモノたちが、いつものようにぐるぐると呻きながらこちらの様子を伺っている。喉をかき切られて絶命した男のすぐ側に、見知らぬ男が二人立っていた。
一人は、くしゃくしゃに丸めた古紙のようなトレンチコートを着た中年の男で、もう一人は、新卒みたいな卸したての安い紺色のスーツに身を包んだ若い男だった。
私は腰を抜かしてへたり込む若い男の元へつかつかと歩み寄ると、その胸ぐらを掴んで引き起こした。
「おいっ!!」
怒鳴りつけると、若い男はひいっと、男が腐ったような悲鳴を上げた。私は息絶えた男を指差し、
「おまんコイツの仲間かっ!? コイツとどういう関係なんじゃ!? 答えんか、コラッ!!!」
と、喚きながら、その身体を激しく揺らす。若い男はもう完全にパニックを起こしていて、されるがままひぃひぃと涙を流していた。と━━
「警察だよ、警察」
横から、修羅場にそぐわないひどく落ち着いた声がした。
目を向けると、古紙のようなトレンチコートを着た中年が、警察手帳をひらひらと揺らしながら私のことを見ていた。
若い男と違い、中年の表情には怯えというものがまるでなかった。静かな目で、私のことを見つめている。
「その男にはちょっと聞きたいことがあってな。そこの役立たずと一緒にお話を伺いに来たんだが・・まぁ、ご覧の有り様というわけだ。状況が状況じゃなきゃ、是非ともお嬢ちゃんたちにもお話を伺いたいところなんだが・・」
中年の男は、少しだけ困った風な顔をして後頭部をかくと、前方を指差し、
「一応聞いておくが、お嬢ちゃんたちにも、『アレ』は視えてるよな?」
と、聞いてきた。私は「ハァ?」と顔を歪める。
「当たり前じゃろが。どんだけ視力が悪かろうが、アレが見えん奴はおらんど」
「だよなぁ・・」
中年は深いため息を吐き、
「俺と中川が、どこかで妙な薬物を吸い込んで幻覚を見てるって話の方がまだ救いがあったんだがな・・。そうか、これは現実か」
━━━あの時と同じだな・・。
そう言って、頭を振った。
中年の指差す先にいたのは、三匹のバケモノである。
影絵を直に切り取ったかのような、濁りも光沢も一切ない黒色の獣。そのバケモノの顔には、鼻から上の部分がない。そこから先は黒い炎のようなものが蝋燭のように灯っていて、バケモノの面相を、まるで悪趣味な燭台のように演出している。
二足歩行する犬のような見た目をしたそいつらは、背を大きく丸めた前傾姿勢で、鋭い犬歯をガチガチと鳴らしながら私の方を━━否、私の背後をしきりに警戒していた。
「・・・」
重い空気が、私の背後から緩やかな波のように迫ってくる。私と若い男の身体が、大きくて細長い影に包まれる。物音は一切しなかった。だが、振り返らずとも、そこに誰が立っているのかは分かっていた。真っ黒なマントに身を包んだ、鉄柱のように長い影。『あの子』はいつも、こんな風に私の背後にするりと忍び込んでくるのだ。
「ひいっっっ!!!」
『あの子』━━『一番弟子』を見た若い男が、大きな悲鳴を上げる。そして、何を思ったのか、私の腰の辺りにいきなり抱きついてきた。私は即座にその髪を掴んで引き剥がし、中年の方へ向けて蹴り飛ばした。
「痴漢じゃっ!! 痴漢の現行犯じゃっ!!!」
「い、いや、違う!! 違いますからっ!!」
若い男は助けを求めるような目で中年を見たのだが、中年は冷め切った目で若い男を見下していた。そして、無言で内ポケットから手錠を取り出す。
「強制わいせつの現行犯だ。お前には黙秘権がある・・って言いてぇところだが、割と本気の本気で言いてぇところだが、ふざけてる場合じゃねぇよなぁ・・」
私たちの目の前にいるバケモノは、もう今にも飛びかからんばかりの様相だった。不機嫌な喉なりが、群発地震のように間断なく聞こえてくる。
そんな状況で、中年は何故か肩をすくめて笑った。仕方なし、と言わんばかりに。
「おい、そこの木刀持ったお嬢ちゃん」
「なんじゃ?」
「お前さんがどこの誰で、何の目的でそこに転がってるチンケな売人を追いかけてたのかは知らんが、とっとと逃げろ。俺みたいなジジイとそこの役立たずでも、食われてる間の時間稼ぎくらいにはなるからな」
私は眉根を寄せ、勝手に死ぬ勘定に入れられた若い男は「はひ?」と、間抜けな声を漏らした。言動も行動も、何もかもがいちいち勘に触る男だった。
中年が眉根を寄せる。
「何が『はひ』だ、馬鹿野郎。てめぇよぉ、桜の代紋背負った人間が女子供ほったらかして逃げるとか、んな勝手が許されるとでも思ってんのか? 覚悟を決めろ、覚悟を。俺もお前も、ここまでなんだよ」
そう言って、壮絶な笑みを浮かべる。若い男がぶるりと大きく身を震わせる。自身の生き死にを語っているというのに、中年の声は気味が悪いくらいに落ち着いていた。
まるで、そんなことは瑣末な問題だ、と言わんばかりに。
「い、いやですよぉ・・。僕はまだ、死にたくないですよぉ・・はひんっ!!」
私は若い男の背中を蹴り飛ばすと、大股でバケモノどもに向かって歩いていった。子供向けの戦隊ヒーローのように、安い博愛に目覚めたわけではない。
ただ何となく、言葉に出来ない何かがひどく気に入らなくて、私は助けてやろうかという気持ちになったのである。
「おいっ!」
中年が切迫した声を出し、私の肩を掴もうとしてくる。
その手を、私は振り向くことなく掴んだ。
「・・・!」
肩越しに目を向けると、中年の表情が硬く強張っていた。それを見て、私は少しだけ眉を上げる。そこそこやるとは思っていたが、手を掴まれただけで相手の力量が大体分かるとは、私が思っていた以上に『やる』人だったらしい。
私は薄く笑って中年の手を離すと、
「邪魔じゃけぇ引っ込んどれや、オッサン」
と言って、バケモノどもに向き直った。
『一番弟子』のことばかりを見ていた三匹のバケモノどもは、今や完全に照準を私に合わせていた。
並の人間ならば縮み上がって動けなくなるほどの威圧感。しかし、いつものことすぎるので、私の心にはさざなみすら立たない。
緑ヶ丘市にやってきてからというもの、この二足歩行する犬のようなバケモノに、私は毎日のように襲撃されているのだから。
理由は分からない。このバケモノが何なのかも分からない。緑ヶ丘市に足を踏み入れた途端、コイツらは執拗に私を付け狙ってきた。きっかけになるような出来事も思いつかない。
ただ、こいつらの見た目は、『主さんの山』にいた生き物にひどく似ていた。
※※※
※※
※
『主さんの山』とは、私の実家近くにある深山で、近所の爺様婆様からは『六死ヶ嶽』と呼ばれて畏れられている忌み山のことである。
幼い頃から年寄り連中に、決してあの山に━━『六ノ宮の冥主様』の御座しまする御山に足を踏み入れてはならぬと言い含められてきたのだが、私は時々、こっそりとこの山に忍び込んでいた。
昔の私というのは、朝から晩までひたすらに木刀を振るっていればそれで満足するような子どもだったのだが、ごく稀に、心の中に言いようのない虚しさを覚えることがあった。
そういう時、私の足は自然と『主さんの山』に向かった。
私の心の奥の奥にある正体の掴めないモヤのようなものが、「あそこへ行け」と囁き続けるのだ。
『主さんの山』は、音が消える。
足を踏み入れた途端、耳を塞がれたように周囲の雑音が完全に消失する。
風が木の葉を揺らす音も、靴が枯葉を踏みしめる音も、すべて消え失せる。当然、鳥や虫の声も聞こえない。すべてが『無』である。
一度、私は山の中で全力で「やっほおおおお!!!」と大声で叫んでみたことがある。が、その声が聞こえることはなかった。ビリビリと空気が震える感触はするのだが、私の声は古井戸に吸い込まれてしまったかのように、何処かへと消えてしまうのだ。しかし、その代わり━━
━━━やっほおおおおおおおおっっ!!!
私のようで私でない、人間のようで人間でない何者かの声が、やまびこのように返ってきたのだ。
その声を聞いた私は、何故だかひどく恐ろしくなり、その日はすぐに踵を返して村に戻った。
それ以降、私は『主さんの山』で声を出すことをやめた。
あのやまびこの正体は『何』だったのか、それは未だに分からない。
『主さんの山』には、それ以外にも不思議なことが山ほどあった。
あの山━━まだ最初の頃、私はあの山のことを『御山』と呼んでいた━━には、変わった生き物が沢山住んでいた。
左腕が奇形のさつまいものように膨らんだ大きな熊、ガリガリに痩せ細った毛のない猿、羽根のないクマバチにムカデの足を出鱈目に貼り付けたような何だかよく分からない生き物等々・・おかしな生き物が沢山いた。そのすべてが━━
緑ヶ丘市で繁殖していた、あの二足歩行する犬のようなバケモノと同じ見た目をしていた。
全身が影絵のように黒く、鼻から上の部分は消失し、そこから先は蝋燭の炎のようなものがチリチリと揺らいでいた。
ただ、緑ヶ丘市のバケモノとは違い、『御山』に住む生き物はとても大人しく、滅多なことでは私に襲いかかってくることはなかった。
だが時折、私の存在が珍しいのか、鼻先で異物をつつくような感覚で、私にちょっかいをかけてくる生き物がいた。
そういう時は、私は逃げるようなことはせず、真正面から相手の挑戦を受けて立った。それでなければ薩摩ではないと思ったからだ。
勝負はお互い、暗黙の了解で「殺しはなし」とした。
そのため必然、勝負というか腕比べは、相撲のような形式を取らざるを得なかった。お互い膂力が強すぎるので、ステゴロや木刀のしばき合いだと、どちらかが必ず死んでしまうからである。私はそれでもよかったのだが、相手の方は何となく死にたくなさそうだなぁという気がしたので、そのような形にした。
対戦相手となったのは、もっぱら左腕が膨らんだ『熊』たちで、私たちはお互いがっぷり四つに組み合い、投げたり投げられたりだのを繰り返していた。
最初の頃は、一人がふらりと現れて勝負を挑んでくるという形式だったが、そのうち挑戦者の列が二人三人と増え、いつしか周囲には、ギャラリーのようなものまで出来上がってしまった。痩せた猿たちに至っては、屋台のようなものを出して商売まで始めた。彼らは串に刺したヤモリだか芋虫だかを炭焼きにしたものを売り出していて、見た目のグロさとは裏腹に、それらはとても美味しかったのを憶えている。
『御山』に住む生き物たちは、ボタン電池のような見た目をした、銀色の小さな石を通貨にしていた。
『熊』に相撲で勝つ度、私はそれを一握りほど手に入れた。その報酬は、ほとんど串焼きを買うのに使った。
しかしある時、ふと、この小さなボタン電池、りっちゃんにあげたら喜ぶかもと思った。
私は串焼きを一本買うのを我慢して、ボタン電池もどきを持ったまま山を降り、そのままりっちゃんの家まで走っていた。そして、家の前で、
「りっちゃん!! ええもんやっど!!」
と言って、2階にあるりっちゃんの部屋めがけて、ボタン電池もどきをオーバースローで投げ込んだ。ぽすん、というサイレンサーが着弾したような音と共に、硬貨大の穴が窓ガラスに穿たれた。
あぎゃっ、という変な声がした。
そして一拍遅れて、何かが倒れるどすんという音がした。
私は「何じゃ?」と思ったが、町内放送のスピーカーから、「6時になりました。良い子の皆さんはお家に帰りましょう」というアナウンスが蛍の光と一緒に流れてきたので帰ることにした。
その途中、けたたましくサイレンを鳴らしながら爆走する救急車とすれ違った。
「誰ぞ餅でも詰まらせたんかのう。無事だとええんじゃが・・」
私は、救急車で運ばれていく見知らぬ誰かのことを思い、その無事を心から祈った。
翌日。りっちゃんは学校を欠席した。
りっちゃんは生まれつき身体がとても弱い。またぞろ怪我か病気でもしたのだろうかと心配になった私は、学校終わりにりっちゃんの家に寄ってみることにした。
しかし、りっちゃんの家は、「keep out」と書かれた黄色のテープでぐるんぐるんにされていて、中に入れなくなっていた。
「なんじゃ? リフォームでも始めたんか?」
昨日来た時は何でもなかったのにと首を傾げていると、宇宙飛行士みたいな装備をした男の人が私の元に近付いてきて、「ここは危険だから離れなさい」と、唐突なことを言った。男の人が持っているレンガブロックみたいな機械が、ガリガリガリガリとすごい音を音を立てていた。
「この家にはワシの友達が住んどるんじゃが、いったい何があったんじゃ?」
私はそう訊ねたのだが、男の人はガリガリガリガリいってる機械をじっと見つめているだけで、何も答えてくれなかった。手がマッサージチェアに座ってる人みたいに震えていた。ワシが子どもだからと思って舐めちょるなと、私はとても不機嫌になったが、りっちゃん家のリフォーム工事の邪魔をしては迷惑になると思い、何も言わずにそのまま帰った。私は昔から、そういう心遣いがちゃんと出来る子だった。
りっちゃんは、それから二週間くらい学校を休んだ。
「おっ!! りっちゃん、ようやっと元気になったかっ!!!」
およそ二週間ぶりに登校してきたりっちゃんは、何故か額に包帯を巻いていた。
りっちゃんは何とも形容しがたい微妙な表情で私の顔を見て、「う、うん・・」と頷いた。
それを見て、少しだけ「あれ?」と思ったが、特に気にすることなく、私はりっちゃんに訊ねた。
「随分長いこと学校を休んじょったけど、いったいどうしたんじゃ?」
「・・・えっ、えっとね、その、あのね・・」
りっちゃんは、何かを考え込むように大きく首を傾げた後、
「私の頭に、隕石が落ちてきたの」
と言った。
私はポカンとしてりっちゃんの顔を見つめた後、はっはっはっと大笑する。
「バカ言うちゃいかんぞ、りっちゃん。隕石っちゅーたらな、秒速20kmっちゅうとんでもない速度で地表に突っ込んでくるもんなんじゃぞ? そんなもんがぶち当たったら、りっちゃんなんぞ挽き肉じゃ、挽き肉! ワシでもたんこぶが出来てしまうわい!!」
「し、静佳ちゃんでも、きっと挽き肉になっちゃうんじゃないかなぁ・・。で、でもね、政府の人が言うには、これは隕石の衝突以外考えられないんだって・・」
「何? そうなんか? とても信じられんが、政府の人がそう言うなら本当のことなんじゃろうのう・・。りっちゃん! 隕石がぶち当たっても生きとるとは、おまんはとんでもないラッキーガールじゃなぁ!!」
「う、うん・・。政府の人もそう言ってたよ・・。宝くじの一等前後賞合わせたやつが当たるよりもすごい確率だって・・」
「ということは、無から生命が生まれる確率よりも低いということじゃな!! 何たる豪運じゃ!! しかし、せっかくの豪運なら、隕石が当たるんじゃなくて、宝くじの一等前後賞合わせたやつの方が当たって欲しかったものじゃのう!!」
「う、うん、それは、私もそう思うよ。政府の人も、そう言ってた。・・・あ、あとね、私の頭に落ちてきた隕石なんだけど、銀色のボタン電池みたいな形で、デーモンコアも真っ青な放射線を撒き散らしてて・・」
「はっはっはっ!! エイプリルフールはとうの昔に終わったぞ、りっちゃん!! デーモンコアの被曝量はなぁ、推定21シーベルトというとんでもない数値なんじゃぞ? そんなもんを浴びちもうたら、りっちゃんの身体は今頃、コンクリートをチョココロネみたいにギッシギシに詰め込んだ細くて長い地下墓地の中じゃわいっ!!」
「う、うん、そうだよね・・。政府の人も似たようなこと言ってた。で、でもね、その隕石、ガイガーカウンターがカラータイマーよりも早く力尽きるくらいの凄い放射線が出てるのに、何でか人体にほとんど影響がないらしくて・・。私、お医者さんと政府の人にいっぱい色々な検査をされたんだけど、特に異常ありませんって言われたの・・」
「なんじゃそりゃ? んなことありえんじゃろがい。もしそれが本当なら、放射線の定義そのものが書き換えられるど。その隕石、何ぞおかしくないか?」
「う、うん・・。政府の人も、おかしいって言ってた。だ、だからね、あらゆるアプローチを行なって、その隕石を検査してみたらしいんだけど、どんな機械にかけても『測定不能』って結果しか出なかったんだって・・」
「ということはつまりアレか? もしや地球外の物質というやつか!!」
「う、うん・・。そうとしか考えられないって、政府の人も言ってた・・」
「はえー、そいはすごか話じゃな!! ええ体験をしたのう、りっちゃん!! ワシも是非、その地球外の物質で出来た隕石とやらをこの目で拝んでみたくなったわい!!」
「そ、それはちょっと無理かな・・。今その隕石ね、白人の人に取られて海を渡っちゃったから・・」
「何? そうなんか? 日本国内なら、例え軍事基地だろうと忍び込めるんじゃが、流石に外国となると、ワシはパスポートを持ってないから忍び込むのは不可能じゃな!! 口惜しいが、諦めるしかなかっ!! おのれっ、白人の人めっ!!」
「パ、パスポートって、そんな重要かな・・。あっ、そ、それとね、私、静佳ちゃんにずっと聞きたいことがあったんだけど・・」
「お? なんじゃ?」
「わ、私の頭に隕石が落ちてきた時ね、窓の外から静佳ちゃんの声が聞こえた気がしたんだけど・・も、もしかして静佳ちゃん、何か知ってる?」
「あ? 知らんど。何を言うちょるんじゃ、りっちゃん。いくらワシでも、地球外の物質で出来た隕石をおまんの頭に落とすなんて芸当は出来んど?」
「そ、そうだよね・・。ご、ごめんね、変なこと聞いちゃって・・」
その時、ちょうど朝のホームルームの開始を告げる予鈴が鳴り、私たちのお喋りはそこでお開きになった。
その日。
りっちゃんは一日中、何かを疑うような眼差しで、私の方をチラチラと見てきた。
私は少しだけムッとしたが、りっちゃんも政府の人の聞き取りやら検査やらでストレスが溜まってしまって、誰かに八つ当たりしたくてたまらなくなっているのだろうと思い、我慢することにした。私は、そういう気遣いが出来る子だった。
けれど後年、この時りっちゃんをちゃんと諌めておくべきだったなぁと、少しだけ後悔することとなる。
りっちゃんは元々すごくおとなしい子だったのだが、小学校高学年から中学高校と成長するにつれ、段々と口が悪くなっていった。
私などは恰好の標的で、「死ね、クソダボが」「今日という今日はお前を殺して私も死ぬ」「お前、私にいったい何食わせた!! お前が無理矢理口に突っ込んできた銀色の干し肉、アレ食ってから私の身体が毎週土曜の夜になるとミラーボールみてぇに七色にペカペカ光出すようになったんだが!?」といった具合に、定期的に訳の分からない暴言を吐かれた。りっちゃんは基本的に心の優しい女の子なのだけれど、メンヘラで他責思考で被害妄想がちょっとだけ強めなところがあった。何かおかしなことが起こる度、すぐにお前のせいだといって私に責任をなすりつけてくる。私に身に覚えはない。正直、ちょっとしんどいなぁと何回も思ったけれど、私は「はいはい」と適当にあしらうに留めた。私は気遣いの出来る子だし、何より━━
りっちゃんことが、大好きだったからだ。




