呼び名
二つの机を囲んでお弁当を食べながら、3人のゆいによる呼び名決め会議が始まった。
私がまず先陣を切る。
「ちなみに伊藤さんはなんて呼ばれることが多かったの?」
「うーん…上も下もどっちあるかな、人によって違うかも」
「やっぱり、下の名前で呼ぶのは紛らわしくなるね」
うーんと悩んでいると
「でも、実は私だけ結井って呼べるんだよね〜」
唯ちゃんが自慢げに言ってきた。
「ほら、ゆいゆいって呼んでるからさ、もう1人をゆいにすれば私は呼び分けられるじゃん」
「唯ちゃんはそれでいいけどさー」
何の解決策にもなっていない気がしたが、こういう風に話しているうちにも「ゆいちゃん」呼びがなんだか紛らわしく感じた。
「でもそう言うことなら私も倉田さんを唯ちゃんって呼べば、いけるね」
「本当だ、結井ちゃんもいけるじゃん」
あー、なんだか頭がごちゃごちゃしてきた。2人はそれでいいかもしれないが、結局私を含めた他の人たちが「ゆいちゃん」と呼ぶと、どっちを呼んでいるのか分からなくなってしまう。
いいアイデアも思いつかないので、止めていた箸を動かす。今日のお弁当は唐揚げにほうれん草、卵焼き、グラタン、余ったスペースに白ご飯という感じだ。卵焼き以外はいつも冷凍食品かスーパーの惣菜だが、バランスのいいお弁当だった。
冷えた唐揚げを箸で口に放り込む。衣が冷凍食品のそれという感じでしっとりしていたが、味はふつうにおいしかった。食べている間にいろいろ候補を考えてみる。ゆいぴ、ゆったん、ゆいこ、ゆいぽん…なんだかぱっとしないものばかりだ。
本人はどういう風に呼ばれたいのだろう?
「伊藤さんはどういう風に呼ばれたいとかある?」
「うーん、私って分かるようなら、好きに呼んでいいよ」
好きにか…余計に分からなくなったなと悩んでいると、「あっ」と唯ちゃんが声を出した。
「私、思いついちゃった…結井ちゃんにぴったりのあだ名!」
唯ちゃんが嬉しそうにやばいを連発する。
「ほらほら、ゆいゆいも分かんない?この、ほら、雰囲気というかさ、なんというか」
雰囲気?ぴったり?私のセンスじゃ思いつきそうにない。
「えー、分かんない。教えて」
「結井ちゃんってめっちゃかわいいじゃん。だから、かわゆい!どう?ぴったりじゃない?」
「かわゆい、いい…いいね、すごい」
「すごいでしょ〜」
そのとき、私は本音の声を出していた。かわゆい、とてもいいあだ名だと思った。見た目も語感の響きも伊藤さんにばっちりだった。
伊藤さんは少し遠慮していたが、私たち2人の賛成多数により伊藤さんの「かわゆい」呼びが決定することになった。そして、その頃には昼休みも半分が過ぎようとしていた。




