ただの同級生
「あ、清原さん」
「クラスに転校生来たらしいじゃん」
「うん」
廊下で話しかけられたとき、すぐにその声で藤井優だと分かった。みんなからはふじーと呼ばれている。中学の2、3年のときにクラスが同じで、大体をそつなくこなす万能系男子だったという印象がある。顔立ちは普通だが、ユーモアがあるおかげか女子にモテる感じではなかった。
「男子?女子?」
「女子だった」
「へー、どんな感じ?」
どんな感じか…どんな感じか会ってまだ間もなかったのでとにかく、見たままの印象を言うことにした。
「うーん、なんかね、ザ・カワイイって感じかな」
「おー、めっちゃ見てみたいかも」
「なんでもさ福岡出身らしくて、博多美人ってこういうことを言うみたい」
「どの人か教えてよ、教室まで行くからさ」
「あ、うん、いいけど」
ついつい会話が弾んでしまった。男子とこうやってきちんと話すのはいつぶりだろうか。こういう存在は変に意識しなくていいから、話すときは気がとても楽だ。
「最近どんな感じ?」
「まぁ、ぼちぼちかな」
そうこうしているうちに、教室に着いた。教室を出た時よりは若干ギャラリーが増えていたが、そこまで気にするほどでもなかった。
「どの人、どの人?」
「ほら、窓側のあの人」
私は指を指して教えてあげた。どうやら2人はもう昼ご飯を食べ始めているようだ。
「へー、確かにかわいいかも」
めっちゃ見てみたいと言っていた割には意外と反応が薄かったが、男子ってこんなものなのだろうか。思えば、クラスの男子も休み時間にあまり話しかけには来てなかった。興味があると思いきやなかったり、逆にどうでもいいことで盛り上がったりするときがある。男子のこう言うところがどうにも不思議だ。
「名前なんて言うの?」
「伊藤結井さん」
「ゆい?清原さんと同じじゃん、どんな字で書くの?」
「結ぶに井戸の井」
「へー、なんか大変そうだね」
何が大変なんだと思う。
「何が?」
「ほら、女子ってさ、だいたい下の名前で呼ぶこと多くない?」
言われて、あ、確かにと思った。私は伊藤さんって呼んでいたつもりだったけど、唯ちゃんのことを呼ぶとき、なんて呼べばいいんだろう。ゆいちゃんって言うと伊藤さんのことも呼ぶことになってしまう。
「まぁ、そこらへんは何とかなるよ」
「ふーん、そっか、頑張れ」
とりあえず何とかなるとは言ったものの、具体的にどうするかは分かっていなかった。
「じゃあ、また。昼ご飯食べてくるわ」
「うん、私も。じゃあ、またね」
藤井くんは自分の教室に帰っていった。私も教室に入って自分の席に向かう。どうやら2人は何かを話しているようだ。
「ふー、お腹すいた」
「遅かったじゃんゆいゆい、何してたの?」
私はイスに座りながら、本当のことを言うのも少し面倒だったので
「まぁ、いろいろね」
と言っておいた。
弁当を机の上に置く。風呂敷を広げていると、唯ちゃんが興奮ぎみに言った。
「私たちの呼び名はっきりさせようよ、同じゆいの名にかけて!」
さっき2人が話してたのはこのことだったのかなと思いつつ
「いいよ」
と少し笑みをこぼして答えた。
藤井くんの言った通り、大変な昼休みになる予感がした。




