居心地
3月から書き始めて遂に10話まで行きました!
今回は気持ち長めになってます。。。
昼休みも半ばが過ぎた頃、話題は伊藤さんが教室に入ってきたときのことに移っていた。
「私実はものすごい緊張してて。教室に入った瞬間、私のことめっちゃ見てくるやん!って思ってた」
あれは緊張だったのか。私からすると、周りの視線を意に介さず、堂々としている感じに見えた。それが余計に雰囲気を醸し出して、いわゆる結井ちゃんフィーバーを巻き起こしたのかもしれない。
でも、私も同じようにクラスメイトのあの好奇心に満ち満ちた視線を感じていたのでどこか同感できた。
「まぁ、みんな見ちゃうよね〜、だってかわゆいちゃんだったんだもん」
唯ちゃんがうんうんと頷きながら返す。そして、ポケットからスマホを取り出すと、
「あ、そういえば、結井ちゃん。LINEやってる?交換しようよ」
「あ、うん」
伊藤さんがバッグからスマホを探しているようだ。うちの高校はスマホは授業中さえ使わなければ、休み時間中は使ってもいいという校則だった。スマホを持ってきているのは校内ではもはや当たり前という感じだ。
「おっけー、来た来た。クラスのグルにも招待しとくね〜」
「あー、唯ちゃんありがとう」
2人につられて私もスマホを取り出して画面を開くと唯ちゃんから通知が来ている。
「伊藤 結井」
伊藤さんのLINEだった。さすが唯ちゃん、仕事が速い。すぐさま追加して、トーク画面に
「よろしくねー」
と送ると、すぐに既読がついて
「よろしくね」
「ゆいゆい!」
と返信が来た。
自然と笑みがこぼれる。新しく入ってきた子とこうして話すのが、自分自身嬉しかったのかもしれない。いつもとは違う感情が表情に出てきて、なんだか心地よかった。
時計を見ると昼休みもあと20分もないぐらいだった。お弁当はまだ半分近く残っている。話に夢中であまり箸が進んでいなかったからだ。2人のお弁当を見ると、もう食べ終わりそうだった。いつの間にそんなに食べてたんだ?
味わう暇もなく箸を伸ばしていく。せっかく作ってもらったのにこんな風に食べてたら何だか申し訳ないなと思いつつ、ほとんどが冷凍食品かお惣菜だったので、まぁいいかと食べ進めた。
私が食べているよそで2人は学校の話をしている。定期試験や部活のこと、行事で言えば次にあるのは文化祭だ。
そういえば2年の文化祭って何をやるんだっけ?そんなことを考えている内にお弁当箱の底が大分見えるようになってきた。そして、ふぅーと、一旦息をつこうとしたときだった。
「ね〜ゆい、私たちもいっしょに話していい?」
私はつこうとした息をそっと吸い込んだ。気づくとクラスの女子の多くが私たちの周りにいた。
「いいよー、2人もいいよね?」
唯ちゃんから聞かれてうんと頷くことしかできなかったが、これはもうしょうがないことだ。唯ちゃんはみんなと仲がいいし、伊藤さんもできるだけ話せる友達が欲しいだろう。
ただ、なんだか落ち着かなかった。別にクラスの子が嫌いなわけではないが、女子が集まって話すあの独特の雰囲気が私はどうにも苦手だった。
私はこのどうにもならない感情をお弁当箱の蓋といっしょに中にしまった。まだ中身は残っているが、みんなの前で1人食べるのは少し気が引けた。
「私思い付いたんだけどさ、かわゆいって言うの、良くない⁉︎」
「え、いいじゃん!」
「いいね〜」
「うん!」
「いい、いい!」
「…」
やっぱりこの雰囲気には私はついていけないなと感じた。みんなは悪くない。ただ、私が合わせきれないというだけだ。
「ちょっとごめん、トイレに」
私は席を立った。もちろんトイレに行きたいわけではなかったが、もうすぐ昼休みも終わりそうだし、なにより一旦この場から離れたかった。
会話の渦から抜けて、廊下を見ると教室前にはたくさんのギャラリーが集まっていた。話をしていたのと、大きな雨音で気が付かなかったが、午前の休憩中よりはるかに多かった。みんな、昼ごはんを済ませて転入生を一目見ようとここに来たのだろう。
まさに両バサミ状態だった。それでも私は教室のドアの前にいる人をかき分けて、トイレへ向かった。トイレに入ったところで、私は入口の近くにある鏡の前に立った。乱れた前髪を直して、自分の顔を見ると、どこか歪んだ顔をしていた。




