三人目
「ガラガラガラ」
そのドアを開ける音は確かにあった教室のざわめきを消したような気がした。静かになった教室に、新しいクラスメイトがゆっくりと歩を進め、ひとりひとりの目に映ってゆく。一瞬、目が合った気がしたが気のせいだろうか。
誰も声を発さない。というよりかは、誰も声を出す暇がないの方が正しいのだろうか。転校生はまるでランウェイを歩いているかのように、みんなの視線をよそに教室の前方に立った。
私は彼女が入ってきて、目に映った時から、ある言葉が喉の奥で反射していた。
「かわいい」
そう、転校生はめっかわだった。
転校生が入ってきたのを確認して、先生がチョークを取って彼女の名前を書き始める。
「カッ、カッ、カッ、シュッ、カッ…」
チョークの乾いた音が教室に響く。
どんな名前なんだろうか?みんなの視線が彼女から黒板へと移る。いつもは授業を聞いているのか聞いていないのか良く分からない人もこの時ばかりは黒板をまじまじと見る。
上の名前が書き終わる。
「伊藤」
どうやら上の名前は伊藤のようだ。
伊藤…伊藤…なんだろう、下の名前がなにか気になっていると、先生が三文字目を書き終える。
「結」
そして、そのまま最後の文字も女性らしい綺麗な線で書き切った。
「井」
「伊藤結井」
それが彼女の名前だった。
「それでは、伊藤さん自己紹介お願いします」
「はい」
「福岡県から来ました、伊藤結井です。親の転勤で東京に越してきました。よろしくお願いします」
彼女は深々とお辞儀をすると、荷物を取りに行くよう促されて廊下に出た。その間、数名の男子によってちょうど空いていた私の前のスペースに机と椅子が運び込まれた。
そして、彼女が座るやいなや出席確認が始まった。
「阿部幸希」
「はい」
「井川真央」
「はい」
時間が押しているので、先生の名前を読み上げるテンポもいつもより早い。
「井手さくら」
「はーい」
「上野成美」
「はい」
あ、名前順なら「伊藤」だけど、転校生の出席番号って一番最後だっけと小学生の頃を思い出す。
「河原悠斗」
「はい」
「清原ユイ」
「はい」
私がいつものようにやる気のない声で返事をすると、彼女が振り返って私の方を見た。何かを探るような目で。少し気まずいので、軽く会釈をする。
「倉田唯」
「はーい」
次は唯ちゃんの方に視線を変える。どうやら横顔も可愛いらしい。しかし、次の人の名前が呼ばれると、彼女は私をちらっと見た後、前を向き直した。そのまま、出席確認が進んで行き、
「伊藤結井」
「はい」
彼女の名前が呼ばれて出席確認が終わった。
その後、先生が足早に事務連絡を伝える。いつもは、そんなの聞かずに窓の方を見ている私だったが、今回ばかりは長い髪を結んだ彼女の後ろ姿をずっと見つめていた。




