再会
私は自分の部屋の中に入ると、体をベッドの上になげうって、仰向けになった。手を伸ばしてスマホを見ながら、私は返信を打つ。
「やっほー」
「電話いけるよ」
あれ、これでよし…なのか?
唯ちゃんからの連絡はまだ来ていなかったが、もし電話中に唯ちゃんから電話が来たらどうしようと思った。何か悩みがあるみたいだし、すぐに返信した方がいいに決まっている。私は少し考えた。
でも、そんな都合良く重なることもないか。万が一、電話が掛かってきても、少しの間待っててって言っても、唯ちゃんのことだし機嫌を損ねることもないだろう。そう思って、SNSをチェックしながら、伊藤さんの返信を待った。
SNS上では、この地域での豪雨に関する情報がかなりの割合を占めていた。
「雷落ちた」「豪雨注意報」などの文言が画面の上を駆けていく。しかし、家にいるせいかそれに対してあまり危機感というのは覚えなかった。家は周りよりも高いところにあるので、浸水を気にする必要もないし、私にとって雷も、そこまで怖いというほどの存在ではなかった。とにかく、学校にいるときとは全く違う情報に見えて、どこか他人事だった。
それでも、雨が打ち付ける音というのはいまだに大きく、いつ止むのか見当も付かなかった。唯ちゃんもう家に着いたかな?唯ちゃんと別れてから1時間半ぐらい経ってはいたが、この雨の中なので歩いて帰るのは相当時間がかかりそうだ。
「雨やばい」
私もネットの流れに便乗して、そう自分のアカウントでつぶやいた。
それから少しの間、スマホの画面をスクロールしていると、手に持っていたスマホが鳴った。伊藤さんからの着信だった。どんな話なんだろう?私は一呼吸置いてから、3コール目で電話に出た。
「あ、もしもし?ゆいゆい聞こえる?」
「うん、聞こえるよー」
「ごめん、突然。どうしても話したいことがあって。あ、いま大丈夫?」
「うん、大丈夫だけど」
「あのさ…清原さんのお母さんって事故で亡くなったんだよね」
私は少しの間固まってしまった。どうして、学校に来てまだ1日目のはずなのにそんなことを知ってるんだろう。誰かが言ったのだろうか。私は、学校の友達、いや同級生からもそんなことは面と向かって言われたことが無かった。それにしても、何でそんなことを私に言ってくるんだろう。実際のところ、私はショックを受けた。
「うん…そうだよ。クラスの誰かから聞いたの?」
「いや、誰にも聞いてないんやけど、ごめんね、お母さんの話をして」
「いや…うん?」
「誰にも聞いてない?どういうこと?」
私は思ったことをそのまま口に出した。何が何だか状況が上手く飲み込めなかった。
「どこから話せばいいんやろう…」
スマホの向こうで何か考えているようだった。少しの間が空いた。
「実は私、前からゆいゆいのことを知ってるんだよね、ゆいゆいは覚えてないと思うんやけど」
「え、そうなの?」
私は必死に記憶の中を駆け回った。正直、初対面の時に覚えていなかったのだから思い出せる確率はかなり低かったが、自分の小さいときから今に至るまで、「伊藤結井」という名前とスマホの向こうにいるだろう顔を懸命に思い出そうとした。しかし、いくら探してもたどり着けそうになかった。
「ごめん、覚えてない…かも」
「いや、しょうがないよ。私、3ヶ月だけ同じ保育園にいたんやけど覚えてないよね。小さいときは、きょうちゃんって呼ばれてたよね?」
「うん、あーそうなんだ」
確かに私は小さいとき、きょうちゃん呼びで通っていた。きよちゃんよりもきょうちゃんの方が小さい子供には言いやすかったのだろう。とにかく、伊藤さんの言っていることは本当らしかった。私の呼び名を知っていたのだから。
「でも、何でその…お母さんが死んだって知ってたの?」
「同じ保育園つながりで、私のお母さんの耳に入ったみたい。東京に連絡をまだ取ってたママ友がいたらしくて。それで、私が知ったって感じかな。私もゆいゆいのことははっきり覚えてなかったけど、きよちゃんっていう子いたなーって思って。何か知ってるのに黙ってるのも良くないかなって連絡したんやけど。ごめんね急に。」
「そういうことだったんだ」
私はやっと、ことのいきさつを理解することができた。でも、まさか今日初めてあったはずの転校生と小さい頃に同じ空間にいたなんて何だかすごい偶然だなと思った。
「世界って意外と狭いんだね」
「そうかもね、私もまさか転校先の高校で会うなんて思わんかったよ。あ、でもこれからも普通に接してね。ゆいゆい」
「うん、仲良くしようね」
「そういえば、雨めっちゃ強くない?外、ゴーゴーいってるし」
「強いよね。私、歩いて帰ったらめっちゃびしょ濡れになった」
「えー大丈夫?私は電車が止まるかもって…」
こうして、話している間に時間があっという間に過ぎていった。友達との電話はやはり長くなりがちだ。次から次へと話題が降ってくる。こんな風にクラスメイトと教室で話せたらいいのになと思いつつ、スマホから時折聞こえてくる博多弁に耳を傾けるのが何だか新鮮で楽しかった。




