ただいま
「はぁ、疲れた、、、」
この雨の中、ずぶ濡れになって帰ってきた私はそうつぶやいた。いつもとは何か違うような疲労感がどっとあふれてきた感じで、雨に濡れて重くなった制服もそれを一層感じさせた。
疲れを感じながら、ひとまず私はぐちょぐちょになった靴下を脱いだ。靴下を脱ぐと、やっと気持ち悪さから解放されて心地よかったが、そのまま濡れた靴下を手に持っているのも嫌だったので、洗面所にある洗濯機に勢いよく投げ込んだ。そして、濡れた制服をこのままにしておくのは気が引けたので、私は二階の自分の部屋に上がって、ブレザーとスカートをハンガーにかけておいた。
リュックを下ろし、部屋のベッドに腰掛けて一息つく。しばらくスマホを見ていると、なんだか肌寒くて腕をさすった。雨に濡れて体がすこし冷えてしまったのかもしれない。
「はっくしょん!」
くしゃみまで出てきてしまった。このままだと、風邪を引いてしまいそうだ。すぐそこにあった毛布をたぐり寄せて温まろうと思ったが、この濡れたままの状態で包まるのはさすがに良くないかと思い直した。ケースに入ってあるタオルを取り出して、腕や足、髪を拭いてから、私はベッドに身を投げ出すように飛び込んで毛布に包まった。
ぶるぶると少し体を震わせながら私は体が温まるのを待つ。
「寒い…」
だが、しばらく待っても全然体が温まる感じがしなかった。
やっぱり服を着替えた方がいいのかな…。毛布から出るのは億劫だったが、仕方がないのでパジャマを着ようともう一度一階に降りることにした。
毛布から飛び出して二階から一階へと階段を降りていると、まだ乾ききっていない足の裏がぺたぺたと廊下に響く。少し面白い感触で、私は洗面所までその足の裏の感触を味わいながら歩いた。
また洗面所に戻ってくると、私がふたを開けっぱなしにしていた洗濯機が目に飛び込んできた。これはみっともないな、、、私はふたをぱたりと閉めた。
右手にある衣装ケースからパジャマを取り出して、洗濯機の上に置いてから、私はブラウスのボタンに手をかけていった。脱ぎ終わると、さっき閉めたばかりのふたを開けて洗濯機の中に放り込んだ。そして、いつもの習慣からか、私は身につけていた肌着を脱ごうとしていた。
「何やってるんだろ、私」
誰かに見られているわけでもないのに恥ずかしくなって、すぐにそれを着直した。洗濯機の上に置いておいたパジャマに袖を通すと、少しずつ体が温まってくるのが分かる。下の方も履いて、これで風邪を引くことはなさそうだ。洗面所を出るとき、もう一度ふたを閉めると、遠く乾いた音が洗濯機の中から響いた。
その足でリビングに私は立ち寄り、ソファーにくつろいだ。すべての力を抜いて身をゆだねると、体がそれにどんどん吸い込まれていくようだった。それから私は目を閉じて、大きく息を吐いた。仰向けになりながら今日のことを思い出す。伊藤結井ちゃん、かわいかったなー。私の頭の中には、彼女のきれいな顔立ちが浮かんでいて、あの朝の雰囲気と教室に入ってきてからのみんなの興奮を繰り返し再生した。
「あんな子ほんとにいるんだなー」
彼女の姿を回想しながら、そのまま私はしばらくソファーでくつろいでいた。
私がそれから目を覚ましたのは、大きな雷鳴が耳の中に飛び込んできてからだった。まだ開ききっていない目で時計を見ると、どうやらあれから40分ぐらいは経っているようだった。仰向けで寝ていたので、首が少し痛い。そろそろ部屋に戻ろうかな。私は一息ついた後、立ち上がってリビングを後にすることにした。
「あ、、」
部屋を出ようしたとき、私は忘れていたことがあったのに気がついた。
「お母さん、、ただいま」
もちろん私だけがいるリビングに反応はない。私の声は自分でも言ったかどうか分からないぐらい小さかった。それでも、母はいつも同じ顔で微笑んでいた。
そう、私の母は2週間前に死んだ。交通事故だった。




