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ゆい言  作者: Suica
12/18

雷鳴

「ちょっと、静かに自習しててください」


事態を察したのか、先生はそう言って職員室に向かった。しかし、私たちが静かに自習するはずもなく、先生が教室を出るとすぐにみんな自分のスマホを確認し始めた。


「え、やばいじゃん。俺傘持ってきてないんだけど」

「電車は止まってないらしいよ」

「私家に帰れるかな~?」

「なんか楽しくなってきたわ」

「さすがに学校休みになるよね?」


警報アラームが教室中に鳴ったので、いい目覚まし時計になったのだろうか。さっきまでうとうとしていた人も目を覚ましているようだ。私はいつ先生が帰ってくるかも分からないので、スマホをポケットに戻した。


それにしても、酷い雨だなと思う。風はそんなに強く吹いてはいないものの、雨の打ちつける音が窓越しでもはっきりと聞こえる。今日は一日中雨の予報ではあったが、まさかここまでとは思ってもみなかった。学校まで自転車で来てしまったけど、家までどうやって帰ろうか?


「ゆい…ゆいゆいちゃんは、学校までどうやって来てるの?」


伊藤さんが私の方を向いて聞いてきた。


「自転車だよ、家から割と近いから」


「なのに、いっつもギリギリに来てるよね?ゆいゆい」


隣の席の成瀬晴菜(なるせはるな)がツッコミを入れてきた。好きなドラマについて、時々しゃべるぐらいの間柄である。唯ちゃんとも仲がいい感じだった。


「うーん、近いからこそゆっくりしちゃうんだよね~」


「ところでさ、かわゆいちゃんは今日どうやって来たの?」


晴菜ちゃんが尋ねる。


「電車に乗ってそこから歩いて来たかな。それにしても、東京ってめっちゃ電車来るんやね、電車の中は人が多かったけど」


「電車なんだ、でも満員電車もすぐに慣れると思うよ。それより電車の中では気をつけた方がいいよ、特にかわゆいちゃんは」


私も確かにと思ってうなずく。


「そっか、電車止まらないといいけどね」


そうは言ったものの、心の中ではどこか他人事でもあった。どうやって帰ろうかまだ決められなかったからだ。どしゃ降りの中を自転車で突っ切るのか、それともバッグに入った折りたたみ傘でなんとか凌ぐのか、どちらにしろすごく濡れることに間違いは無さそうだった。


とそこへ、雨の音に混じって廊下から足音が聞こえてきた。出していたスマホをみんなどこかしらの場所にしまう。そして、先生が教室に戻ってきた。


「はい、この授業が終わったらホームルームをするみたいなので、しっかりと担任の先生の指示を聞いてください。あと10分くらい授業の続きをします」


そのまま授業は進んでいき、気候区分でいうところの亜熱帯気候にさしかかったあたりでチャイムが鳴って4限の授業が終わった。そして、5分も経たないうちに担任がやって来てホームルームが始まった。


「えーっと、都の教育委員会からの通知で、豪雨によって交通機関が止まる恐れがあるため、今から生徒は全員帰宅ということになりました。なので、このホームルームが終わったら携帯を持っている人は親に今から帰る旨を伝えてください。もし、携帯を持っていない人がいたら職員室に来てください」


やっぱりそうなったかという感じだ。この雨で今帰らなかったら、6限が終わる頃には家に帰れなくなる人が出てきてもおかしくはなさそうだった。このとき、早く家に帰れる嬉しさよりも、この雨の中を濡れながら帰らなくてはならない憂鬱の方がよっぽど私にとっては大きかった。


「はぁー」


ため息をついている間にも、ホームルームは終わり家に帰ることになった。終わるやいなやみんな遠慮はいらないとばかりにスマホを取り出して、親に連絡をし始めた。私もLINEを開いて、お父さんにメッセージを送る。


「雨が酷くて、今日は家に帰ることになったよ」

「今から帰る」


お父さんは既読が付くのがいつも遅いのであまり期待はしていなかったが、一応こう送っておいた。そして、帰る準備をするために机の中の荷物をリュックにしまう。明日もし休みなら全部置いて帰ってもいいかなとは思ったが、宿題など一応必要なものは持って帰ることにした。


そして、リュックを背負って天気予報を見ようと少しスマホをいじっていると、一瞬、視界の中に光るものがあった気がした。ぱっと、窓の方を見るとそれは雷だった。数秒後に雨音を一瞬かき消して、雷鳴が響く。それほど近くはないようだったが、少しの緊張感が私のいる空間に走った気がした。

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