第一章 名を忘れた主人 第五話 最上級神
通された部屋にて……
導は、部屋にあるベッドに座ると、近くのテーブルに視線を移す。
そして、訝しむ様な目でシヒルを見つめていた。
シヒルはと言えば、少し疲れた様子でテーブルに立っていた。
シヒル
「主人様、どうかされましたか?」
シヒルが、導の視線に気づく。
神陽導
「いや〜なんで、このヘンテコ生物と同室なの!」
「ヴァッサーちゃんとが良かった」
シヒル
「それは、無理ですよ」
「だって、空いてる部屋ここしかなかったんですから…」
導は、不貞腐れた顔になる。
部屋を見れば、簡易的なベッドが1台と木製の丸いテーブルと椅子が一席
ベッドの横には、小さな冷蔵庫とクローゼットがある部屋だった。
廊下を繋がる扉の横には、脱衣所とお風呂、トイレに繋がるドアもあった。
全体的に少しログハウス的な感じのある部屋で、木の温もりの感じる部屋だった。
導が、ベッドに寝っ転がる。
目に映るのは、木の天井と蝋燭の型の電球が使われた簡易的なシャンデリア
導が、手をおでこに当て、シャンデリアの光を少し和らげる。
導のは、口では言わないが少し違和感を覚えていた。
昔にも、こんな部屋で同じポーズで、天井を見上げている。そんな既視感が頭に残り続ける。
すると、横から声が聞こえる。
シヒル
「ふふ、主人様は昔とあまりお代わりになっていない様ですね」
導が、身体を起こす。
シヒルが、ベッドの隅にやって来ていた。
神陽導
「どう言うこと?」
シヒル
「主人様は、ベッドや庭などに寝っ転がるといつもその様なポーズでボーっと考え事をするのが好きなんですよ」
「今は、あまり覚えていないのかもしれないですけど…」
神陽導
「あなたは、私のことを知ってるの?」
シヒル
「えぇ、よくご存知です」
「私は、貴方様のお母様からの最初の贈り物ですから」
神陽導
「!……最初の贈り物…」
導の脳裏に、灰色のノイズで所々が欠けている映像が流れた。
その映像は、低い視点から上を見上げる様な角度で、目の前には髪の長い女性が微笑み欠けている…ただそれだけだった。
女性の目元には、ノイズが強く掛かっており、よく分からなかったが、とっても優しい人な事だけは、なんとなくでわかった。
シヒル
「主人様?」
神陽導
「……!」
「な、なに?」
シヒル
「泣いているんですか?」
神陽導
「えっ?」
導が、目元を手で拭うと手には小さな水玉がついていた。
瞬時に、自分が泣いている事が分かった。
理由は、分からなかった。
でも、心の奥底では、理由がはっきりと分かった気がしたのだ。
「忘れてはいけないのもを忘れてしまっている」
そんな理由から“ 無意識に泣いていた ”、のだろう。
導は、再度、目元を拭う。そして、笑顔を見せるとシヒルに視線を向けた。
神陽導
「ねぇ、さっきあなたは、「お母様からの贈り物」って言ったよね?」
「ってことは、私が何者なのかとかも知ってるってことだよね?」
シヒル
「はい、もちろんです」
「ズバリ、主人様の正体は…“ 神界と魔界の架け橋 ”であり“ 世界の先導者 ”と言う役職の異名がついております」
神陽導
「へぇ〜なんかのお偉いさん?」
シヒル
「そうですね」
「その名は、“ 最上級神 ”です!」
シヒルが、頭を上に上げ「ドヤッ」とする。
導は、首を傾げて、まるで「初めて聞いた名前だなぁ〜」そんな表情をする。
神陽導
「誰?」
シヒルは、「ズコッ」と前のめりにずっこける。
シヒル
「そこまで忘れてしまったんですか?!」
そして、「ショボーン」とした顔になる。
相当ショックを受けた様だ。
神陽導
「う、うん…」
「だって、私はこの神界?って所は初めて来たし…「魔界」って言葉初めて聞いたよ」
シヒル
「そこまでとは…」
「では、貴方様の出身場所は?」
神陽導
「えっ?日本だけど…」
シヒル
「………」
シヒルは、黙り込んでしまう。
「主人様が、どれほどの「思い出」を忘れてしまったのだろう。」
そう考えてしまえば、悲しさが込み上げてくる。
シヒルの脳裏には、主人様との大切な「思い出」が浮かび上がる。
神界での釣り大会で、主人様が大きな魚を釣り上げた「思い出」
魔界を神界、魔界の民問わず、発展させていっている「思い出」
天使界で、当時の国王とこれからの“ 未来 ”を話し合う会合での「思い出」
そんな場面が、次々と浮かび上がって来ては、それを忘れている主人様を見てしまう。
だが、幸い記憶を失っていても、性格は前と同じだ。
「これから、辛いことも、悲しいこともあるかもしれない。」
「でも、それを覆すほどの“ 思い出 ”を作ってあげたい。」
そんな想いも同時に込み上げてくる。
シヒルは、下を向いていたが、上を見上げ導の目を見て言った。
シヒル
「主人様、これからも…私を、主人様の側に居させてください」
神陽導
「………!」
また、謎の既視感に襲われる。
そして、咄嗟に出た言葉があった。
神陽導
「こちらこそ、私の一番の“ 親友 ”で居てください」
そう無意識に言っていた。
優しい笑みを浮かべ、そっとシヒルの小さな頭を撫でてあげた。
シヒルは、その手の触感を感じ取って、頭を一生懸命に擦り付ける。
その目には、大粒の涙があった。
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夜風が心地よく吹く外で
空には、綺麗に輝き続ける星々と大きな満月
すると、夜の空に蒸気機関車の様なシルエットのものが走っていた。
それは、月を遮る様に突っ切って行った。
視点が、空から月明かりに照らされる一面麦の畑のある道路に、ゆっくりと変わっていく。
そこには、青髪の少女が一人で歩いていた。
少女が歩いている方向には、都市の様な明るさと大きな城が見えた。
その城は、まるで水のプリンセスが住んでいそうな丸みを帯びたシルエットの城だ。
ヴァッサー
「は〜あっ、疲れたなぁ〜」
「今日は、いっぱい頑張っちゃった」
背後から男性の様な煽り口調な声が聞こえる。
謎の男性
「ヨォ〜ヴァッサー」
「今日も、お疲れ様だぜ〜」
ヴァッサー
「あっ、お兄ちゃん!」
ヴァッサーが振り向く。
背後には、黄緑からエメラルドグリーンの少しボサついた髪が特徴的な男性が、地面から5cmほどの位置にいた。
兄
「ほらよっ!」
「兄貴から、お前に渡す様に言われてよぉ〜」
ヴァッサー
「やった!!お兄ちゃん特製のクッキーだ!」
「城に帰ったら食べちゃお!」
兄
「その方がいいぜ〜」
「それじゃなぁ〜」
「お兄ちゃん」と呼ばれた男性は、空中を歩く様にして立ち去って行った。
ヴァッサーは、クッキーの入った袋を両手で持って、城に帰って行った。
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次回
第一章 名を忘れた主人 第六話 朝




