第一章 名を忘れた主人 第十七話 “ 有効活用 ”する為の契約
神陽導
「……ん…ん?」
瞼が、ゆっくりと上に上がる。
まだ、ボケている目を、「パチパチ」と瞼を動かした。
腕を動かそうとするが、動かない。
何度か、瞬きをすれば目も冴えて来る。
そして、真っ先に見えたのは、自身の身体に巻き付く頑丈が縄だった。
背中に、湾曲状の何かがある事が感覚的に分かる。
頭を上げれば、そこには、3人の人がいた。
1人は茶髪に藍色のメッシュが特徴的な細身の男性
もう1人は、口元を隠した堅いのいい男性
もう1人は、目元を隠しているが…右腕の肘が切断され、血を流している男性
導が、顔を歪める。
目の前が、血に染まった空間と元の空間…という形で点滅する。
導は、吐き気を催す様な不快感が脳内を埋め尽くす。
冷や汗が「ブワッ」と出て来る。思わず、視線を下に向けてこの不快感を紛らわそうとした。
導は、目の前の衝撃と血を見た事による不快感で気づいていなかったが、男性たちは喋っている。
その声が、今更になって耳に入って来る。
茶髪の男性
「やはり、ベリアルは、鋭いな」
「シヒルまで、連れては来れなかったか…」
口元を隠してる男性
「嗚呼、もしかしたら、私の影響で警戒心が上がったのかもしれない」
腕を切られる男性
「いや、俺の運が悪かっただけだ」
話を盗み聞きしていれば、茶髪の男性が腕を前に突き出し、会話に割って入る。
茶髪の男性
「起きてるな…貴様」
「……お前たち、下がっていい。あとは、俺がする」
口元を隠してる男性
「承知致しました。王様」
フェルス
「嗚呼」
そう言って、2人の人は会話をしていた所よりも奥にあるドアから、この部屋を後にした。
導が、ゆっくりと頭を上げる。その顔は、困惑が入り混じっていた。
神陽導
「……気付いてたの?」
フェルス
「嗚呼、血を見せて気分を害させた事は謝罪する。すまなかった」
神陽導
「ううん、それは別にいいの…」
「此処は、何処なの?」
血を見た事による不快感は、まだ、拭えていなかったが、導は周りを見渡しながらフェルスと言う人物に問い掛ける。
フェルス
「此処は、“ イーヴル王国 ”にある軍の室内訓練場だ」
確かに、辺りを見渡せば、柔道場の様な雰囲気のある訓練施設だが、右側の壁には、的の様な物が設置してあった。
そして、この時に気付いたのだ。
「今、私は、“ イーヴル王国 ”の“ 室内訓練場の柱に縄で縛られている ”」
この事実に、“ 今 ”気付いたのだ。
そうしていれば、少しずつ気分も良くなっていく。
導が、フェルスの目を見ていった。
神陽導
「どうして、こんな事したの?」
「私を誘拐して何するの?私は、何も出来ない普通の人間なんだから!」
フェルスが目を「スッ…」と細め、跪いて導の顔を片手で掴んだ。
神陽導
「むっ…」
フェルス
「よくもまぁ…そんな戯言が言えたな…」
「貴様が、過去に何をしたかすら思い出せないのか?」
神陽導
「何よ!普通の人間に変な事言わないでよ!」
フェルス
「そうか…」
フェルスの声が、格段に低くなる。
導の顔を掴んでいた手に力が籠る。導は、その力の強さに、顔を歪める。
フェルスが、呆れた様に手を離し立ち上がる。
フェルス
「ハァ…本気で、思い出せない様だな」
フェルスが、背を向ける。
フェルス
「俺の王国は、“ 最弱国家 ”だったが、初代国王が、お前ととある契約を結んだ」
「その契約のおかげで、そこそこの実力を持つ国家へと成り変わった」
導は、黙って聞く。
フェルス
「だが、その契約は巡り巡って俺たちを…俺の民を苦しめている」
「貴様が作ったあの“ 契約 ”が!」
フェルスは感情的に叫ぶが、導には何のこっちゃかわからない。
神陽導
「じゃ、その“ 契約 ”を言ってよ!」
「私には何が何だか、わからないよ!」
フェルス
「その契約は、“ 再生結晶 ”、俺たちが自分の名を忘れ、“ 固定名 ”になる代わりに全ての民の命を保証すると言う契約だ」
「それが、発動した事は、一度もない」
神陽導
「“ 再生結晶 ”……」
頭の中をしらみ潰しに思い出そうとした…
すると、脳内にノイズが走る。
ある者との会話が流れた。
目元がノイズで覆われている人物
「嗚呼、助かるよ!」
「これで、我々の民が幸せに暮らせる様になるほんとにありがとう。導さん!」
神陽導
「いいの!いいの!」
「これで、イーヴル王国の民が助かるなら、私も嬉しいからね!」
そんな会話だった。
だけど、これで思い出した。断片的に…
神陽導
「どう言う場面で、それは発動しなかったの?」
フェルス
「思い出したか?」
「まぁ、教えてやろう」
フェルスが、手に結晶を出す。
フェルス
「これに、見覚えがあるかないかで変わるが…」
神陽導
「ある。それは、イーヴル王国の初代国王の“ 最上の遺物 ”でしょ」
フェルスは、目を大きく広げたが、すぐに真顔になる。
フェルスの手元にある“ 最上の遺物 ”は、縦に細長い菱形の形状で、茶色の結晶だった。
フェルス
「我々は、神脈には帰れない…」
「あの契約は、もしも、神脈に何かあった時に民を守る仕組みだった」
神陽導
「もしかして、それが上手く発動してないの?」
フェルス
「……嗚呼、そうと言えるだろう」
「あとは、お前を有効に活用すれば…問題は全て解決するんだ…」
腕を広げ、言い放つ。
その顔は、ガンギまっていた。
神陽導
「……私を…“ 有効 ”に“ 活用 ”…」
「私しに拷問でもして、民の鬱憤をはらそうと思ってる…の?」
フェルス
「そんなバカな事はしない」
「ただ、貴様の力を思い出せ、その力を“ 有効 ”してやる」
神陽導
「どうやって…」
フェルスは、見下す様に導を見つめ、導もフェルスを睨む様に見る。
その目には互いに「野望」と「警戒」の心の表れだった。
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次回
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