第8話 罪滅ぼし
「……投稿って、どこに?」
「それを今から説明すんだよ」
電源ボタンを押すように急かされて、俺はかちりとそれを押した。
真っ暗な画面に、光がともる。
「ここ。ほら、このサイト。いいから早く開けって」
「そんでアカウント作って……名前なんて適当でいいだよ」
「ほら、ここ押せ。そう。そこに書き写して……」
真柴さんの雑な説明を受けて実行しながらも、依然として消えない疑問。
……なんでここまでしてくれるんだ?
けれど今それを声に出しても、またはぐらかされる。ただただ真柴さんの言うとおりに実行した。
そうしてタイトルを打ち込み、投稿をした時。
「ごめんな」
真柴さんの声は少し、重みを帯びていた。
「え?」
「この小説を最初読んだとき……言い過ぎた」
急な言葉に、思わず身が固まる。けれど、ここまでしてくれる理由は罪滅ぼしのつもりなのだろうと、何となく理解した。
「別に……もう大丈夫ですよ」
「いや、本当に。言い過ぎたと思ってさ……何も、お前の事まで否定する必要はなかった」
――軽薄だね
「いや、まぁ……事実ですし」
真柴さんは、何か言いかけて、結局口を閉じた。
いや、否定はしないのかよ。
少しの沈黙の後、真柴さんはようやく口を開いた。
「次は、何を書くんだ?……相川」
体が硬直した。
次。何も思い浮かばず、最初の”ひどい小説”に捕われている。
……そんなこと言えるわけがない。そんなことを言ったら俺は……
俺は……?
一拍置いて、やっと気づく。
俺は、結局認めることができていなかったことに。
俺はまだ、《《自分が軽薄で空っぽではないと思っていた》》ことに。
自分の空っぽさを見たくなくて、目を逸らして、逃げていたんだ。
……あぁ、今、猛烈に自分をぶん殴りたい。
「おい」
真柴さんの言葉に、ハッとする。顔を見ると、見るからに心配してる顔。
「大丈夫かよ」
「……大丈夫です。それより、次についてなんですけど」
返す言葉は決まっていた気がした。画面を指さす。
「今、この小説と同じ内容しか、書けないんです。捕われてるんです」
真柴さんは、しばらく黙っていた。俺の言葉を噛みしめるように、視線を落としたまま。
「……そうか。でも、これだけは……断言する」
俺の呼吸と、真柴さんの呼吸の音しか、聞こえなくなる。視界からは真柴さん以外の景色はぼやけ、ただ一点だけにピントが合う。
「あんたは……空っぽじゃねぇ」
言葉はもちろん出なかった。
「今のあんたの状況は、誰にだってある”スランプ”だ」
「じゃあ、どうやって抜け出すんですか」
「別に抜け出す必要なんてない」
「え?」
「ただ、他人を頼ればいい」
今日、何度目かの衝撃。ずっと一人だった俺にはない思考。
「何も浮かばないなら、誰かに面白い話ないかって聞けばいいんだよ」
「そんなの……やっていいんですか」
「あぁ。いいんだよ。大切なのは、その話を聞いたあんたの解釈だ」
その言葉が、胸の奥にゆっくり沈んでいく。沈んで、沈んで……底に触れた瞬間、熱に変わった。
「俺の、解釈」
「あぁ」
「……誰に、聞けばいいんですか」
「別に、誰でもいいだろ」
「真柴さん」
「なんだ?」
「ありがとうございます」
「おう」
「……どうしてここまで、してくれたんですか?」
今なら、聞ける気がした。




