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『ゲロ味の錠剤』  作者: kar777


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第8話 罪滅ぼし

「……投稿って、どこに?」

「それを今から説明すんだよ」

 電源ボタンを押すように急かされて、俺はかちりとそれを押した。

 真っ暗な画面に、光がともる。

「ここ。ほら、このサイト。いいから早く開けって」

「そんでアカウント作って……名前なんて適当でいいだよ」

「ほら、ここ押せ。そう。そこに書き写して……」

 真柴さんの雑な説明を受けて実行しながらも、依然として消えない疑問。

 ……なんでここまでしてくれるんだ?

 けれど今それを声に出しても、またはぐらかされる。ただただ真柴さんの言うとおりに実行した。

 そうしてタイトルを打ち込み、投稿をした時。

「ごめんな」

 真柴さんの声は少し、重みを帯びていた。


「え?」

「この小説を最初読んだとき……言い過ぎた」

 急な言葉に、思わず身が固まる。けれど、ここまでしてくれる理由は罪滅ぼしのつもりなのだろうと、何となく理解した。

「別に……もう大丈夫ですよ」

「いや、本当に。言い過ぎたと思ってさ……何も、お前の事まで否定する必要はなかった」

 ――軽薄だね

「いや、まぁ……事実ですし」

 真柴さんは、何か言いかけて、結局口を閉じた。

 いや、否定はしないのかよ。

 少しの沈黙の後、真柴さんはようやく口を開いた。

「次は、何を書くんだ?……相川」

 体が硬直した。

 次。何も思い浮かばず、最初の”ひどい小説”に捕われている。

 ……そんなこと言えるわけがない。そんなことを言ったら俺は……

 俺は……?


 一拍置いて、やっと気づく。

 俺は、結局認めることができていなかったことに。

 俺はまだ、《《自分が軽薄で空っぽではないと思っていた》》ことに。

 自分の空っぽさを見たくなくて、目を逸らして、逃げていたんだ。

 ……あぁ、今、猛烈に自分をぶん殴りたい。

「おい」

 真柴さんの言葉に、ハッとする。顔を見ると、見るからに心配してる顔。

「大丈夫かよ」

「……大丈夫です。それより、次についてなんですけど」

 返す言葉は決まっていた気がした。画面を指さす。

「今、この小説と同じ内容しか、書けないんです。捕われてるんです」

 真柴さんは、しばらく黙っていた。俺の言葉を噛みしめるように、視線を落としたまま。

「……そうか。でも、これだけは……断言する」

 俺の呼吸と、真柴さんの呼吸の音しか、聞こえなくなる。視界からは真柴さん以外の景色はぼやけ、ただ一点だけにピントが合う。

「あんたは……空っぽじゃねぇ」

 言葉はもちろん出なかった。

「今のあんたの状況は、誰にだってある”スランプ”だ」

「じゃあ、どうやって抜け出すんですか」

「別に抜け出す必要なんてない」

「え?」

「ただ、他人を頼ればいい」


 今日、何度目かの衝撃。ずっと一人だった俺にはない思考。

「何も浮かばないなら、誰かに面白い話ないかって聞けばいいんだよ」

「そんなの……やっていいんですか」

「あぁ。いいんだよ。大切なのは、その話を聞いたあんたの解釈だ」

 その言葉が、胸の奥にゆっくり沈んでいく。沈んで、沈んで……底に触れた瞬間、熱に変わった。

「俺の、解釈」

「あぁ」

「……誰に、聞けばいいんですか」

「別に、誰でもいいだろ」

「真柴さん」

「なんだ?」

「ありがとうございます」

「おう」

「……どうしてここまで、してくれたんですか?」

 今なら、聞ける気がした。

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