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『ゲロ味の錠剤』  作者: kar777


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第9話 曇り空の下で

「……どうしてここまで、してくれたんですか?」

 真柴さんの笑顔を見て、ついに出てきた純粋な疑問。

 本当に、罪滅ぼしなのだろうか?

 思えば、今までの行動にもよくわからないところはあった。急に怒ったり、笑ったり……突き放したり。

 激しく動く感情への疑問が膨れ上がって、今、口からこぼれたのだ。

「……理由が、必要?」

 顔は真顔。声は冷たく告げる。

「今までの真柴さんの行動を見てると……支離滅裂で、都合よく見えるんです。でも、あるんですよね。理由が。それが俺は……どうしても、知りたいんです」

「理由なんて……」

 真柴さんはそれ以上に何かを言いかけて、辞めた。

 俺に一瞥もせず、PCをバッグにしまい込み教室を出ようと歩き出す。

「教えてください!」

 大きく反響する教室で、真柴さんが振り向く。観念したように。

「あんたはひどく似てんだよ……あたしの、兄貴に」

「真柴さんのお兄さんに?」

「あぁ、死んだ兄貴にな」

「……」

 その言葉は、あまりにも軽く、あまりにも重かった。

「だから、話したくなかったんだよ。そんな顔になっちまうんだからな」

 そういって、真柴さんは教室を出て行った。呆然とする俺を置いて。

 暖房の音だけが、やけに大きく聞こえた。


 机に置いたノートPCを開く。画面の白さが目に刺さる。

 書こうとする。でも、指は動かない。浮かぶのは、また同じ。

 ――今はただ、他人を頼れ

「……誰を?」

 自嘲の笑いが漏れた。今、真柴さんに聞ける訳がない。

 ……千景さん? でも、俺は千景さんの事を何も知らない。

 好きなものも、嫌いなものも……ペンネームだって知らない。

 知っているのは、夢だけ。住所だって、向こうが知っているだけ。

 俺は、さっき投稿した小説のPV数を画面に映し、黙っていた。

 もちろん0PVのその画面を。

「……もう閉めるよ」

 そんな言葉が響く頃、俺は返事もせずに、画面が真っ暗なPCを閉じた。


 日曜日。

 いつものスクールの教室は、相変わらず安っぽい机と椅子のままだった。ホワイトボードには、前回の授業の名残みたいな走り書きがうっすら残っている。「視点」とか「地の文」とか。後ろには真柴さんがいるが、話はしない。

 ただ、いつもと変わったところは、座る俺の前にあるのはペンと紙じゃなく、ノートPCなこと。

 ……画面に映っているのは依然0PVの小説だけ。その小説だけだ。

「はい。じゃあ授業を始めます」

 白石さんの言葉で、今日も真柴さんとは話さないまま、授業が始まった。

 垂れ流す講釈に耳を貸さず、画面だけを見つめる。そして思い至る。

「来た意味なくね?」

 こぼれた声が、白石さんの手に持っていたマーカーを止めた。生徒たちの視線が、一斉に俺へ向く。

「いや……その、すみません」

 そう言って、俺は視線を落とした。白石さんは小さく頷き、授業を再開する。

 ――ここ来ない方がいいよ。あんた

 なぜだかその言葉を思い出していた。


 授業が終わるなり、俺は教室を飛び出た。どうにもならないもやもやが付きまとう。

 0PV。()()()()()()俺は……夢しかない俺は。

 ……一体今、何をすればいいのだろう。

 スクールのドアを押し開ける。

 目が合う。

 曇り空、雲の間から差す月光の元、そこに居たのは……

「こんばんは」

「……千景さん? なんで、ここが?」

 俺の問いには答えずに、千景さんは笑顔で告げた。

「AIって、知ってます?」

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