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『ゲロ味の錠剤』(毎週日曜・月曜朝6時投稿)  作者: kar777


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8/8

第7話 新しい扉の前

 あの日から、二日が経った水曜日。未だ、俺は前の作品に囚われていた。

 書こうとすれば、同じ形に戻っていく。紙の山だけが増えていく。

 けれど、精神は安定していた。対処法を理解したのだ。

 外に出ること。

 外に出れば、落ち着く。薬の代わりになる。


 そう。薬を使うことはなくなった。いろんなことに一点集中できるのはいいことだが、悪いことにも…集中してしまうから。

 その点、外に出るのは良かった。

 日々変わる景色に、途切れない思考。けれど、悪いことを考えることは……ない。

 だから、良かった。

 踏切の音を聞きながら、歩く。そしていつの間にか着いたのは、スクールだった。

 今日は、日曜日じゃない。水曜日だ。

 スクールはやっていないと知っているのに…何故だか、ここに歩いていたのだ。

 ドアに向かって、ドアノブを握る。

 ギィ…と、拍子抜けするほど簡単にドアが開いた。

「え?」

 中には、白石さんがいた。


 白石さんは椅子に座ったまま、こちらを見る。もちろん、笑顔で。

「こんにちは」

「あ、はい。こんにちは…あの、スクールは日曜日ですよね?なんで、開いてるんですか?」

「日曜日以外の日は、教室を自習室として開けてるんです。…教えてませんでしたか?」

「あ、はい。知りませんでした」

「そうですか…すみません」

「いえ、大丈夫です。とりあえず…用紙とかを持ってきます」

 そう言って背を向ける。

 けれど、すぐに止める声がした。

「やめるって、本当ですか?」

 振り返る。白石さんは心配そうな顔をしていた。笑顔ではない。

「やめませんよ。何でそう思うんですか」

「先週の授業、なんだか元気がなかったので。けど、そうですか。やめないんですね。良かったです」

「…本当に、そう思ってます?」

 白石さんは真顔になって、こちらを見る。

「…どういう意味ですか」

「お金稼ぎのための客がいなくなるのは困るんですよね。だから心配した顔もする。要するに、偽善だ」

「そんな……僕はただ、心配で…」

「じゃあなんで最初の授業があったあの日。書けない俺を…助けてくれなかったんですか」

 その言葉が落ちた瞬間、白石さんは、ほんの一瞬だけ目をそらした。逃げるように。

「それでも……心配していたのは、本当です。僕は、相川さんの…味方です」

 その言葉には反応せずに俺は背を向け、ドアを開けた。

 外の空気が一気に流れ込んできた。


 用紙を取ってきて、スクールに戻ってきた俺は、ドアを開けた。

 白石さんには目を向けずに、奥へと向かう。

 …いや、ただ部屋の中より教室で書いた方が、別の話ができるかもしれないと思っただけだ。

 教室の扉を開ける。中は静かだった。暖房と時計の音だけが、薄く響いている。

 その静けさが、少しだけ落ち着いた。

 席に向かおうとしたとき、視界の端で何かが動いた。

 真柴さんだった。

 俺の顔を見るなり、椅子を蹴るようにして立ち上がり、俺の横を抜けて教室を飛び出した。

「ちょっと待ってろ」

 その言葉だけを残して。

 そして残されたのは、俺と彼女の席に置かれたノートPC。覗くと、画面がついたまま。

 そこに映っていたのは、小説だった。

 時計の音が、暖房の音が、段々と止んでいく。集中は、ただ一点へと向かった。


 その小説のタイトルにはありふれた日常と書かれている。

 朝の光。コーヒーの匂い。通学路のざわめき。友達との他愛ない会話。

 そんな内容。俺は思った。

 上手くはない、と。

 前の本屋で読んだような、引き込まれる感じがないのだ。

 でも――

 書こうとしている。

 その必死さだけは、画面越しにひしひしと伝わってきた。

 ページをスクロールする指。ようやく読み終わる…!

「何勝手に読んでんだ」

 声が落ちた。

 見ると、真柴さんが立っていた。息が少し荒い。

 そして脇に…黒々としたものを持っていた。

「これ、やるよ」

 差し出してきたそれは…古いノートパソコンだった。

「え、なんで?」

 頭の中にすぐに生まれた疑問が、すぐに言葉として出てきた。

「それは…お前の字は汚ねぇから。次読むときに、楽するためだよ」

「…読んでくれるんですか?」

「……いいから開け。充電はあるはずだから」

「?」

「小説投稿サイトを開くんだよ」

初心者ですので、いまいち分っておりませんが、お気付きの点などございましたら感想などでご指摘頂けると幸いです

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