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『ゲロ味の錠剤』  作者: kar777


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第6話 晴れた空の下で

 次の日。俺はまた、書き始めた。

 ――あなたには、才能がある

 その言葉に何度も救われながら。迷いながらペンを走らせて、進めて行く。

 …けれど。

 想像したのは一緒だ。

 つい一昨日書き上げたあの小説と一緒。いや、実際は全く一緒ではないのだが…酷く似ていた。

 そう気づいたとき…何故だか俺は、すぐに原稿用紙を破り、手で強く握って、まとめて捨てた。すでに散乱する床がまた、汚くなる。

 そして、新しい原稿用紙を取り出してペン先を向ける。けれど、頭に浮かんでくるのは、似たり寄ったりな内容。


 床が汚くなっていく。

 そうして気づけば、俺は…原稿用紙から目を逸らしていた。頭の中はうるさいのに部屋は静かで、あのゲロは片付けたはずなのに。

 酸味ある匂いが鼻を抜ける。自分の事を書けばいいだけなのに…

 ――軽薄だね

 …そうなのか。

 俺が、軽薄で空っぽだから…同じに、なるのか。

 俺は……でも。

 それでも、諦めたくないんだ。小説家になりたいんだ。

 ――小説家になったら?

 頭の中も、静かになった。

 …これじゃ、昨日の凛さんとの会話の繰り返しだ。

 考えるな。

 俺は…軽薄なんかじゃない。

「書かないと……証明しないと…」

 そう自分を鼓舞して、原稿用紙と向かい合った。また頭の中で話そうとする奴の口を塞ぎながら。

「~た。にしないで…改行をして…」

 そんなことを呟きながら。


 人の喧騒の中、お昼時。食材を買おうと出た外。

 俺が考えていたのは…やはり小説のこと。内容は、何も変えることはできなかった。

 けれど少し、良くなった気がした。

 空を見上げる。どこまでも晴れ渡っていて、回転しても景色が変わらない。

 そんな空を見ていると、なぜか…夜空の光に照らされていた彼女を思い出した。

 俺は…俺にやさしい人が好きだ。

 だから…多分、千景さんの事を俺は…

 顔を下ろす。

 そこにあったのは一軒の本屋。俺はその中に入っていった。


 本屋の中は、あの部屋とは別の静けさがあった。

 紙の匂い。冷房の風。棚に並ぶ背表紙の列。

 俺はその間を、ふらふらと歩いた。回りはしなかった。

 ある棚の前で立ち止まる。

 新人賞受賞作のコーナー。帯には「圧倒的才能」「衝撃のデビュー」なんて言葉が並んでいる。

 勿論、手に取る気になんてなれなかった。

 ――大事なのは、インプットです

 あぁ…どこで聞いたんだっけ、この言葉。

 手が伸びる。

 本を開いて、字を追う。所々分からない言葉があったが、ニュアンスで理解して読み進める。

 やっぱり…面白い。

 俺の小説とは、全然違う。読みやすいし、言葉が生き生きとしていて、活力にあふれている。

 この人は…夢を、叶えてるんだろう。

 ……とは、限らないか。

 すっと息を吐いた。本を戻す。どうせ高くて買えない。


 外に出ると、空はまだ晴れていた。どこまでも、変わらずに。

 俺はまた歩きながら、小さく呟いた。

「もっと…書けるようになりたいな…」



 次の日の昼下がり。私は、ピアノの前に座っていた。

 鍵盤に触れても、音は出さなかった。ただ、指先を置いているだけ。

 冷たい象牙の感触だけが、静かに伝わってくる。

「…」

 昨日、あの男が言った言葉が頭に残っていた。

 ――千景さんの言葉に、救われました

 軽薄で、空っぽで、何も知らないくせに。

 それでも、真っ直ぐに。

「…鬱陶しい」

 私は立ち上がり、机の上のスマホを手に取る。昨日調べたスクールのページが、まだ開いたままだった。

“初心者歓迎。夢を追う人を応援します。”

 私はバッグを手に取った。靴を履いて、玄関のドアを開ける。

 空は雲一つない快晴。

「…壊しに行こう。何度でも」

 その声は、誰にも聞こえなかった。


 足音が乾いたアスファルトに吸い込まれていく。

 スクールの建物が見えてきた。古いビルだ。

 色あせた看板には、もはや何と書いているのかもわからない。

 私は迷わずに一歩、前に進む。

 中に入ると、すぐに胡散臭い笑顔を浮かべた男が出てきた。

「こんにちは。初めての方ですか?」

「はい」

「では、こちらへ」

「いえ。その必要はありません」

「はい?」

「私、仕事が忙しいんです。スクールの授業がある日を教えてほしくて来ました」

「そ、それなら毎週日曜日にスクールの授業はやっています。そして、日曜日以外も毎日開けてあるので、自習室としても使えて――」「あ、じゃあ大丈夫です。ありがとうございました」

「え、ちょっと…」

 男の言葉を無視してスクールから出る。

 さっきまでの快晴の温かさが噓のように、風が冷たかった。

 日曜日。その日に私は…

「絶対に…——」

 呟いた声は、風にすぐ消えた。

 でも、自分の中だけには、はっきりと残った。

初心者ですので、いまいち分っておりませんが、お気付きの点などございましたら感想などでご指摘頂けると幸いです。

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