98話
吸血鬼、人の生き血を吸う人の姿をした怪物。口には鋭い牙が生え、不死身の肉体を持つが、太陽の光に弱い。死んだ悪人が墓場から蘇った姿とも言われているが、人が怖がって近寄らないようにネクロマンサーたちが流した架空の存在とも言われている。しかし、ミックたちはその吸血鬼が実在する話をその耳で聴いた。
「元々はそこの村人の1人だったんですが、両親が流行り病で死んでしまって、2人の子供だけが残ったんです。他の村人に感染しないように、村から離れた所に一家で隔離されていたんですがね……」
そこは4人家族で既に成人した兄と妹だけが生き残ったという。しかし、村人は病の事があって、2人は隔離先でまだ暮らしているらしい。
「それで他の村人を憎んだ妹の方が吸血鬼になって、夜になってから村に戻って家畜を襲って血を飲んでいたらしいんです」
「らしいってのは?」
「直接家畜を襲って血を飲んでる所は誰も見てないんですけど、間違いなくその娘の仕業だと村は分かっていたんでさ」
何でも家畜を襲った吸血鬼は血の跡を残していて、その兄妹の隔離している小屋の方に続いていたという。
「でも、それで何故娘が吸血鬼だと分かったのだ?」
オーランドが身を乗り出して尋ねる。噂にしか聞かない吸血鬼が実在すると聞いて、騎士として退治するつもりなのだろう。長身のオーランドの威圧感に、男は実を縮こませる。
「娘の方は太陽の光を浴びると苦しんで外に出れないんですよ。一度、日中に外に引きずり出したんですが、すぐに全身が爛れて苦しんで小屋に逃げ込んだんです。これでもう吸血鬼だと確定でしょ?」
確かに日の光で苦しむのはただ事ではない。やはり噂に聞く吸血鬼なのだろうか。
「しかし、兄が妹をかばってこれ以上村に迷惑をかけないようにするから、自分たちの事はほっといてくれと閉じこもってしまったんです。もし、妹に手を出したら自分が許さないとものすごい剣幕でね。それで、渋々我々もそこは引き下がったんです」
しかし、話を聞くとまだ家畜が襲われる事件は続いているという。
「村人の中には夜に妹の声を聞いた人もいるし、間違いなく妹が吸血鬼で、村の家畜を襲っているんです。ですが、最初に話し合ってから兄妹は完全に村と断絶して、取り合わなくなったんです。でも事件は続くでしょう? 流石にいつ自分たちが今度襲われるかわかったもんじゃないから、我々は村を出る事にしたんです」
それが男の話だった。
「冒険者ギルドに依頼する事も考えたんですが、ただの魔物ならよかったんでしょうが、相手が吸血鬼と聞いたらまともに取り合ってもくれない。」
確かににわかに信じられない話だったが、オーランドの表情は真剣そのものだった。
「安心召されよ。このオーランドと某の仲間たちが見事、その吸血鬼事件を解決してくれようぞ」
そう言って、オーランドの一方的な判断で勝手にミックたちも事件に巻き込まれる事になった。




