90話
アークメイジの部屋は壁一面が本棚で、その中心の変わった形状の机で筆を走らせている老人がいた。彼がここのアークメイジなのだろう。ミックたちが興味深く部屋の中を見ている間、彼はこちらにはまるで気づいてないように、ガリガリと筆を動かし続けていた。
「ちょっと、呼ばれたから来たのに出迎えの挨拶もなしなのかい魔法使いギルドってのは!」
しびれを切らしたアンジーが声をかけるが、その間もアークメイジの周りには手紙が飛んで来たり、飛んで行ったりしている。その一枚を見るとアークメイジはようやく筆を止めた。
「あーよくぞ来られたドラゴン討伐の英雄殿。私は魔法使いギルドバーズ支部代表アークメイジ、アンドロジナス・カマエン。お見知りおきを」
定型文な挨拶にアンジーはさらに気分を悪くする。アークメイジの対応の仕方があまりにも杜撰な事に、彼女は憤りを隠せなかった。
「元はあんたたちが呼んだから来たってのに、それが客を出迎える態度かい!」
「ちょっとアンジーさん、アークメイジの方もお忙しいみたいですから仕方ないですって」
ミックがなだめて落ち着かせようとするが、アークメイジは執筆を再開しながらため息をついた。
「やれやれ、ドラゴン討伐を成し遂げた人物と聞いたから見てみれば、魔法の素質もない女戦士と、まだ子供ではないか」
「何だと!?」
アンジーは武器に手をかけて身構える。このままだとアークメイジに切りかかりかねない。ミックがそう思っていると、彼らの前に椅子が飛んできて、目の目に用意される。
「掛けたまえ。生憎時間に追われる身であるから、お見苦しい所を見せるがそこは勘弁願おうか」
一応、来客としてそれなりに扱ってはくれているつもりらしい。ミックはアンジーをなだめて、なんとか椅子に座る事が出来た。
「そして、えーカイナドではネクロマンサー捕縛も行ってくれていたという事も聞いている。ドラゴン退治もネクロマンサー捕縛も、魔法使いギルドにとっては多大な貢献をしてもらった事になる」
「そうだよ、それもそこのガキンチョとリサという娘の成し遂げた功績だ」
アークメイジがようやくミックたちに顔を向ける。長いひげを蓄え、大きなとんがり帽子をかぶった老人。いかにも魔法使いと言った風貌だった。
「もっとも、そこの娘はネクロマンサーの弟子だったと聞くが」
どこまで知っているのか、リサの事も詳しく知っているようだった。ドラゴン退治の時もそうだった。まるで見ていたかのようにアンジーとミックの事が詳細に書かれていた。




