79話
イナドの冒険者たちが集まる酒場。ミックはアンジーに連れられてそこへやってきた。
「冒険者にとっちゃあ故郷みたいな物さ。情報収集に仲間集めに酒。あんたもそろそろ慣れておくべきだね」
「本当ですかぁ?」
「特に大きな依頼が終わった後は、同じく依頼を終えた冒険者が集まる。そこで同業者同士お互いに情報交換や交流は必要さ。勿論酒もついでにね!」
疑わしく聞いてみるが、結局は酒が飲みたいだけなのだろう。中に入ると、アンジーが言った通り、冒険者たちで賑わっていた。
「お、誰かと思えば勇敢な女戦士に少年じゃないか!」
カウンター席に一緒に戦った戦士の男が座っていた。アンジーは他の冒険者を押しのけてその隣に体をねじこむ。
「あんたも来ていたか。最初は腰抜けかと思ったけれど、運がよかったわね」
「その件は内緒にしてくれって。代わりに酒を奢ってやるから! 少年も飲むか?」
「遠慮しておきます。僕はミルクで」
戦士が声を上げると店員が忙しそうに酒とミルクを持ってきた。アンジーと男はジョッキに入ったそれで乾杯する。
「でも実際、あんたらと組んだおかげで俺はここの領主の正規軍にスカウトされた。晴れて俺も立派な騎士様に叙任される」
ネクロマンサー討伐での功績が認められて、彼は騎士になるそうだった。魔法使いだけでなく、他の冒険者たちもこうした出世を夢見て、大きな依頼を受けるのだろう。
「他の拠点にいたネクロマンサーたちも粗方捕まったそうだが、俺たちが一番被害も少なくネクロマンサーを捕まえたから評価されたみたいだぜ。洗脳された他の冒険者たちも無事らしいしな」
リサの他に幻術で操られていた生存者たちも無事だったようだ。しかし、自分たちが助かったのは何よりもリサの手助けがあったからだ。そうでなければ、今頃亡者たちの仲間入りしていたかもしれない。
「お前らも騎士になるんだろう? 今後は同僚として酒を酌み交わせるかな?」
「あたしらは魔法使いギルドの方へ行くよ。ドラゴン退治に比べたら今回の功績なんて道中の土産みたいなもんさ」
「へえ、そりゃ……ドラゴンだって!」
アンジーの話を聞きながら酒を豪快に飲んでいた戦士の男は、驚きのあまりそのままひっくり返って顔面を酒でびしょ濡れにしてしまった。
「まさかカペー地方のドラゴンを倒した二人組って……!」
「あんま騒ぐなって、周りに知られたらのんびり酒も飲めなくなっちゃうからね」
「へ、へぇかしこまりました!」
ミックとアンジーがドラゴン退治の英雄と知って、すっかり戦士の男は恐縮してしまった。2人のドラゴン退治はここまで伝わっているようだ。




