7話
「ぐああ!」
グリズリーベアが飛び掛かってきた。正面から来られたら、もうさっきみたいに方向を逸らすのは不可能だ。ミックは死を覚悟した。鋭い爪のついた腕が、自分に振り下ろされる。思わず目を閉じて死が迫るのを覚悟したが、その瞬間は一向に訪れなかった。
「あれ?」
目を開けると、自分の背後から伸びた大剣が、魔物の胸に深々と突き刺さっていた。
「おらぁ!」
背後から上がった声と共に、突き刺さった剣が魔物を押し返した。グリズリーベアの巨体がミックから離れる。そして、剣の持ち主の姿が露になった。
露出が多く急所だけを守った軽装の防具。傷だらけだが多くの戦闘で培われたであろう筋肉。そして気が付いたのは右腕の肘から先がなかった。片腕の筋力だけであのグリズリーベアを押し返している強者の女戦士。彼女がミックを助けてくれたのだ。
「ぐああ!」
急所を突かれて魔物は苦悶の声を上げる。それでもなお、腕を振りかぶって女戦士に反撃をする。
「危ない!」
ミックが叫ぶ間に、女戦士はもう剣を魔物から抜きながら屈みこんで、攻撃を回避する。
「おおおりゃあ!」
雄たけびを上げながら大検を振りかぶって魔物を斬りつける。というよりも、ぶち当てると表現した方がいいような、全身を使って力任せの豪快な一撃で魔物の首を斬りつけた。
グリズリーベアの首が皮一枚残して身体から離れた。真っ赤な鮮血を垂らしながら、力の抜けた巨体が地面に倒れる。
腰が抜けてその場にへたり込んだミックはポカンと、女戦士とグリズリーベアの死体を見つめた。
女戦士は魔物が事切れているのを確認してからミックの方へふり向く。
「あの、助けていただきありがとうございます……」
命を助けられたことに気が付いて一先ず感謝の言葉を述べる。彼女がいなかったら間違いなく死んでいたからだ。
「あ、あの是非お礼がしたいのでお名前を教えていただけませんか? 僕はミック・リングストンと言って近くの町に住んでいる……」
喋っている最中で女戦士は剣を置いていきなりミックの首元を掴んで持ち上げた。
「うわっ!?」
「あんたの事は良く知っているわ。最近組んでいたパーティから追放されたミックって言うガキよね」
どうやら女戦士の方はミックを知っているらしい。彼の方は女戦士の事は全く知らなかった。隻腕の女戦士ならギルドにいたらすぐに気が付くはずなのに、全く聞いた事もなかった。
「あたしと組みな! 命を助けてやったんだ。嫌とは言わせないよ!」
女戦士の突然の申し出に、ミックはただ困惑するだけだった。




