60話
「どうしよう……」
ミックが悩んでいると数体の亡者がこちらの方へ向かってくる。ネクロマンシーは個別に亡者を操作する事も出来るようだ。
「来るな死体共!」
斥候が矢を連射するが、亡者には全く効果がない。一体一体相手をしていたらキリがない。じりじりと迫ってくる亡者にミックも恐怖を覚える。
「くっどけぇ!」
亡者の包囲網から逃れようとアンジーが奮闘するが、攻撃がほとんど効果のない亡者を相手に追い詰められてゆく。近づいた亡者が大振りの動作でひっかく様に腕を振り回した。アンジーが回避すると、背後の木でできた墓標が半分に折れた。攻撃した亡者の方も腕が折れて骨がむき出しになったが、それも意に介さず再び彼女を狙う。
「危ないアンジーさん!」
彼女を助けにミックは亡者を操るネクロマンサーの方へ駆ける。せめて一瞬でもネクロマンシーの使用を止めさせられれば、活路が開けるとミックは考えた。そこに亡者が立ちふさがる。
「アアァ……」
呻きながら亡者がミックに襲い掛かる。しかし、彼も様々な魔物と戦ってきた。それに比べたら亡者たちの動きはとても緩慢だ。怖がらず冷静に向き合えば、その攻撃を避けるのは難しくなかった。亡者の脇をすり抜けて、暗闇の中にいるネクロマンサーを視界に捉える。
「転ばし!」
指先をネクロマンサーに向けて魔法を放つ。詠唱に集中していたネクロマンサーは突然、何かに足を引っかけられたように尻もちをついた。
「!?」
すると、まるで糸の切れた人形の様に数多いる亡者たちが一斉に動きを止めた。
「今だ!」
いち早くそれを察したアンジーが身を翻して、背後から魔法で攻撃してくる方のネクロマンサーに向かって行く。
「ひ、氷結の槍!」
氷の矢よりも大きく鋭い氷の槍を作り出す。それをアンジーに目掛けて放とうとするが、彼女の俊足であっという間にネクロマンサーの目の前まで迫っていた。
「ぎゃあ!」
アンジーは剣の峰で殴りつける。ネクロマンサーは一撃で昏倒し、魔法できた氷の槍も一瞬で液状化し、地面を濡らす。
「残るは1人だな。手こずらせやがって」
亡者を操っていた最後の1人に顔を向ける。
「くっ、出でよ亡者……」
自暴自棄気味に再び詠唱を始めるが、魔力を集中する詠唱は魔法使いが無防備になる瞬間でもある。守ってくれる護衛がいなければ。隙だらけの的に過ぎない。当然、ネクロマンシーを使わせる時間も与えず、アンジーがネクロマンサーの腹部に重い拳での一撃を与える。息を搾りだすような呻き声を出す相手に、とどめと言わんばかりに背中に肘打ちを落とす。伸びたカエルの様に地面に叩きつけられ、ネクロマンサーは失神した。




