59話
松明が一定の間隔を空けて墓場で動いている。迷信深い人間なら人魂が墓場で彷徨っていると思うだろう。その中央に脇からアンジーが駆け込んで剣を振り下ろす。
「あ!」
突然の奇襲に影が叫ぶ。誰かが倒れる音と共に松明の間隔がさらに開く。続けて戦士がミックから見て右に動いた松明の持ち主に突進する。力任せに得物である斧を振り下ろすが、大振りだったせいか、すんでの所で避けられた。松明の光に照らされて1つの影が飛び出す。逃げるつもりだったのか、暗い中を駆けて行く。
「くそっ!」
斥候が逃げる影に矢を射るが、暗闇の中で逃げ回る影には当たらなかった。その時、ぞっとするような声が墓場中に響いた。
「いでよ亡者……あだなす者どもを仲間に加えろ……破滅の再開!」
先頭にいた残りの松明を持っている影、そいつがネクロマンサーだった。アンジーが詠唱を止めようとするが、間にまだ1人敵がいたようで、攻撃を防がれてしまった。
松明の明かりとは別の暗い炎が僅かに墓場を照らす。その明かりを中心に、墓の下から何かが這い上がってきた。
「あれがネクロマンシー……!」
地面から埋葬されたはずの死体がもぞもぞと這い上がってきた。既に骨も剥き出しで肉体が腐り落ちている者もいる。本当に死者が動いている。悍ましい光景にミックは言葉を失った。
「ひ、ひぃバケモンだぁ!」
おぞましい動く死体を目にして戦士が、敵を目前に恐怖の声を上げて逃げ出してしまった。アンジーだけが死体の群れとネクロマンサーに取り囲まれてしまった。
「アンジーさん!」
ようやくミックも声が出たが、状況は最悪な物だった。死体を操るネクロマンサーの他に2人の敵がまだ残っている。
「ちっ、腰抜けめ!」
アンジーがそう言いながら、相手にしていた1人を切り伏せる。ネクロマンサーの方へ向かおうとしたが、その間を亡者の群れが立ち塞がる。
「てめえらはお呼びじゃねえ!」
間近にいた亡者の1人の胴体を両断するが、残された下半身だけでも立って動き続け、落ちた上半身は這って彼女に向かってくる。そっちに注視していたせいで、戦士が倒し損ねたもう1人も彼女を狙う。
「氷の矢!」
氷魔法は水魔法の一種だ。空気中の水分を集めて鋭いトゲの様な氷の矢を作り出す。残っている2人の敵どちらも魔法を使える、ネクロマンサーは2人いた。
「危ない!」
咄嗟に横へ飛んで、アンジーは背後から放たれた氷の矢を避ける。避けた拍子に氷の矢は直線状にいた亡者に突き刺さるが、それにも関わらず亡者は平然としている。相手は同士討ちしようが関係なく平気で攻撃を行ってくる。亡者に包囲され、魔法攻撃も受けて彼女は四面楚歌状態となった。




