55話
10年前、リサの住んでいる村は魔物に襲われた。その年はドラゴンが現れて、魔物たちが凶暴化している時期だった。本来ならば、冒険者たちが総出で各地の町や村の防衛を行うのだが、リサの村まで人手が回らなかった。村人たちの抵抗も空しく、魔物に蹂躙されリサの両親も目の前で殺された。その時、助けに来たのが今の師匠含めた魔法使いギルドの数人のメンバーだった。魔法の力で魔物の群れを一掃する魔法使いたちの姿が、彼女には救世主の様に思えた。
「生き残りは彼女だけですか。可哀そうに……私が引き取りましょう」
その日以来、師匠はリサを弟子として引き取って様々な魔法を教えてくれた。村と両親を失った時もその力があれば、魔物に恐れる事もなく、平穏に暮らせると思った。しかし、正式に魔法使いになるには魔法使いギルドの敷居は依然高く、例え素質があっても入るのは非常に難しいものであった。本来ならドラゴンによる凶暴化した魔物の討伐も魔法使いギルドが行うことはめったになく、師匠含めた数人のメンバーが善意から行ったものだった。
そんな排他的な魔法使いギルドの在り方を変えたくて、自分が入ったらもっと、庶民にも使えるように魔法を広めたいと思っていた。そうすれば、冒険者の力を借りる必要もなく、魔物に恐れる事もなく皆が安全に暮らせる。日常でも魔法の力を借りられればもっと便利に、快適に過ごせるようになるはずだ。
何より、出会った女戦士の様に冒険者自体が、みんな野蛮で冷酷な人間ばかりだと彼女は思っていた。口を開けば依頼の額が足りないだの、もっと報酬をよこせだの要求する癖に、自分の村が魔物に襲われた時は誰も助けに来なかった事がその理由だ。腕に物を言わせて弱者から搾取しようとするくせに、自分の身が危うくなるとすぐに身を引く。冒険者は誰でもなれるというが、そんな連中の仲間になるのは御免被りたかった。今回は師匠が言ったから仕方なく冒険者を護衛に雇うことになったが、ギルドに入るチャンスであるこの墓荒らしの件は、自分の力で解決したかった。
仲間が必要ならどうして昔みたいに同じ魔法使いギルドの関係者を呼ばなかったのだろうか。そこが少し不思議に思ったが、元々魔法使いギルドの一員がこういう事件に介入する事自体が希なのだ。自分の時の様にはいかないのだろう。しかし、師匠の知り合いならまだ信用できるかもしれない。リサはそう自分を納得させた。これから墓荒らしと直接対面するのだから、雑念は捨てないと魔法の腕が鈍る。いったん、全ての疑問や雑念を捨てて彼女はこの件に集中する事にした。




