5話
東の森は様々な植物が生い茂っている自然の宝庫だ。薬草や果実などは町でも需要があるため、新人冒険者の練習も兼ねて、様々な採取依頼が出ている。危険があると言えば、同じくそれらを狙ってくるゴブリン位だ。一匹なら倒すか追い払う事も出来るが、群れでいた時どう対応するかで冒険者の素質を測るのに丁度いいのだ。
「探してくる薬草は軟膏にして傷に塗る奴か。それを10株……」
町の薬屋でも使われる傷薬の材料になる薬草の採取。それが自分の受けた依頼だ。
「ゴブリンに出会ったらすぐ逃げる。戦おうとしない事。少しでも怪我したら神父様に気づかれちゃうからな」
一応、護身用の短剣はあるが、戦闘の訓練もしたことがないミックではゴブリン一匹でも勝てるか怪しい物だ。せいぜい薬草を刈り取ったりするのに使える程度だろう。
「奇襲だけは絶対受けないように気を付けなきゃ。常に気を配って、油断しないようにすること!」
自分に言い聞かせて森を探索する。奇襲さえ受けなければ、荷物運びで鍛えられた足腰と転ばし魔法で、ゴブリンから逃げる事は容易なはずだ。
しかし、一人になると今までパーティを組んでいた自分は幸運だったことに気づかされる。周囲に気を配る者、魔物や地理に詳しい者、戦闘で前に立ってくれる者。そういう人たちがいた時は自分のやる事に集中できたが、一人になったとたん、それら全て自分で判断しなければならない。冒険者稼業は危険だと分かっていたつもりだったが、自分はまだまだ何も知らず、まね事をしていただけだったのだと思い知らされた。
「孤児院の皆に謝らないとだ。僕なんて全然大したことない子供だって……」
現実に打ちのめされて落ち込んでいたが、何か声の様な物音を聴き取った。鳥の鳴き声や木々が風で揺れる音じゃない。警戒して短剣を取り出す。少し先で日との声の様な物が聞こえた。他の冒険者か? それともゴブリンが仲間に合図を送っている声だろうか。どちらにしても、その主を確かめようと思った。
「あっ!」
目の前に現れた光景に思わず息を飲んだ。目の前で冒険者、恐らく自分と同じく新人の人だ。剣を持って構えているが、その表情は恐怖で今にも泣きだしそうだ。その理由はすぐにわかった。
「グリズリーベア! こんな森にはふつう出てこない危険な魔物じゃないか……!」
まるで大きな岩の様な巨体をした凶暴な魔物。並みの冒険者パーティでも対抗できない危険な魔物だ。それがどうして、こんな場所にいるのだろうか。目の前の新人冒険者は不幸にもこんな危険な魔物と鉢合わせしてしまったのだ。どう考えても戦って勝てる見込みはない。それにグリズリーベアはその巨体に似合わず足も速い。魔法で強化でもしてなければ少し足の速さに自信がある程度では、逃げてもあっという間に捕まり、捕食される。
最早、あの冒険者は助からない。残酷な現実が目の前で起きていた。




