48話
「転ばし魔法?」
思わずリサは小ばかにしたような声を出した。師匠がちらりとこちらを見たため、慌ててかしこまる。
「あまり聞かない魔法ですが、どこでそれを?」
「はい、実は僕、孤児院で育ったんですが、そこの屋根裏から古い魔法使いの書物が見つかって、その書物に練習用の魔法として載っていたのを使えるようになったんです」
師匠がふむと考え込む。恐らく魔法がもっと体系化される以前の初級魔法なのだろう。今では役に立ちそうもない事を魔法で行う事が出来るか、そういう今では不要となった魔法。魔法使いギルドなら興味を持つ者もいるかもしれないが、カイナドには残念ながらギルドの支部はない。
「大した魔法じゃないかもしれないけれど、僕にとっては唯一使える魔法なんです」
ミックはそう言った。だが、相手を転ばせるだけでなんの役にも立たない。精々、一瞬足止めするくらいだろう。だからアンジーという女戦士がいるのだろう。相手の魔物が1匹だけなら、2人がかりで安全に倒せる。そうやって戦いをこなしてきたのだろう。
「ふむ、君の魔法は少し興味深いですね。町に着く間、ご一緒に行きませんか?」
師匠の申し出に一番驚いたのはリサだった。得体のしれない2人組と共にするなんて信じられなかった。
「あたしらは別にいいよ。カイナドの冒険者ギルドに用があるし、魔法使いだけじゃ咄嗟に襲われた時戦えないだろう? あたしが斥候になるよ」
アンジーの魔法使いじゃ戦えないという言葉にリサは少しむっとした。さっきのトロールは自分一人でも充分倒せた。それに、常に意識を周りに配っているのだから不意打ちなんて食らう事はない。この女戦士は魔法使いを見下している。そう彼女は感じた。
「じゃあお願いします、アンジーさん。僕、魔法使いの人から魔法について色々聞きたいことがあったんです。是非道すがらまででいいのでお話してくれませんか!」
ミックは目を輝かせながら期待してリサと師匠の方を見る。彼については聞きたい事もあったので、リサも丁度良かった。
「ええ、構いませんよ。ほんの基礎的な事でしたら、我々でもお話しできると思いますので。いいですね、リサ?」
「私が話すんですか?」
「人に話す事で、自分の考えを整理する事も出来るのです、貴方が何処まで私の教えをおぼえているかを知る機会でもありますからね」
成程とリサは思った。それに、自分が物を教える立場になるのは初めてだ。ちゃんとそう出来るか試してみる価値はある。
「じゃあまず魔法の源流である元素魔法から……」
カイナドを目指しながら、リサはミックに魔法についての講義を始めた。




