45話
「ねえ知ってる? また墓荒らしが出たらしいわ」
「まあ、怖い。つい一週間前に起きたばかりじゃない?」
カイナド地方にある農村、女性の村人2人が文字通り井戸端会議をしているのをリサは聞いた。この世界では珍しい、金髪碧眼の彼女は嫌でも目立つ。しかし、彼女が聞き耳を立てていることを知ってか知らずか、村人は話を続ける。
「死体なんてどこに持って行くのかしら。いずれにしよ気味が悪いわぁ」
「西のカペー地方にはドラゴンが出たらしいわよ。悪い事ばかり起きて私怖い……何とかならないかしら」
やはり墓荒らしが話題になっている。この辺りの村や町で連続して死体が盗まれる事件が起きている。お金持ちなら埋葬品狙いで起きても不思議ではないが、そんな裕福ではない村の者や最近死んだばかりの墓が荒らされる。それが不可解で、こんな村でも噂になっている。
「町の冒険者ギルドで墓荒らしの捕縛依頼が出たらしいわ。これで捕まってくれればいいけれど……」
リサは村の旅籠に急いだ。動きやすい質素な格好だが、きらりと光る耳飾りが彼女の美しさをより高めている。
「お師匠様!」
部屋には壮年の男性がいた。聖職者のローブを着て分厚い聖書に目を通している姿は、高位の司祭を思わせた。しかし、それならばこんな地方の村の旅の冒険者や庶民が使う宿屋に泊まるはずがなかった。
「やはり、ここでも墓荒らしの事が話題になっています」
険しい顔でリサは告げるが、師匠と呼ばれた男性はゆっくりと本を閉じ、彼女の方を向いた。
「町ではついに冒険者ギルドが調査を始めたそうです。私たちも急ぎましょう!」
「落ち着いてリサ。そんなに急く事はありません。その町に行って、実際に調べましょう」
優しく語り掛けるように師匠と呼ばれた男性は答えた。所作の一つ一つが品位を感じられる事から、やはり貴族の様な上流階級の振る舞いを感じさせた。
「今から向かっても、町に着くには時間は充分あります。落ち着いて、でも周囲に意識は集中して……」
作法を教える様な口ぶりで師匠が言った事を、リサは実践する。呼吸は深く、周囲の風の流れや音を全身で感じる。木造の建物が、人の歩みできしむ音。まだ外から聞こえてくる村人たちの噂話をする声。風が吹いて隙間から入ってくる音。
「魔法を使うには自然との調和が不可欠です。自分の中の魔力が空気に溶け込むように……それが自然とできるようになれば、貴方も優れた魔法使いになれます」
冷静に、だけど強い意志が宿った目でリサは頷く。
「さ、参りましょうか。ここから一番近い町は恐らくバーズ町でしょう。そちらへ向かいましょうか」




