43話
アンジーは普段町の安宿の一角を住居としていたが、数日かけて旅の準備を終えた後、そこも引き払った。鍛冶屋が残してくれていた資金のお陰で旅の必需品を買うのに困る事はなかった。結局ドラゴンを討伐したその日に別れてから、ミックと会う事はなかった。彼には彼の道がある。自分とは違う道が。ただそれだけの事だ。
「あのガキンチョの事だ、顔を見せたら僕もついて行きますとか言って聴かないだろうからな。このまま町を出ていくべきね」
子供で、一時的に組んでいただけとはいえミックもかけがえのない仲間である事には変わりなかった。だから、彼の幸福の邪魔になるような事はしたくなかった。
「旅先であたしの活躍が、あのガキンチョの耳に毎回届けばそれで満足さ」
別れの挨拶も出来ないのは少し寂しいが、あの少年に必要なのは自分の様な人間ではなく、神父や親になってくれる優しい人物だろう。出来れば上流階級で学問に関心のある人物が言い。ミックは頭がいいから。
「さ、この町ともおさらばだ」
片手では持ちきれない荷物を抱えて、彼女は住んでいた場所を離れた。町の外に出る間も、もしかしたらミックに会うんじゃないかと思ったが、そんな事もなく、依頼以外の理由で彼女は初めて町の外に出た。野営の経験はあるが、完全にアテもなく旅をするのは初めての事だった。
「ベテラン冒険者のつもりだったけれど、ろくに外の世界も知らなかった。あたしもまだまだって事ね」
冒険者として身を立てて数年、そして10年くすぶっていた自分は、英雄どころか冒険者としてもまだ半人前だったのだと改めて思い知った。
「さて、最寄りの町はと……」
一旦、荷物を置いて地図を取り出す。隻腕だとこういう時不便だ。荷物持ちくらい雇うべきだったか。
「アンジーさーん!」
そう、例えば転ばし魔法の使えるミックの様な荷物持ちを……その時、声が幻聴ではない事に気が付いて振り向いた。
「よかった! 何とか間に合った!」
「ガキンチョ……どうしてこんな所に!?」
「ドワーフの鍛冶屋さんが教えてくれたんです。アンジーさんが町を出て旅に出るって……間に合ってよかった!」
荷物も用意していて、本当についてくるつもりだったのだろう。
「あんた孤児院はどうするんだい!? それに旅に出るなんて神父の奴が許さないだろうよ!」
「はい、だから置手紙を残してこっそり出てきちゃいました。でも、旅先でもちゃんと手紙を送るつもりだから大丈夫です!」
「そんな訳ないって! あんたはあたしと違って自分の道があるだろうが!」




