42話
「遅くなったね2人とも……10年もかかっちまった。でも、ちゃんと仇は取ってやったよ」
そう言って2人の墓前に花を並べた。
「花なんてあたしらしくないかい? こっちの方もちゃんと用意してきたさ」
そう言って、一本のガラス瓶を取り出した。この街でよく飲まれる麦酒が入っている。どこにでもある何の変哲もない麦酒だ。
「依頼で大物を仕留めた時、いつも飲んでた酒場の奴だ。ギルドの薄い奴じゃない、ちゃんとした麦酒だよ」
栓を抜いて2人の墓に麦酒をかける。
「ワイマン、お前は図体は大きい癖に酒は一番弱かったよな。それでいつもジェーンに心配されて……キングスとあたしは気づいていたけど、ジェーンの前ではいつも男らしさを見せようとしてて、結局すぐにぶっ倒れて看病されてた……」
僅かに残った麦酒をアンジーは自分が飲み干して、2人に告げる。
「あたしはこの町を出る。キングスみたいにいなくなるわけじゃない。どこまで行けるか試してみたくなったんだ。冒険者として、この身1つで……」
ぐっと左腕の拳を差し出して見せる。
「まだあんたたちに会いに行けないから、それまで2人で待っててくれよ。あたしの活躍したうわさ話や物語でも聞いてさ」
本当はすぐにでも会いたかった。このドラゴン討伐で本当は2人の所に行くつもりだった。それでも生き延びた。ミックのお陰で。
「もしかしたら、旅の途中でキングスの奴にまた会うかもしれない。その時はあんたたちの分まで殴ってやるから、安心してくれ」
2人の死に、リーダーである自分の不甲斐なさを痛感し、キングスは冒険者をやめてしまった。治療中のアンジーにそれを伝えて彼は行方不明となった。アンジーの方は、2人の仇を取るため再びドラゴンに挑むべきだと主張した。だが、彼の心の傷は彼女が思っていたよりもずっと大きかったのだ。冒険者は何時野垂れ死んでもおかしくない。依頼の途中で不慮の事故で、討伐する魔物に返り討ちにされ、それを覚悟の上で冒険者になったはずだった。だが、ドラゴン相手に怖気づき、みすみす2人を死なせてしまった事に冒険者として失格だと彼は思ったようだ。面目も立たず、町に残り続けるのも死んだ2人に対する罪悪感からだった。
そして、自分もいなくなれば、アンジーはドラゴンに再び挑戦するのを諦めると思ったのだろう。だが、リーダーのキングスがいなくなっても、1人でアンジーは再びドラゴンと戦うためにに居残り続けた。10年もかけて。
「準備を終え次第、この町を出る。そういう訳で達者でな2人とも」
花だけを残して、アンジーは仲間への弔いを終えた。




