38話
ミックたちが町に戻った時、町の方は混乱で湧き上がっていた。戦っていた魔物たちが、急に大人しくなり中には目の前で逃げ出すのもいた事に。これはつまり、ドラゴンがいなくなったことを意味し、どうして急にドラゴンがいなくなったのかその理由を、冒険者たちは理解しておらずまた別の災いの前触れではないかと思っていたからだ。
だが、アンジーがギルドに竜の牙を提出して、その意味を皆が理解した瞬間、その混乱は逆転して歓声と喜びに変わった。
「まさか、本当にドラゴンを討伐するなんて……しかも、たった1人で……」
「1人じゃないよ。この相棒とあたしの2人で、だ」
そう言って、ミックを持ち上げてギルドの職員に見せつける。隻腕の戦士と子供。語られるドラゴン討伐の物語でも、その様なパーティはいなかった。前代未聞の、まさに伝説だ。
「凄ぇぜアンジー! 信じられねえ!」
「ふん、英雄だからアンジー様になるのか? あいつが出来るなら俺だって……」
「オーク相手に苦戦していたお前じゃ100人いたって無理だって! とにかく、あんたら本当最高だ!」
隻腕の鼻つまみ者の女戦士、役に立たない魔法しか使えない少年。そんな2人に今は喝采と羨望の声が雨に様に、冒険者たちから贈られる。
「えへへ、何だか照れくさいや……!」
「これも当然の権利さ。謙遜せず受け取っておきな」
「この件はすぐに、ギルドマスターへ報告します。しかし、あなた方2人ともこの後も大変ですね」
ギルドの受付係がそう言った。ドラゴンを倒した後も大変とはどういう意味なのだろうかミックは疑問に思った。
「どういう事ですか?」
「悪い事ではないですが、これで2人は有名人。本来助力を請うた騎士団やそれを従える領主などのお偉方も、ドラゴンを倒した冒険者に興味を持つはずです」
ドラゴンを倒すほどの実力を持つ人間を在野に残すほど、貴族や騎士たちは無関心なはずがない。彼らから熱心な勧誘を受ける事になるのだ。
「ドラゴン討伐に報酬は出ませんが、そういう名誉が報酬と思って下さい」
「あたしからしたら、堅苦しい騎士団に入ったりするなんて御免だけどね。でも、その名誉はありがたく使わせてもらうよ」
そう言った後、ギルドのホール全体に響く様にアンジーは声を張り上げた。
「ここにいるみんな! これから、ギルドの酒場で好きなだけ飲み食いしな! 全部あたしの奢りだよ!」
さらに冒険者たちが興奮して歓声を上げる。誰もが我一番にと席を取り合い、さっそく併設された酒場の主人に自分の注文を捲し立てる。
「あたし達は用事があるから、後はあんたらに任せるよ」
そう言って、アンジーとミックは騒がしいギルドを後にした。




