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37話

「アンジーさん、無事ですか!?」

「見りゃわかるだろうが……全身火傷を負って今にも死にそうで、無事なわけないって、でも……」

 糸が切れた人形のように、その場に膝をつくが、目にはまだ光があった。ミックを見て、安心したかのように微笑んだ。

「あたしは生きてる。そしてドラゴンに勝った。あたしたち2人で……」

 彼女は本当にドラゴンを倒してしまった。10年前の因縁に終止符を打った。ミックは急いで道具袋から回復薬のポーションを全て取り出す。

「凄いですよアンジーさん! ドラゴンを倒すなんて……!」

「ミック、あんたがいたお陰だよ。見事にドラゴンの反撃を防いでくれた。それがなかったら、あたしにはもうドラゴンに近づく事も出来なかっただろうさ」

「そんな僕なんて全然……でも、アンジーさんは凄いです! そうとしか言えません……!」

 ミックは涙ぐみながらアンジーにポーションを塗る。相当痛いらしく、彼女はその度に耐える声を漏らす。

「ちょっと、もう少し優しく塗ってくれよ。これでも全身がもうすぐ灰になるまで焼けたんだから……」

 耐火マントがちゃんと役目を果たしてくれた。マント自体は燃え尽きたが、こうしてちゃんとドラゴンの火炎から彼女を守ってくれた。

「さて、こいつを倒した証拠はどうやって持って行こうかね。刺さった剣がちゃんと死体から抜けるといいけど」

「証拠なんかなくても僕が証人になります! 本当良かった……!」

 伝説に語り継がれるドラゴン退治をこの目で見た上、自分にとっても両親の仇ともいえるドラゴンを倒してくれたアンジーを、彼は心の底から祝福した。

「まあ、ウロコか牙の一本でも持って行けば、ギルドも信じてくれるかな。魔物の凶暴化もこれで収まるし、本当だったら夜通し宴でもしたいところだよ。けれど……」

 彼女の口から不穏な言葉が出て来た。ミックは歯切れの悪いその言葉に不安になった。

「けれど、どうしたんですかアンジーさん?」

「何でかな、今になって急に涙か出て来た。それに嬉しいはずなのに、前の仲間の顔が頭に焼き付いて、くそっ、何で……?」

 アンジーの目から大粒の涙があふれ、次々とこぼれ落ちてゆく。10年前、出来なかった事が全てを終えた今になって彼女の心の中で大きくなっていく。失った右腕、仲間のワイマンとジェーンの死、そして冒険者をやめて行方不明となったキングス……。

「う、うわああああ皆なんであたしを置いてどっか行くんだよおおおおお! 寂しいよおおおおお!」

 赤ん坊の様に泣きじゃくる彼女を、ミックは抱きしめた。10年も独りきりだった彼女は、ようやく失ったものたちを悲しむ事が出来たのだ。孤児院の子供たちをあやすときの様に、ミックはただ優しく抱きしめてやった。独りぼっちではないと、体温を通して彼女がそれに気づくまでの間ずっと。

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