36話
「ぐああっ!」
激しい痛みにドラゴンが悶絶する。爆発する機能が付いた義手。ドワーフに頼んだ装備の中でも、これが対ドラゴン用に用意した奥の手だった。生命探知には反応せず、耐火性のマントで隠しておき、ドラゴンが噛み付いてきた時に、カウンターを食らわせるとっておき。10年かけてこれらを用意して、ついにドラゴンの懐に肉薄する事が出来た。
「はああああ!」
ドワーフ製の名刀が、固い外殻のないドラゴンの胸元に突き刺さった。ついにドラゴンへ一撃を与える事が出来た。
「うぐぐ……」
だが、まだドラゴンは倒れなかった。前足を振り上げてアンジーを引き離そうとする。
「アンジーさん!」
ミックが転ばし魔法をドラゴンへ放つ。振り上げた方とは反対の前足に。重心が前方にずれて、より剣を喰い込ませるのに丁度いい格好となった。
「ガキンチョ、あんたがいてよかった……信じてたよぉ!」
アンジーも全身で押し込むように剣を深々と突き刺さらせる。狙いはドラゴンの心臓へ、切っ先をさらにドラゴンの体内の奥へ。
「がああ!」
苦しみのあまりドラゴンは雄たけびを上げると、自分の胸元へ火炎を吐き出した。
「来な……こっちは元から相打ち覚悟だ!」
耐火マントで火炎を防ぎながら、彼女も力の限り剣を押し込んでいく。剣がドラゴンの心臓を貫くが先か、アンジーが燃え尽きるのが先か。
「アンジーさん、頑張って……頑張ってください!」
「うおおおおおおおお!」
彼女も雄たけびを上げながら渾身の力で剣を突き刺していく。
「がああ!」
両者の雄たけびが止んだ頃、火炎の勢いで煙幕は晴れ、ミックの前には胸元に向かって大きく口を開いたドラゴンと、アンジーらしき黒い塊がその下にあった。
彼女は生きているのか、すぐに確かめに行きたかったが、ドラゴンも死んだかどうかわからない。確信が持てるまで、ミックは様子を見ていた。
先に動いたのはドラゴンだった。だが、ぴくぴくと震えると、今度は火炎ではなく、ドス黒い粘り気のある液体を大量に吐き出した。これがドラゴンの血なのだろう。そして、その巨体が横に倒れて地面が揺れた。ドラゴンの胸には柄まで深々と突き刺さった剣が残っていた。
「アンジーさん!」
ミックが残された黒い物体に急いで駆け寄る。いくら耐火マントでもドラゴンの火炎の直撃を受けてどれ程耐えられるか分からない。彼女は無事なのか? ドラゴンの血にまみれたそれに触れると、ぱらぱらと表面が脆く剝がれていく。マントがこの状態なら、纏っていたアンジーは……。
「ガキンチョ、そんな近くで叫ぶな……ちゃんと聞こえてるよ」
声とともに黒い塊がバリバリと音を立てて割れて、中から全身火傷を負ったアンジーが姿を現した。ついに、彼女は生きてドラゴンを倒したのだった。




