35話
「ぐるる」
ドラゴンが起き上がり臨戦態勢に入る。まだ10m以上は距離がある。しかし、アンジーはドラゴンの間合いに入ったのだ。そして、彼女はそこから突然走り出した。
「がああ!」
「さあ、行くよ!」
アンジーはドラゴンの手前に向けて球体のガラス瓶を投げた。中には淀んだ色の液体が入っていたが、割れた瞬間激しく煙を吹きだしてドラゴンとアンジーを包み込んだ。煙幕だが、不思議な事に、煙の中で、ドラゴンとアンジーの輪郭が光って映し出されている。アンジーが用意したのは生命探知の魔法が掛けられた煙玉だった。これだけでは煙幕本来の効果である目くらましが意味を成さないが、煙の外にいるミックには意味があった。煙の外からは彼女とドラゴンの姿を見れるが、逆に両者からは離れているミックの位置は分からない。ミックがサポートする場合を想定し、彼がドラゴンの標的にならないための道具なのだ。
「くあっ!」
ドラゴンが激しい火炎をアンジーに向けて放った。まだドラゴンとは数m離れているが、ドラゴンには火炎という攻撃手段がある。火炎が放射される奔流に煙が流される。間違いなく、火炎はアンジーを捕らえ、その高熱を彼女は浴びた。だが、それでも彼女は火炎から身を躱しながら近づいていく。
「もう少しです! 頑張ってくださいアンジーさん!」
アンジーが用意した装備、それは対ドラゴンの火炎を防ぐ耐火マントだった。火山地帯に住むという火ネズミの毛皮を使い、それをさらに魔法で強化した逸品。ドラゴンの火炎の直撃でも、これさえあれば数秒耐える事が出来る。そのわずかな間に火炎から逃れれば、ドラゴンに肉薄することができる。無論、これだけで城が買えるという程の価値がある。10年かけてやっと手に入れて来た、ドワーフの鍛冶師には感謝をしなければならない。
「があっ!」
火炎が効かないと見るや、今度は首を伸ばしてドラゴンはアンジーを嚙み砕こうとする。かつて彼女の右腕を奪った様に。
「食らいたきゃ、もう一回食らわせてやるよ!」
しかし、彼女は逆に右腕を差し出す様に、ドラゴンに向けて右腕を突き出した。これまでなかった肘から先に、今回は義手が着けられていた。先が鋭いトゲのついた鉄球になっている右腕の鉄拳! それをドラゴンの口の中に突っ込んだ。
「がっ!?」
「たんと味わいな! 文字通り弾ける様な味だよ!」
彼女が義手を脱着した瞬間、ドラゴンの口内で義手が爆発した。鋭いトゲが弾け飛んで、ドラゴンの口内をズタズタにする。




