21話
「おい、お客が来たのにこの店はすぐ顔を出さないのかい?」
あくる朝、アンジーは町の鍛冶屋に来ていた。ここは古くから彼女が装備を買いに来ている馴染みの店だ。
「おいおい、鍛冶屋が忙しいのはいつもの事だろう! 今日は妙に機嫌が悪そうじゃないか」
店主が鍛冶場から姿を見せた。煤と貯えた髭でまるで生きた石炭の塊のようなドワーフだ。
「機嫌が良くなきゃ来ちゃいけないってかい? それよりこれが昨日渡しそびれた分だよ」
そう言って、アンジーはオーガを倒した報酬を、自分の取り分の殆どを机の上に放り投げた。
「冒険者共が話してたぞ。ギルドで喧嘩があったらしいが、そりゃお前さんの話だろう?」
「そうだとしたら何だってのさ、私があそこの連中に負けるとでも思ったのかい?」
「隻腕でもお前がここら辺の冒険者に喧嘩で負けるとは思わんさ。それより、まだ本気で考えているのか?」
渡された報酬の金貨を見て、店主が心配そうに尋ねる。
「まだ? バカ言ってんじゃないよ。絶対に『奴』はまた現れる。最近、凶暴な魔物が町のすぐ外で遭遇する。奴が姿を見せる前兆さ」
「例えまた奴が来たところで、本気で一人で勝てると思ってるのか? そんなことしても誰も喜ばんぞ!」
「だから、一人でも勝てる準備をしているんじゃないか。あたしは本気だよ。それを笑う奴がいたら、あたしはそいつを殺してしまうかもね」
ドワーフの店主は、憐れみと呆れの混じった表情をして報酬の金貨を手にした。
「オーガを倒したからと言って、危険な事はするなよ。それと、この金はあくまで預かっているだけだからな。いつでも引き取りに来い」
「そんなつもりはないよ。それよりちゃんと頼んだ物を用意してくれよ」
そう言って、アンジーは店を出た。今日はこのまま間借りしている安宿に帰ろうか迷った。ギルドに行って依頼を受けようと考えたが、昨日殴り倒した冒険者の奴らが仕返しに来るかもしれない。それにガキンチョに会うのも気まずいからだ。
その場でしばらく悩んでいたが、結局彼女はギルドに行く事にした。きっと討伐依頼も増えている。奴の情報も入ってるかもしれない。もしそうなら一秒でも早くその情報を聞きたかったからだ。
そして、ギルドの前まで来た所で足を止める。ギルドの出入り口を不安そうに見ているミックの姿がそこにあった。
「あ、アンジーさんやっぱり来てくれたんですね!」
彼女の姿を確認してぱっと表情を明るくしてミックが近づいてきた。
「ガキンチョ、ずっとここで待ってたのか? 昨日話したばかりなのに……」




