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16話

「ごああ」

 オーガはこちらの事はただの餌だとしか見ていない。逃げない二人を見ても、恐怖で動けないのだとばかりに長い腕を伸ばしてアンジーを捕まえようとする。

「はああ!」

 それを払う様にアンジーが横一文字に手を斬りつける。

「ぐあっ!」

 痛みより獲物が反撃してきた事に驚いたオーガは腕を引っ込める。さっきまでの油断した様子が一変して全身の毛が逆立ち、さらに一回り大きくなったような錯覚をするほど、全身の筋肉を硬直させた。

「ごああ!」

 周囲の空気が震えるほどの雄たけびを上げた。怒りで顔を歪ませるオーガを見てるだけで、ミックはその場から逃げ出したい恐怖に駆られた。

「あ、あ……」

「冷静になりな! あいつはあたしを敵と見なした! あたしは攻撃、あんたは如何にあいつの動きを止めるか考えて魔法を使いな!」

 オーガがこぶしを握る。アンジーがさっき切りつけた手の傷はすでに塞がっていた。オーガは見た目通りの巨体と筋力による強さだけでなく、他の生物にはない高速治癒能力を備え持っている。全身の骨が折れようが、四肢を切り落とそうが、それでもなお動いて敵に食らいつこうとする。そんな怪物を倒すには……。

「があっ!」

 オーガは握りこぶしを乱暴に叩きつける。距離の離れているミックの足元にもその振動が伝わる程の腕力だ。どんな頑強な鎧を着ていても、直撃すれば潰れて原型すらとどめていなくなるだろう。

しかし、元々アンジーは身の守りは最小限、軽装で先陣を切って戦う女戦士。オーガが叩きつけるこぶしの下を潜って、回避と同時に相手に肉薄する。そのまま脇を走り抜ける勢いのまま、大鬼の右足を深く斬りつける。

「ぐうっ!?」

 オーガは骨まで達する深い傷を足に負って、片膝をついた。だが大鬼の高速治癒能力なら、数秒でこんな深い傷も治してしまうのだ。

「転ばし!」

 ミックが叫んだ。今さっきバランスを崩して膝をついたオーガに向かって転ばし魔法をかける。すると、丸太よりも太い左足が後方に跳ねる。

「あがあっ!?」

 両足が自分の意識の外で動いて、その巨体を思いっきり地面の上に倒す。熟練の戦士が数人がかりでやっと転倒させるのをたった二人、しかも一人は子供がそれをやってのけてしまった。

しかし、オーガが倒れる程の大きなダメージを与えたわけではない。あくまでバランスを崩して転倒させただけに過ぎない。すぐにオーガは立ち上がろうと両腕で上体を起こそうとする。

 この一瞬の隙をアンジーは見逃さなかった。

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