118話
立ちふさがる魔物と戦いながら数日かかって、果ての山脈の麓まではたどり着いた。だが、ミックたちの旅はここからがようやく本番なのだ。たどり着く事が目的ではない、ここにいるというドラゴンの存在と、その理由の解明が彼らの冒険の目的なのだ。
見上げれば、ここが世界の果てだと思わせるように巨大な山脈だった。自然が作ったにはあまりにも生き物の息吹の感じられない、人工的な城壁や侵入者を阻む壁を想像させる様に切りたった絶壁や岩壁で出来ていた。ここを登るだけでもかなり骨が折れる作業だ。本当にドラゴンがいるのか事前に聞いてなければ疑うほどだ。
「未だかつてこの山を越えた人間はいないんだろう? この山の向こうには何があるのかねぇ」
「某が聞いた限りでは山の向こうに存在するのは黄金京、死者の国、神々の世界。どれも想像の産物であったな」
過去には調査隊が送られた事もあるらしいが、それもドラゴンによって全滅してるという。故に人間にとってはいまだ未踏の地として、この山脈はそびえたっている。
「あたしたちは今からこの山に挑まなきゃならない。でも、食料の残りを見たら長くても一週間持つかどうかだね。人類が滅ぶとアークメイジのジジイが言っていたが、数年から数十年と当てにならない期間だ」
山を見上げながらアンジーは言う。
「少なくとも生きていればまだ期限はある。だからまずは生き延びる事を考えて、それから魔法使いギルドに情報を送る。無理はしない、いいね?」
冒険者としての鉄則か、アンジーはそう言った。この冒険の目的は討伐なんかではなくあくまで調査だ。自ら危険を冒す必要はなく、如何に情報を持って帰るか彼女はちゃんとそれを把握していた。
「勿論、このオーランド命に代えてもドラゴンの情報を魔法使いギルドに届けるつもり故!」
「オーランドのおっさんはいつも通りだけど、若いあんたらも危険を冒す必要はないよ。わかったね?」
アンジーはリサとミックの方を見て言った。この2人はまだ20にも満たない年齢だ。リサはこの世界では十分大人として認められるが、ミックはまだ13にもなってない。正真正銘の子供だ。
「足手まといと言ってるわけじゃない。あたしやオーランドのおっさんは少なくとも充分生きてきたし、あたしは既に生きていく理由を満たしたんだ。でも、あんたたちにはまだやりたいことがあるだろう? そのためにちゃんと生き延びるんだよ」
ドラゴンとの戦いで仲間を失い、その仇を取ったアンジーの言葉は重かった。実質的にこのパーティをリーダーとしてけん引してきた彼女の命令だ。反対する道理なんて1つもなかった。
「分かりましたアンジーさん。でも、アンジーさんも無理はしないでくださいね。このパーティ全員で調査を終えて帰りましょう!」
アンジーはにこっとミックに微笑んだ。彼女もミックの事を仲間として信頼している。そして、4人は果ての山脈に足を踏み入れた。




