117話
果ての山脈は目前にあるにもかかわらず、ミックたちの旅は困難を極めた。本来果ての山脈付近は魔物が少ない土地だと旅人に聞いていたが、何度も魔物に遭遇する事になった。ゴブリンやオークは敵ではないが、普段から凶暴なオーガやこれまで見た事のない魔物と戦う事も増えた。
「ん、地面が揺れてる……また魔物が迫ってるのか?」
アンジーがすぐに察知したが、周囲に魔物の気配はしない。
「皆の者、その場から離れよ!」
オーランドがそう言って、反射的に全員が飛び退くと地面から突然巨大な蛇の様な魔物が襲い掛かってきた。
「オラァ!」
咄嗟にアンジーが反撃して切り付けるが、傷は浅かったようだ。すぐに魔物は地中に潜る。
「なんだありゃ? 蛇の魔物か?」
「いや、あれはデスワームという虫の魔物。地中を潜航して音で標的を感知する。気を付けるのだ!」
すると、人間を丸のみ出来そうな巨大な口で、地表を抉りながら襲い掛かってきた。
「火炎弾!」
リサが火種に着火してそこから炎の球体を生み出すと、デスワームの口中に火炎弾を撃ち込む。火の玉を飲み込んだデスワームはたちまち爆散して辺りに火花と肉片が飛び散った。
「巨大な芋虫みたいな魔物だったわね……想像しただけで鳥肌が立つわ」
「地中から奇襲してくるなんて、野営中に出会わなくてよかったよ。騎士様が言ってくれなきゃどうなっていた事か……」
オーランドは戦いの腕もアンジーに引けを取らないが、何より魔物の知識が豊富だった。不死の吸血鬼だからか、ミックたちが見た事のない魔物でも、すぐにその種族を当てて有利な情報を教えてくれるからだ。
「某は吸血鬼として数百年生を受けた。その間に様々な魔物を見て来たのでな。人間の血の代わりに魔物の血を飲んだ時もあったが、出来れば二度と御免被る」
吸血鬼にとって魔物の血はあまり好ましくないもののようだ。もっとも、吸血鬼は必ずしも生き物の血を必要としないので、既に血を飲む事自体を本人は止めている。
「魔物は肉も食用にならない事が殆どだからね。出来れば、食料に余裕があるうちに果ての山脈に着きたいところだね」
既に視界には入っているが、魔物との遭遇でなかなか前に進めない。補給の出来そうな村や集落がこの先見つかる可能性もないため、節約しても一か月も持ちそうになかった。
「例え食料が尽きても、私はあんなデスワームの肉を食べるなんて絶対したくないわ」
リサが吹き飛んだデスワームの肉片を見て、身体を振るわせた。
「案ずるな、リサ殿の様な淑女にそんなひもじい真似はさせぬ。もしもの時は某が全力で魔物を美味しく食べられるよう努力しよう」
「その機会が来ない事を祈るわ」
それにはミックも同感だった。




